Soccer Life STAGE--45
風すらも味方に付け、東京選抜は見事に勝利を勝ち取った。
晴れ晴れとした表情でフィールドを駆け回る選手達に、暁斗は目を細める。
「嬉しそうだな」
いつの間に隣に立っていたのか、雅晃が暁斗に話しかける。
「ああ」
「行きたいか?あそこへ」
視線すら交えず、話を続ける。
暁斗もフィールドから目を離さずに答える。
「…行けるものなら…とっくに行ってるよ」
声のトーンを落とした暁斗に、雅晃が目を向ける。
だが、暁斗の視線は彼の方を向く事はなかった。
「暁斗…と雅晃さん?」
後ろから声がかかる。
関東とは違うイントネーション。
先に反応したのは雅晃の方だった。
「成樹!久しぶりだなぁ!!元気にやってるか?」
「ホンマ久しぶりですわ。こっちも相変わらずのんびりやってます。雅晃さんの方も順調みたいで」
「おう!」
「この間のハットトリックおめでとうさん。テレビで見とりました。おめでとうオーラ届きました?」
「残念ながら。けど、さんきゅーな!…………って…あれは海外のだから…日本じゃ深夜だっただろ?」
「そんなん…徹夜に決まっとるやん」
何やら話の弾み始めた二人を横目に、暁斗はフィールドへと歩き出した。
もちろん、二人がそれに気づかない筈はない。
暁斗が離れると、雅晃が真剣な表情に切り替えた。
「で、君から見た紅の様子はどうだ?」
「…元気あらへん。…何や厄介な事で悩んでると思ってんねんけど…ちゃいます?」
「………当たらずとも遠からず、だな」
仲間と笑いながら言葉を交わす暁斗。
だが、その笑顔にはどこか影があった。
むろんそれに気づいている者はいない。
「俺は……聞いたらあかん事やろか…」
「時が来れば…君になら話すだろうな。誰よりも信頼している君になら」
雅晃は暁斗を視界に捉えたまま、そう言った。
「次は……成樹の関西選抜とだったな」
「決勝やからなぁ…。暁斗が出られへんのは残念やけど…「出るよ」」
成樹の言葉を遮って、雅晃が声を発する。
驚いて成樹が彼を見やる。
雅晃は、笑っていた。
「きっと、あの子は出るよ。君との試合で、自分の答えを導き出すために」
「雅晃さん?」
「だから……君は自分の全てで導いてやってくれ」
それだけ言うと、雅晃は成樹の言葉を待たずにその場を去った。
「東京選抜の監督…西園寺さん…でしたか?初めまして、沙良から話は聞いています」
「雪耶さんですか?」
「紅の事で、少し時間をいただけませんか?」
「ええ、もちろん。皆!各々昼食を取って頂戴。午後の試合のための集合時間は厳守!解散!!」
選抜選手が返事をしたのを見届けると、玲は雅晃を連れて建物内へと入っていく。
建物の一室を借りた玲は、雅晃を椅子へと通した。
「どうぞ、お掛けになってください」
「ありがとうございます」
「それで…暁斗…いえ、紅の話とは?」
玲も雅晃の正面に座って話を促がす。
一枚の紙を玲に手渡し、雅晃は話す。
「今日付けでサッカー協会に申請を提出しました」
「それは…」
「通るかどうかはわかりません。頭の固い連中もいますし…。でも、できる限りあの子の為に動くと決めましたから」
「私にも何か出来る事はありますか?あの子を…紅の実力は埋もれさせるにはあまりに惜しい」
「多くの方の署名が必要です。しかも、Jリーグ経験者なら尚の事」
肩から提げていた鞄の中から、大き目の封筒を引っ張り出す。
そして、それも玲に渡す。
中身を確認すると玲は大きく頷いた。
「わかりました。私の知り合いの署名も募ります」
「それから…決勝の事ですが、あの子が出るといったら出してやってくれませんか?」
雅晃の言葉に、玲が目を見開く。
大丈夫なのか?と言う思いがありありと見て取れた。
返事を待たずに、彼は続ける。
「最後だけでも。この試合で、紅は道を決めるでしょうから。
それに…直接見てもらえば他選抜の監督にも署名をいただけるでしょうし」
「…わかりました」
「ありがとうございます」
「暁斗」
「あ、翼。どうしたんだ?」
「そっちこそ。いないと思ったら先に来てたんだ?」
「ああ。スタジアムに移動って事は聞いてたからな。朝食食べた後すぐに」
ベンチに座る暁斗から少し離れた所に、翼も腰を降ろした。
「次の試合…どうするの?」
「………さぁな」
「まさか、最後なのに出ない…なんて事はないだろ?」
「どうすっかな?負けそうだったら、って手もあるし」
笑いながらそう答える暁斗に、翼は溜め息をついた。
明らかに本心で話していない暁斗を前に翼は一際真剣な表情を見せる。
「無理できないってこと、玲に聞いた」
「…へぇ…よく教えてくれたな」
「口止めされなかったから、って言ってたけど?」
そう問いかける彼に、そう言えばそうだった、と思い出す。
自分から彼女の元へと聞きにいく者まで止める必要はない―――そう判断したんだった。
自分の事なのに忘れてしまっていた暁斗は、自嘲の笑みを零す。
「いつ………俺たちに話すつもり?」
翼が小さい声でそう問うた。
暁斗は一度肩を揺らすが、その表情を見せぬように視線を固定する。
「さぁ……どうなるだろうな。玲さんに呼ばれてるから俺は行くぜ。翼も遅れんなよ」
ヒラリと背中越しに手を振って、暁斗はその場を立ち去っていく。
その背中を、翼が黙って見送った。
「わかってる。時間がない事も……私に選択肢がない事も」
抱えるものは大きく、時には押し潰されそうになる。
それでも、暁斗は立ち止まる事を選ばない。
その先に自分の進むべき道を見出すために。
笑顔の奥に隠した思いを、まだ今は誰かに伝える事はない。
だから、今だけは彼らと笑っていたい。
Rewrite 07.08.16