Soccer Life   STAGE--47

初めは一人だった。
共に追う者がいて。
隣にいて欲しい人も出来た。
だからこそ、私はこの場所が好きなんだ。












「カザッ!!!」

フィールドに伏した風祭。
誰よりも速く、暁斗が彼に駆け寄った。
暁斗よりも近くにいた選手は何が起こったのかわからない。
ただ、暁斗だけが一人顔を青くして声を荒らげる。

「カザ…っ。馬鹿野郎…こんなになるまでするなんて…っ」

そう言いながら、暁斗は手際よく風祭の足を固定する。
集まってきた誰もがその行動に感心した。
暁斗はそんな視線にも動じる事無く、すぐ傍らに駆けつけた玲を見上げる。

「玲さんっ!」
「わかってるわ」

担架に乗せられた風祭はそのまま病院へと運ばれる。
選手達がどうして言いかわからず狼狽している間に事は済んでしまった。

「試合は一旦中断します!追って知らせますから待機していなさい」

玲の声がフィールドに響くと、選手たちは金縛りが解けたように動き出す。
それぞれの監督達が離れた所で集まって何やら話し込んでいた。

「暁斗!」
「…?あぁ、翼?どうしたんだ?」

行き成り名前を呼ばれた暁斗はキョロキョロと視線をめぐらせる。
そして、自分を呼んだであろう人物を見つけるとそちらに歩み寄った。
見るからに機嫌の悪い翼。
その傍にはいつものメンバーが佇んでいた。
あぁ、いい内容ではないなという事は、彼らの表情で分かる。

「何?」
「ちょっと来てくれる?」
「話ならここで聞く」

場所を変えたそうな翼だったが、暁斗はその場に留まったままだった。
翼の痛いほどの視線を受けている暁斗だったが、そんな物はどこ吹く風だ。
本人よりも近くにいる柾輝たちの方が何やら怯えている。
機嫌の悪い翼ほど怒らせたくない人物は暁斗を除いて覚えがない。

「……じゃあ、ここで話してもいいんだ?」
「何を話すつもりか知らないけど…どうぞ」

そうは言ったが、暁斗には大体わかっている。
あえてそう答えたのだ。
翼は溜め息をつくと、話し始める。

「どう言う事?あの試合は」
「…普通だろ?」
「飛ばしすぎ」
「あぁ、それは認めるよ。短時間でケリをつけたかったからな。まぁ、無理だって事はわかってたけど」
「そんな事して…っ!将の二の舞になったらどうするつもりだったんだよ!」

珍しく声を荒らげる翼に、周囲の視線も次第に集まってくる。
風祭の一件が、よほど応えたと見える。
普段の冷静な翼は片鱗も見当たらず、そこには己を風祭に重ね合わせた少年が居るだけだ。
そんな彼に対して場違いな笑みを浮かべて、暁斗は答えた。

「やめるだけだ。サッカーを、な」
「暁斗!?」

暁斗の言葉に、東京選抜メンバーが驚く。
誰よりも……他のメンバーの誰よりも上手かった暁斗がそう言った。

「あの阿呆…」
「シゲ?」

成樹の呟きに、井上が問いかける。
だが、彼の視線は井上へと向けられる事無く、真っ直ぐに暁斗へと向けられていた。










「現に、俺はちゃんと途中で抜けただろう?自分の限界はわかってるさ」
「そう言う問題じゃない!お前は…」
「おい、翼?落ち着けって…」

柾輝が止めたところで、今の翼は止まりそうにない。
あんな風祭を目の前にしたのだから、翼の気が立っているのも無理はなかった。
話し合いから戻ってきた玲が翼の異変に気づく。
只ならぬ様子と、その言動から彼女は最悪の事態を脳裏へと過ぎらせた。

「翼!止めなさいっ!」
「お前は女だろっ……!!」

玲の声も空しく、翼の声が広いフィールドに響く。












誰も言葉を発しなかった。
玲でさえかける言葉が見つからない。
ただ一人、暁斗だけが口元の笑みを深めた。

「へぇ…やっぱりお前知ってたんだ?」

何か、そんな気がしてたよ。
暁斗の答えに、一同が驚きを隠せない。

「暁斗…?何の冗談だよ?」
「まぁ、信じられないのは当たり前だな。今までずっと男だと思ってきた仲間が女だなんて」

御伽噺だって、こんなどんでん返しを用意したりはしない。
冷静と言うよりはどこか諦めにも似た態度を見せる暁斗は、ふと視線を彷徨わせる。
そして、自身の視界の中に金髪を納めると、ニッと口角を持ち上げた。

「成樹!」

集団の中からそう声を上げる。
東京選抜の面々だけでなく、他選抜も集まってきていたので暁斗は埋もれていた。

「あー…ホンマに…」

面倒な事をさせてくれるわ…などと呟きながらも、その声を無視するつもりはない。
呆れたように溜め息をつき、その集団の中へと入っていく。

「こんな所に借り出さんとってや」
「悪い。お前以外に思い浮かばなくってさ」
「東京選抜の監督さんでもよかったんちゃうん?」
「……………………」
「もうええって…要するに忘れとったんやな。変なところで頭回らへんねやから…。で?」
「全部…って言うか、本当の事を教えてやってくれよ。俺が言うよりも効果あるだろうし。
まぁ、お前の言葉に信憑性があるかは微妙だけどな」

そう言って笑えば、「ほっとけや」と暁斗のコメカミにコツンと拳を当てる。
それに力を込めて彼女を少し脇へと移動させると、成樹は集った面々に視線を向けた。

「何から説明したらええんか…まぁ、要は今聞いた話は全部ホンマやっちゅーことやねんけど…。正真正銘の女や」

改めて暁斗を前に引っ張り出しながらそう言う。
皆に言葉はなかった。
不信感溢れる視線が今度は玲に向けられる。
そんな視線の数々に苦笑を漏らすと、玲は大きく頷いて見せた。

「コーチ補佐として選抜に参加した雪耶暁斗は女よ。本名は雪耶紅。皆もよく知っている雪耶雅晃選手の娘」

玲の声は不思議なほど、音の無いフィールドに響いた。

Rewrite 07.08.19