Soccer Life   STAGE--44

「これより準決勝九州選抜対東京選抜の試合を始めます」

審判の号令と共に、両選抜の選手が並んだ。
そして、試合始まりのホイッスルがフィールドに響く。






「雪耶!」
「はい?」

松下が暁斗を呼んだ。
試合を見ていた暁斗が松下を振り向いて返事を返す。

「お客さんが来ている。行ってきなさい」
「お客…?」

隣の玲に許可を求めるように視線を送る。
玲は何も聞かず、ただ頷いた。

「…行ってきます」

そう言って、暁斗は建物へと走り出した。








「すみません、東京選抜の雪耶ですけど…」

受付にそう声をかけた。

「ああ、雪耶さんですね。一階奥の応接室でお待ちです」
「ありがとうございます」

場所を聞くと、暁斗は応接室へと足を向けた。






「失礼しま…す……って…父さん!?」

扉をノックすると、中からの返事を聞いて暁斗は応接室へと足を踏み入れた。
そこにいたのは、昨日海外から帰って来たばかりの筈の父親。
暁斗の姿を捉えると、その顔に笑みを浮かべる。

「よ!久しぶりだな」
「久しぶり……じゃなくて!何で父さんがこんな所に…」
「悪いな。この資料をどうしても届けておかないと、と思って来たんだ」
「資料…?」

暁斗は父親、雅晃の向かいの椅子を引いて腰を降ろした。
机の上に置かれた封筒に手を伸ばす。
そして、中に入っている書類を走り読みした。

「締め切りは三日後。悩んでいる暇はあまりないと思ってな」
「…ありがと」

数枚に及ぶ資料に目を落としながら、暁斗はそう答えた。
どこか沈んでいて、けれどもしっかりと返事を返す彼女に、彼は暫し沈黙する。

「……で、足の方はどうだ?」
「うん。別に問題はなし。普通に練習する分には、な。ただ……あれから一度も試合してないんだ」
「お前は無茶しすぎだ。男と同じ…いや、それ以上のトレーニングをしていたなんて初耳だぞ」

咎めるような声に、暁斗は苦笑を浮かべて頬を掻いた。
束になった書類をクリップで挟みなおして、封筒の中に戻す。

「ごめん」
「本っ当に俺の子だな…お前は」

そう言いながらも、雅晃の表情は優しかった。

「選抜はどうだ?」
「すっげー面白い。個性的な奴らが集まってるから試合見てても面白くって…」

暁斗が目を輝かせて語りだす。
そんな暁斗の視線からの試合の様子を、雅晃は時折相槌を打ちながら聞いていた。

「今試合中だろう?九州選抜の奴らは中々強いぜ?」
「ああ。ガタイもいいし………って、何で父さんが知ってるんだよ?」
「俺が向こうで教えたから」

さも、それがどうした。とでも言うように、雅晃が言った。
それに、暁斗は溜め息を漏らす。

「それでマンツーマンね。父さんの好きな戦術だっけ?」
「おう!個人のスキルが要求されるからな!」
「俺の仲間が苦労するっつーの」
「若い頃の苦労は買ってでもしろってな。ところで、お前は行かなくてもいいのか?」
「突然来といてよく言うよ…」
「お前にとっては選抜よりも大事な事だろ?」

そう問うてくる雅晃に、暁斗は頷いた。
少し厚みを帯びた封筒に視線を落す。
その中には、暁斗の将来を左右するであろう紙切れが入っている。

「…どの選択が正しいかなんて、進んでみないとわからないんだ」
「……わかってるよ。もう…答えは出てる」
「そうか…。とにかく、それの返事は選抜が終わってからにしろよ。
今の選抜中の気分だけで決断すると後悔する事になるかも知れないからな」
「うん」

その時、フィールドの方から前半終了のホイッスルがかすかに聞こえてきた。
二人でその音の聞こえた方を向き、それから顔を見合わせる。

「そろそろ行けよ。いつまでサボるつもりだ?」
「サボってないし…。父さんはこのまま帰る?」

封筒を手に立ち上がりながら、暁斗が問う。
雅晃は少し悩む素振りを見せた。

「用事はこれと言ってないけどな」
「じゃあ、少し試合を見ていくか?」
「…それも面白そうだな。未来の日本代表諸君を見ていくか」

子供のような笑みを浮かべると、雅晃も同じく立ち上がった。
こうしてサッカーの話をする時には輝くような表情を見せる。
父親のはずなのに、こんな子供のような表情を見せる彼が、暁斗は好きだった。
小さい頃から追いかけてきたのはこの背中だったなぁと、後ろを追いながら思う。

「あ、でもあんまり目立たないでくれよ。皆の集中力が途切れるから」
「そんなんで途切れる集中力ではまだまだだな」
「……超有名なサッカー選手を前にして集中できるサッカー小僧がこんな選抜に残れるかっつーの…」
「そうか?一人いたぜ?俺を見て行き成り勝負を持ちかけてきた奴が」

雅晃がニヤリと口の端をあげて暁斗を見やる。
その視線を受けて、彼が誰の事を言っているのか瞬時に理解する暁斗。

「ま、そう言う肝っ玉の据わった奴が未来の息子になれば言う事なしだよなぁー。俺、あいつ気に入ってんだよ」
「気色悪い笑顔って言うか、嘘くさい笑顔って言うか…」

父親とは思えない発言に、暁斗は再び溜め息を漏らした。
二人で並んでフィールドへと足を運ぶ。











「雪耶?」
「「はい?」」

苗字を呼ばれて、雪耶親子が二人で声を合わせて答えた。
二人に返事を返され、声をかけた方が返事に困る。

「悪い。雪耶雅晃の方だ」
「って……榊!?お前こんな所で何やってんだ?」
「相変わらず失礼な奴だな。昔と全然変わっていない」

雅晃の様子に、榊が笑顔を見せた。

「お互い老けたなぁ…」
「当然だな。ああ、暁斗くんは先に行っても構わないよ。お父さんを借りても構わないかな?」
「もちろんですよ。では、先に失礼します」

そう言って暁斗は東京選抜のメンバーのいる場所へと走っていった。

「彼…いや、彼女がお前の自慢の子供か…?」
「ああ。身体を壊してでもサッカーが好きらしい」
「……間違いなくお前の血縁者だな」

榊と雅晃の視線が、仲間と戯れる暁斗を優しく捉えていた。

Rewrite 07.08.13