悠久に馳せる想い
『
佐倉』
「あれ、コエンマ?どうしたの?」
すでに紅も彼が佐倉と呼ぶことに慣れていた。
コエンマと話をしているのだが、彼本人が紅の部屋に居るわけではない。
彼女の部屋に置かれた鏡…そこにコエンマの姿が写っていた。
霊界TVと原理は同じである。
『蔵馬と飛影を妖魔街に送る事になりそうだ』
「……喧嘩売ってんの?」
『待て待て待て!!話は最後まで聞けっ!!』
ピリ…と場の空気を凍らせるように目を細めた紅にコエンマが慌てる。
必死に両手を揺らして彼女を止めるコエンマに、紅は溜め息を漏らして妖気を抑えた。
『ふぅ…。相変わらず蔵馬の事となると見境がないな…』
「どうでもいいわ。それより、最後まで聞かせてくれるかしら?」
今度は微笑みの威圧である。
寿命が縮まりそうだ…と思いながらもコエンマは事の全貌を紅に明かした。
一言も情報を聞き漏らすまいと口を噤む紅。
『自分に有利に事を動かしたければ、どんな些細な情報も取り落とすな』
それは妖狐であった頃の蔵馬から紅が教わった、ほんの一部だった。
「私も行くわ」
『そう言うと思っておったわい。蔵馬には待つように言ってある』
「あら、気が利くわね。悠希!」
紅は立ち上がると使い魔である悠希を呼ぶ。
「佐倉様、ここにおります」
「妖魔街へ行くわ」
「では、私は被害の拡大を防ぐ為に虫の始末をすればよろしいのですね?」
「さすがね、悠希。頼んだわよ」
微笑み、子犬サイズの悠希の頭を撫でる。
悠希は心地よさそうに目を閉じた。
その動作を繰り返しながら、紅はコエンマの方を向く。
「蔵馬は何処で待ってくれているの?」
『それが…』
「ここですよ」
コエンマの声に被さった声。
それは紛れもない蔵馬本人のものだった。
『…どうしても教えろと煩くてしょうがなかったのだ!』
「別にいいわよ。隠していたつもりもないんだから」
慌てて言い訳をするコエンマに紅は苦笑を浮かべる。
そして、その視線を部屋の壁にもたれている蔵馬へと向けた。
「すぐに出発できるの?」
「ああ。紅の準備が整い次第いつでも」
「わかった。すぐに準備するわ。じゃあね、コエンマ」
そう言って紅はこちら側から通信を切ってしまう。
「ねぇ、蔵馬」
振り向いた紅の視界に、一輪のバラを持ち上げる蔵馬の姿が映った。
花瓶の中に活けてあった、決して枯れる事のないバラ。
それを手に取り、蔵馬は微笑む。
「まだ持っていてくれたんだ?」
「…当たり前じゃない…」
「嬉しいよ。っと…少し元気がないな」
蔵馬がバラに手をかざせば、花びらの色がより鮮やかになった。
さすがはこのバラの持ち主と言った所だろうか。
「さて、準備は?」
「完璧」
「じゃあ行こうか。幽助たちだけでは少々荷が重い」
「相手が相手なだけにね…」
そうして二人も妖魔街へと急いだ。
「また知らない人が居る…」
腐餓鬼にてこずっているのを見ると、蔵馬と飛影は先に跳び出して行った。
その後をのんびり歩いてきた紅が開口一番そんな事を言い放つ。
「お!紅までいるのかよ!!」
彼女の姿を視界に捉えた幽助の顔に笑みが浮かぶ。
紅もにこりと微笑み返した。
「今度は美人の登場かー!?おい、浦飯!!紹介しろよ!」
「ああ、紅ってんだ。こう見えても妖怪なんだとさ。んで、紅。こいつは桑原!」
「妖怪!?」
警戒するような素振りを見せる桑原に、紅は笑顔のまま肩を竦めた。
「安心して。あなたが蔵馬を傷付けない限りはこっちも手を出さないから」
「蔵馬ぁ?」
そう言って彼は蔵馬と紅を交互に見やる。
二人の繋がりの見えない桑原は首を傾げた。
「桑原くん。紅は俺の恋人なんだ。だから手を出さないように」
「こ、恋人!?ほぉー……ここまで美男美女のカップルも珍しいな…」
妙な所に驚いている桑原だった。
そんな彼を押しのけ、飛影が紅の前に出る。
「おい、お前」
「紅。もしくは佐倉。私を呼ぶ時はどちらかでよろしく」
きっぱりとそう言い放つ紅に飛影が舌を打つ。
飛影を前に怯えない辺りはさすがだな、と蔵馬たちは思った。
「…ん?………佐倉…?」
「ええ」
確認するような視線を向けられ、紅は素直に頷く。
「『血の要塞』を持つと言われる結界妖怪の佐倉か?」
「…飛影」
答えたのは紅ではなく蔵馬だった。
制するような視線を向ける蔵馬に、飛影はワケがわからんといった表情を見せる。
ちなみに人間二人組みは話の輪に入れず蚊帳の外だ。
「紅の前でそれを言わないでくれ。後が大変だ」
「…は?」
「彼女がそう呼ばれるのを嫌ってるんだ。紅の機嫌が悪くなる」
「!?ひ、飛影!今後絶対に言うな!!」
“紅の機嫌が悪くなる”と言う言葉に、幽助が慌てて飛影の説得にかかる。
ますますワケがわからない飛影だったが、幽助のあまりの勢いに思わず頷いてしまった。
「…紅?」
「何、蔵馬?」
「いや…大丈夫か?」
「ええ。安心して。機嫌が悪くなるって事はないわ。まぁ、嫌いな事に変わりはないけど」
安心させるように微笑む彼女の表情が作り物でないと悟ると、蔵馬は人知れず安堵の息を漏らす。
そうして、五人は漸く迷宮城へと向かって足を動かし始めた。
「ところで、幽助」
「何だ?」
「随分紅と馴染んだみたいだな?」
「あー…まぁ…」
「幽助は幻海師範の所で修行してたでしょう?だからよ」
「(紅~っ!!余計な事を!!)」
「へぇー…幻海師範のところで」
「あ、ああ」
「紅、何もされてない?」
「?もちろんよ?」
05.07.16