文化祭  2

「暁斗ー?何暗くなっとんねや?」
「お前なぁ……当たり前だろうが!もし脱げって言われたら……っ!!」
「やだ、雪耶くんったら。さすがに脱げだなんて言わないわよ?脱いでくれるなら私達は大歓迎だけど」
「「…………………」」

耳ざとく二人の遣り取りを聞きつけた文化委員の女子生徒がにっこりと笑う。
よく分からないけれど、逆らえない雰囲気があったとだけここに記しておこう。






「次!シゲちゃんサイズ測ってもらって!その次は雪耶くんだからね!」

テキパキと指示を出す実行委員たち。
家庭部の協力も得ているらしく、大量のメジャーが教室を行き交っている。
数字の飛び交う教室の中で、暁斗は自分の机に座ってグラウンドを眺めていた。

「(女装…ねぇ…)」

まさか、そんな物をさせられる事になろうとは。
確かに、男子生徒が女装して喫茶のウエイトレスをするなど…奇想天外と言えば奇想天外。
とんでもない計画を立ててくれたものだと思う。

「雪耶くーん!ご指名よ!!」
「ういーす…」

やる気ゼロの返事を返して、暁斗は机から身体を離す。
名前を呼ばれた方に歩いていけばメジャーを片手に目を輝かせている家庭部員。
これには暁斗以外でも溜め息をついただろう。

「じゃあ、学ランは……って着てないわよね。腕上げてー」

素直に腕を上げれば胸の辺りを一周する目盛り。
その数字を大雑把に読み取ると横に置いてあった紙に数字を記入する。
衣装は上だけで、下は制服を使うらしい。
暁斗にとっては、腰周りを測られなかった事は幸いなのかもしれない。
いくら中学生と言っても男女の体つきが変わり始める年齢だ。
その部分の数字に違和が生じてもおかしい事ではない。

「あら、やっぱりバランスの取れた体つきしてるのね」

胸囲やウエスト、腕周りなど必要な部分全てを測り終え、数字を見た家庭部員の一言。
その言葉に、暁斗は、はは…乾いた笑いを返す。

「雪耶くん、終わったなら看板作りのほうに回ってくれない?人手が足りそうにないの」
「あー…了解」

そっちの方が何倍も嬉しい。
心中でそう答えながら、学ランに袖を通しつつそちらへと移動する。
せわしなく動き回る生徒達。
どうやらクラス全体が乗り気のようだが、特に女子の気合の入り様がすごいらしい。
半数ほどはウェイター、ウェイトレスとしての仕事らしいが、もう半数は準備に追われるようだ。

「もうかってまっか?」
「ボチボチでんな……いい所に来たじゃねぇか、手伝え」
「暁斗…条件反射で答えとるやろ…」
「どっかの関西弁の奴とは短い付き合いじゃないもんで」

男子生徒と頭をつき合わせて看板の材料を考えていた暁斗の所へ測定を終えた成樹がやってきた。
右手に金槌、左手に釘。
そんな男らしい格好で出迎えた暁斗に、成樹は心中で溜め息を零す。
多分、彼女は違う性別で生まれてきていたとしても、十分に世の中を渡っていけたと思う。

「しゃーないなぁ…手伝ったるわ」
「そうこねぇとな。なぁ、こんだけでいいか?」

手に持っていた釘を打ち終えると、暁斗は金槌を所定の位置に戻してパンと手を叩く。
それから、近くに居た看板担当の男子生徒にそう問いかける。
彼は首をこちらに向けて暁斗が持っている物を確認し、頷いた。

「おう。釘とかは多めに頼むぜ」
「了解。じゃ、行くぞ」

暁斗が成樹の首根っこを掴んで引き摺っていく。
やや強引な彼女に、素直に従いつつ成樹が問う。

「えっと……どこに連れてかれるんでしょ?」
「買出し。…の荷物もち。俺一人で行けってか?」
「そんなん他の奴に行かしたらええやん!」
「俺らが一番暇なんだよ」

暁斗の答えに成樹は教室内を見回す。
確かに、皆何かしら役割を担って動いている。
その辺のお手伝い、となっている自分達よりも忙しいといっても過言ではないだろう。

「……俺、裁縫得意やで?」
「俺だってできるっつーの。自分の着る衣装を自分で作るのか?」

彼女に言われて想像してみる。
自分はまだしも、彼女の場合は女装する衣装を作らなければならないのだ。
自分が作った衣装で女装―――暁斗が眉を顰めて言うのも無理はない。

「……………ま、看板作る方が楽しいわな」
「だろ?」
「ほな、行きましょか」

半ば付き合いで、と言う事になるけれど、暁斗を一人で向かわせるほど薄情な人間でもない。
何より、彼女とクラスメイトの手伝いを天秤にかければ、悩む間もなく彼女の方に傾く。
肩を竦めて答えた成樹に、暁斗はニッと口角を持ち上げて笑った。










フラッシュの飛び交う教室。
文化祭が始まったわけではない。

「……………なぁ、君ら何を撮ってるわけ?」
「「「「「雪耶くんとシゲちゃんですっ!!!」」」」」

女子生徒が一斉に答える。
いつの間にカメラを用意したんだ、などと言う疑問は、この際だから水に流しておこう。

「俺らはパンダか…?」
「あー…今なら動物園のパンダの気分がようわかるなぁ…」
「俺、これからパンダをじろじろ見るのはやめる事にするわ」
「それ、賢明やと思うで」

原因は言わずと知れた暁斗と成樹であり、衣装合わせと言う本日の予定の所為でもある。
あまりにも教室に人が殺到しすぎるために、窓という窓には新聞紙を貼ってあるくらいだ。

「しっかし……暁斗よう似合っとるやん」
「いや、お前こそ」

暁斗の方も、今日はまだ女装ではなく、ウェイターの服装。
銀の髪は後ろで青いリボンにより一本に縛り、背中に流してある。
同じく成樹も金髪を一つに束ねていて、それを赤いリボンでとめていた。
割と長身の二人が並べば………教室が騒がしくなるのも無理はない。

「暁斗くん!ちょっとこれ持ってくれない!?」

そう言って渡されたのはソーダの入ったグラスを乗せた銀トレイ。
それを持って顔を上げれば、無数のフラッシュが彼女を襲う。

「……………眩しくて目が開けらんねー…」

「ホストみたいっ!!」
「雪耶くんこっち向いてぇー!!」

とりあえず、止む事のないフラッシュに向けて笑みを作ってみる。
途端にきゃー!と騒がしくなる教室内に、暁斗は心中で苦笑を零した。
そんな彼女とクラスメイトの女子を遠巻きに眺める男子陣はと言えば。

「格好良いよな、確かに」
「ああ………羨ましい通り越して恐ぇよ、女子の迫力が」
「暁斗が今にも取って食われそうな勢いだな、おい」
「…何だかんだ言って、暁斗もポーズ決めて遊んでやがんのな」
「あー…ポーズまで様になってるなんて、詐欺じゃねぇの?」
「ってか、向こうでシゲまでポーズ決めてるな」

自分達も衣装合わせしているんですけれど、と言って割り込む勇者は、このクラスには居なかった。

Rewrite 07.09.08