文化祭  1

「……もうすぐ文化祭です。このクラスでは奇想天外な出し物をしたいと言う案が出ています」

文化委員が教台に立ち口を開く。
それを聞いたクラスメイトの表情が、何とも形容しがたい物へと変化した。







「…………………誰だよそんな案出した奴は…」

思わず呟いた暁斗に、成樹がククッと笑う。
珍しくこの二人が教室にいた。
しかも5時間目と言う、昼食後で一番眠くなる時間帯に、だ。
とても珍しい事なのだが、二人が気まぐれなのは今に始まった事ではない。
珍しいなぁ、と思いつつ、クラスメイトはいたって平然とそれを受け止めていた。

「あー…文化祭とかかったりぃ…」
「そう言うなや」
「屋上が恋しー」
「たったの一時間やないか。しかもHRくらいええやん」
「暇だって。サッカーしてぇ…」
「放課後できるっちゅーねん」

やる気が全く出ない様子の暁斗に、成樹は苦笑交じりの笑いを向ける。
自分もあまり変わりないのだが、彼女がこうなので突っ込み側に回ってしまっているだけのことだ。
そうしている間にも話し合いは進んでいたらしく、文化委員が一際大きく声を上げた。

「………それから佐藤くんに雪耶くん!二人は強制参加ってことでよろしくお願いしまーす」
「……は?」
「……強制、参加?」

二人でぼそぼそと話している間にHRは進んだらしい。
暁斗は横に座っている風祭に問いかけた。

「何するんだ?っつーか、強制参加って何」
「聞いてなかったの?喫茶店だって」

事も無げにそう答えた彼に、暁斗は何だ、と安堵する。
もっと酷い事をやらされるのかと思った、と成樹と顔を見合わせて肩を竦めた。

「何や、もっとけったいな事させられるんかと思たやん」
「や……でも…暁斗くん、女装だよ?」
「…………………は?」

彼の言葉に暁斗は慌てて前の黒板を見る。
確かに暁斗と成樹、二人の名前は白いチョークで書かれていた。
暁斗の名前の下には、取ってつけたように赤いチョークで『女装』と書き記されている。
この際、その女装と言う単語がやたらと上手い事などどうでもいい。

「ちょっと待て!!何で俺が女装しなきゃならねーんだ!!!」
「雪耶くん。クラスの9割以上の賛成で可決されたわよ」
「9割って……賛成しすぎだろ、お前ら!!男が賛成すんなよ!」

ガタンッと派手に音を立てて立ち上がる暁斗。
にっこりと笑顔で返す文化委員。
9割と言えば、男女の人数にあまり差のないクラスなのだから、当然男子の賛成があったということだ。
男装中の身である暁斗としては戻すだけなのだが、それを隠しているのだから彼女は男だと思われているはず。
と言う事は、同性の者からの賛成もあったと言う事で―――。
「見たかったから」「絶対似合う」などの意見が飛び交う教室内。
似合えば誰でもいいのか―――暁斗ははがっくりとうな垂れた。

余談だが、賛成しなかったのは話を聞いていなかった成樹、暁斗、そして暁斗に遠慮した風祭だけである。












「何でお前は女装じゃないんだよ……」
「さぁ?俺が女に化けてもおもろないからちゃうか?」
「俺が女装しても面白くねーよ!!」
「ネタ的には十分価値有りやで!」
「ふざけんな……」

グッと親指を立てる成樹に、暁斗はこめかみをピクリと引きつらせた。
ちなみに喫茶店と言うからにはウェイトレス。
さすがの暁斗もスカートをはかされるのは勘弁してくれと頼み込んだおかげでスカートは免れた。

「バレたらどうすんだよー……」
「大丈夫やて」
「何が悲しくて男装中に女装しなきゃなんねーんだよ……」
「そらー…別嬪やからやろ?」
「嬉しくねー」

ゴロン、とコンクリートの上に身体を転がす。
憎らしいくらい真っ青な空が、より一層近づいたような気がした。

「暁斗ー。そんなに考え込まんでも俺かて助けたるって」
「………期待しないでおくよ」
「酷いわぁ…」
「………………頼んだからな」
「おう」

その時、屋上のドアが勢いよく開かれる。
その勢いと言えば、壁にぶつかったドアが跳ね返ってくるほどだ。
油断していた暁斗と成樹は面白いくらいに飛び上がる。

「雪耶くん!?」
「ぅあ、はい!」
「衣装のサイズを測るわよ!!」

油断していた暁斗の発した奇声に声を上げて笑う成樹。
それを聞き流した文化委員は彼女を引き摺っていく。

「シゲちゃんもサイズ測るんだからね!!」
「はいはい…」

少し面倒そうに立ち上がると、成樹は二人についていった。
機嫌悪そうに自分を睨む暁斗に苦笑を返しながら。


さてさて、どんな文化祭になる事やら。

Rewrite 07.09.07