Soccer Life   STAGE--46

『頼んますわ、お父ちゃん!!後生や!俺は今サッカーに賭けたいねん!戦いたいやつがおるんや!!』

本気だと分かってもらうには、言葉だけでは足りない。
そう思わせてしまうほどに、ずっと逃げてきた自分。
これは今までの行動のツケなのだ。
自分が払わねばならない…越えなければならない、壁なのだ。
それでも―――

『フィールドで待っとるやつもおる!一人で全部抱え込んで…一人で戦っとるやつが!』

選べる道はそう多くはない。
成樹の脳裏に、他の道は浮かんではいなかった。
ここで認めてもらうしか、彼女と同じフィールドに立つ手段はない。
何度頭を下げようとも、これしかないのだ。
家を出て行った息子は、帰ってきたかと思えばずっと会って居なかった自分に向かって頭を下げる。
そんな息子の姿は、父親の目にどう映ったのだろうか。






「試合に出る…?」

玲は驚いたように、けれどもどこか悟っていたような表情でそう問い返した。
見透かされているような、そんな大人の視線が暁斗へと注がれる。
しかし、それから逃げる事をせず、暁斗は正面から彼女を見据えた。

「決めたいんだ。自分の事だから。だから……試合に出でたい」

フィールドで待っていると伝えた。
その約束を果たし、成樹は今関西選抜に残っている。
今度は、自分が彼との約束を果たさなければならない。
彼と同じ場所に立つ事で、何かが得られるような気がした。

「…雪耶さんから言われたわ。あなたが出ると言ったら出してあげてくださいって」
「父さんが…?」
「初めから出なさい。ただし、あなたの判断で交代すること。わかったわね?」
「――――っはいっ!!」

ありがとうございます、と頭を下げた。













ザッと芝生を踏む。
向かい合う二人の表情は、実に清々しいものだった。

「初めてだな」
「せやな」
「何か新鮮だよ、お前が敵として前にいるなんて…な」

お互いに笑みを浮かべて、その拳をぶつけ合った。
それ以外に言葉は必要ない。
会話は…この試合で、十分だ。


ホイッスルが響く。
目の前に立つのは、かつては共に駆けた仲間。
だが、今は敵として対峙する。
それぞれの思いを載せて、今ボールが動き出した。





暁斗と成樹が同時にボールに向かって走り出す。
先にボールに触れたのは暁斗だった。

「俺の勝ち」

ニッと口の端をあげると、暁斗は持ち前の速さとボールコントロールを生かして成樹から離れる。
前方から迫ってきた二人のDF。
それを前にして、暁斗はスピードを落すどころか逆に速める。

「「!」」

一瞬だった。
踵で上げ、頭で再度ボールを上げる。
自分達の頭上を飛び越えていくそれに触れることは適わない。
慌てて振り向いた時には、すでに暁斗がボールをキープしてゴールへと走り出していた。
味方すら追いつけない暁斗に、初めて彼の試合の動きを見た関西選抜の選手が動けるはずもない。
慌てる事が小さなミスを引き起こし、簡単に暁斗を通してしまう。
吸い込まれるように、ボールはネットを揺らした。
試合開始から僅か一分後の事だった。

「あの子…一体どれだけ成長するの…」

玲が驚愕の表情と共に呟く。
これまでトレセンに来てから、暁斗は一度も試合には出ていない。
それなのに、目を見張るような成長を見せていた。

「すっげ―――っ!!暁斗、また上手くなったんじゃないか!?」
「そーかぁ?ま、俺もお前らが練習してた時に遊んでたわけじゃないって事だ」

仲間に囲まれながら、暁斗は屈託のない笑顔を見せる。
数試合ずっと見ているだけだった、その鬱憤を晴らすかのようなプレーだ。
それでも、目を惹き付けるには十分すぎる。

