文化祭 4
「なぁ…これは俺の目の錯覚か?」
「多分ちゃうで?」
暁斗は一枚の紙切れを指に挟んで穴が開くほど見つめていた。
心なしか、その肩が揺れている。
「何で2日目の日程が丁度土曜日なんだよ!!!!」
教室に、ここ一週間で何度目かの暁斗の怒鳴り声が響く。
事の発端は本日配られた文化祭クラス別催し物表だった。
サボる事なく教室にいた暁斗はそれを前の席から受け取る。
そして、面倒そうにその用紙を一瞥した。
上から下までざっと通すように読んでいって、目に付いた数字。
『日程 8日(金)、9日(土)』
何気なく上から下へと移動させていた目をその場所で止める。
「2日目………土曜日?」
食い入るように用紙を見つめる暁斗に、成樹が不思議そうな視線を送る。
彼女はその部分を指差して後ろに座る成樹に問いかけた。
「なぁ…これは俺の目の錯覚か?」
「多分ちゃうで?」
暁斗は一枚の紙切れを指に挟んで穴が開くほど見つめていた。
心なしか、その肩が揺れている。
「何で2日目の日程が丁度土曜日なんだよ!!!!」
教室に、ここ一週間で何度目かの暁斗の怒鳴り声が響く。
土曜日という事は普通は学校は休み。
そして、一般解放となるのは土曜日 = 他校生が集まる。
「頼むから女装は1日目にしてくれ!!!」
「雪耶くん……………残念だけど、それは聞けないわ。2日目の方が来客が多いんだもん」
文化委員に頼み込むもあっさり却下。
しおれて自分の席へと戻る暁斗の肩を成樹が叩く。
「諦め。知らんかった暁斗も暁斗やて」
「じゃあ、成樹は覚えてたのかよ」
「もちろん。今の用紙見て知ったんやで?」
きっぱりとそう告げられて、暁斗の口からは本日何度目かの溜め息。
ここまで彼女が断固として嫌がるのは珍しい事だ。
不思議そうに首を傾げつつ、彼は問うた。
「何でそないに嫌なん?」
「………………………」
「話さへんだらわからへんで?」
暫く沈黙を保っていた暁斗は、やがて諦めたようにはぁ、と短く溜め息を吐き出した。
それから重い口を開き、説明を始める。
「翼たちが来るんだよ……」
「は?」
「だから…!翼たち。あいつらが文化祭を見に来るんだよ」
「翼て……飛葉の姫さん?」
思い出すように、確認するようにそう問う成樹に、暁斗はただ一度頷く。
それからだらりと背もたれに背中を預けた。
「そう。っつーか、それ言うと翼怒るぞ?」
「そんな事気にせんでええって。せやけど…別にええんちゃうん?」
「嫌に決まってんだろー……。おまけに翼とは前に紅として会ってる」
声を潜めて暁斗が言った。
確かに暁斗は以前成樹との賭けに負けて紅に戻っていた事があった。
その時に翼と出会っているのだ(番外編:夏祭り参照)
それでもって紅は翼に気に入られている。
一度会っただけならまだしも、今度も成樹と共に会うことになれば疑ってくださいといっているようなものだ。
「………ま、大丈夫やて」
「こんのお気楽野郎が……っ」
「ほ、本気で怒らんでもええやん!」
その後、拳を振るわせた暁斗に成樹が本気で焦っていたのが教室で目撃されている。
「せやけど……何で知ってるん?」
「勝負……負けたから」
「負けたって……暁斗が?珍しいなぁ…体調悪かったん?」
「言っとくけど、4対1だからな。ベストコンディションじゃなかったし。……………ま、これは言い訳だけど」
暁斗が金槌で釘を打ちつける。
慣れた手つき…と言うほどではないにせよ、戸惑いながらの作業ではない。
そうした作業姿と言うのは良く見えるもので、クラスメイトの女子が手を止めては慌てて自分の作業を進める。
指先に針を刺してしまう子もしばしば。
そんな彼女らの行動に気付いていないのか、気付いているけれど今回は何かをするつもりはないのか。
暁斗はコンッと釘を打ち終えてから口を開く。
「この間の休みに一緒にフットサルしたんだよ。そん時にさー…」
『なぁ、桜上水って今度文化祭あるんだろ?』
『ないぜ?』
『嘘ついても無駄だってわかってつくんだね?』
『………はいはい。ありますよー』
『いつ?』
『教えない』
『……………いい度胸してるね。じゃあ、今日のフットサル。負けたら言いなよ』
『はぁ?俺はそんな勝負しないし』
『敵前逃亡?暁斗らしくないね。勝負しないなら力ずく。っていう手もあるけど…………・・その方がいいの?』
『……………』
「―――と言うわけだ」
「それは災難やったなぁ」
「飛葉中の奴らに集中攻撃。アレではさすがの俺でも動けねえって」
半ばやけくそにも見えるような表情でコンコンと金槌を打ち付ける。
それでも乱雑なつくりにはならないような、細心の注意を払っているのだから何とも器用だ。
その上に作業速度も速い。
当日働かされる予定の暁斗と成樹が、誰よりも早く手伝いした看板を仕上げてしまった。
「成樹ーそっち終わったか?」
「おう。完璧やで~。俺と暁斗の合作!」
「…流石に、上手いな。んじゃ、看板は完成だ」
二人が作っていたのは文化祭中に客引きの為に校舎内を歩き回る時に使うプラカード。
すでに彩色まで済まされ完成しているそれを見て、まだ途中の男子生徒が感心したような視線を向ける。
特に修正もなさそうだと判断すると、暁斗はガランッと工具を箱の中に戻して軽く身体を伸ばす。
「喫茶の方も順調に準備できたみたいだし……オッケーだな」
「文化祭はいよいよ明後日やなぁ、暁斗」
「明後日はいいんだよ、明後日は」
「問題は土曜日やろ?」
「そうそう」
「ま、俺も協力したるて」
「期待しないで待ってるよ」
「…素直でええわぁ、ほんま」
文化祭まであと2日。
Rewrite 07.09.12