「でも…」
「ん?」
「俺らにも回せよな!!暇じゃん!!なぁ、風祭?」
「え?あ、うん」

藤代の勢いに負けて、風祭は首を縦に振る。
そんな二人の様子に苦笑を浮かべると、暁斗も頷いた。

「了解。こっからはちゃんと回すよ」

そう答えると、暁斗は二人に背を向けてポジションに着いた。
前には成樹。

「自分…だいぶ出し惜しみしとったんやな」
「さぁ?お前も同じ事だろ?さっき手を抜いただろ。俺の実力を見るために」
「…さぁ、何のことですやろ?」
「さぁ、次はお前の番だぜ。俺をがっかりさせてくれるなよ」

口元の笑みを深めると、暁斗はボールに集中した。










実力を見せたのは暁斗だけではなかった。
DFを振り切り、GKの意表を突いて。
ゴールにこそ結びつかなかったものの、そこに確かな実力を見せ付ける。
お互いがお互いを挑発しあい、二人の争いは激しさを増した。

「いい加減に諦め…ろって!」
「それはこっちの科白やでっ!」

ヒラリヒラリとかわす暁斗と、そこからの攻めを防ぐ成樹。
二人の攻防に、他の選手が中々踏み込めなかった。

「カザ!」

背中越しに、暁斗は風祭を呼んだ。
それに反応して、彼は暁斗の真後ろを走る。
パスを防ぐために風祭と暁斗の間に入る成樹。
だが、暁斗はボールを跨ぐと正反対の方へと足を突き出した。
ボールはフリーだった藤代の方へと向かう。

「!」

読んでいた、とばかりに成樹が自分の足でボールを弾いた。
そこで、暁斗はニヤリと笑う。

「アシストありがと」

成樹の足元から弾かれたボールを、ワンタッチで右方向へと飛ばす。
そこに、待ち構えていたように風祭が滑り込んだ。
見事に彼へのパスが通る。
風祭がボールを持って走ると、暁斗はその場で足を止める。

ただでさえ、暁斗は自分のスキルを生かす為に他の選手以上動いている。
暁斗とて自分の身体を知らないわけではない。
無駄な動きをするわけにはいかなかった。

「くっそ…情けねー…」

軽く弾んだ呼吸はすぐに整う。
その場で顔を上げると、暁斗は前方で繰り広げられる攻防に目を向けた。










自ら道を切り開いて行く者。
それを見て自分をごまかすのをやめた者。
他人に自分の存在意義を見出す者。

そして…方向を変えて自らの道を進む者。

「竜也の奴…全然動けてないじゃないか…」

ミスするわけではないが、いつもとは比べ物にならないほど動きが悪い水野。
明らかに成樹を意識してしまっている水野に、暁斗は溜め息をついた。
暁斗の方は身体への負担も思ったほどではなく、試合は後半戦へ。
前半早々のように一人で攻めに向かうような事はしなかった。
ポジション的にはFWだが、暁斗は全員のサポートに回る。
的確な判断と守りから攻めへの移動。
それらが新たな追加点へと繋がっていった。
だが、それで負けているような関西選抜ではない。

「攻撃重視のゴール量産型ね…」

味方のネットが揺れる。
そう呟くと、暁斗は監督席へと歩き出した。
そんな暁斗に、玲が逸早く気づく。

「玲さん…」
「わかったわ」

この時、玲は気づいた。
暁斗の顔から試合前の思いつめた表情が消え去っている事に。
微笑を浮かべて頷くと、玲は選手交代を宣言する。

暁斗がフィールドを離れた。


自分の荷物からタオルを取り出すと、それを頭から被る。
軽く弾んだままの呼吸を整えるべくベンチに腰掛けた。

「決まったのね」

玲が試合から目を逸らさずに言う。

「はい」
「その道は辛いわよ?」
「それでも……全力で進みますよ。俺が、もう一度この場に戻るために」
「…あなたの笑顔が戻って嬉しいわ」

その時だけ視線を暁斗に向けて微笑む。
暁斗も笑みを返した。


辛い道だと言う事はわかっている。
それでも、もう一度。
この場所へと戻るため。
そのためだったら何だって出来るような…。

そんな気がするんだ。

Rewrite 07.08.17