Soccer Life STAGE--43
「俺も、話があるんだ」
暁斗が改まってそう言った。
東京選抜は順調に勝ち進み、決勝まであと一試合となっていた。
対関東選抜戦は後半戦3-0で東京選抜の勝利。
勝ちあがってくるかと思われた東海が東北に負けた。
二回戦は東北選抜対東京選抜。
これも、途中危うい場面は見られたものの無事に勝ち進む。
この試合で得た物は大きかった。
双方共に、大きく成長した試合だったと言えよう。
そして――――東京選抜は次に九州選抜との試合を控えていた。
「順調やん。さすが暁斗のチーム」
「あれはあいつ等の頑張りだよ。試合に出てない俺が関係するわけないだろ?」
受け取った缶ジュースもプルタブを持ち上げれば、プシュッと音がして口が開く。
液体を喉に通しつつ、紅は空を仰いだ。
「んで、竜也と何話してた?」
暁斗が視線をやらずにそう問う。
成樹は一瞬目を見開き、そして口元に笑みを浮かべた。
「小言言われてん」
「嘘付け。どっちかって言うと……竜也を悩ませるのはお前の方だろ」
視線だけ成樹の方を向けてそう言い切った。
そう断言する暁斗に酷いわぁ、などと答えつつも、それを否定しない成樹。
「たつぼんは良くも悪くも頭固いからなぁ……悩みすぎやで」
「誰もがお前みたいになれねぇって。特に、竜也は困惑してる。お前が……“藤村”になってる事で」
「……せやなぁ…」
先ほどの暁斗と同じように、今度は成樹が夜空を仰いだ。
トレセンに参加した選手に与えられている自由時間。
己を磨く者もいれば、身体を休める者まで様々。
「まぁ竜也の事は本人が解決するしかない。
俺に関係があるのは、何で成樹がこんな所に呼んだのかって事だけだな」
そう。
暁斗は今日の東北戦の後、成樹に呼び止められたのだ。
『フリー時間にあの場所で』
短くそう言われ、答える間もなく成樹は自分の選抜の所へと戻っていった。
もっとも、断るつもりはなかったが。
そんな訳で、こうして二人で並んで腰を降ろして夜空を見上げているのである。
「まさか天体観測の為に外に借り出したとか言わねぇだろ?」
「さすがにそれはあらへんって」
空になったジュース缶を自分の隣に置くと、成樹は暁斗を見た。
いつになく真面目な表情に、暁斗も口を閉ざして言葉を待った。
「暁斗に……いや、紅に話があってん」
紡がれた名前に、暁斗は視線だけで辺りを探る。
他に誰もいない事を確認するそれ。
一年以上に亘る男装生活の間に身についたものであった。
「……何の事だ?」
普段ならば人がいないことがわかれば口調を戻す所。
だが、この場がトレセンの場であった事を忘れてはいなかった。
「いつまで続けるん?」
「!」
目を見開く暁斗に構わず、成樹は続ける。
「限界はあるやろ…このまま続けられへんねやったら、意味もあらへん」
他の誰かにそう言われたなら、間違いなく殴っている。
『出しゃばるな』そう言って怒る所だろう。
だが、それをしないのは成樹だから。
唯一無二の親友だから。
事情を知っている彼だから、素直に聞く耳も持てる。
「…何が言いたい?」
「いつ皆にばらすつもりや?って聞いてんねん」
最後まで騙し続けるのか。
そう含んだ言葉に、暁斗は口の端をあげた。
「そのうち、話すよ。全部な…」
まだ何か言いたそうな成樹だったが、髪を掻き揚げると口を閉ざした。
何かを考えるように、暁斗は前方に見えるフィールドに視線を固定する。
その横顔はどこか儚さを見せた。
「俺も、話があるんだ」
「何や?」
「卒業を待たずに、暁斗は消えるから」
隣で成樹が驚いているのがわかる。
けれども、暁斗の目はフィールドをじっと見つめているだけだった。
「……やめるん?」
やっと出てきた言葉は、何の飾りもない言葉だった。
驚きに掠れた声。
暁斗は苦笑を浮かべる。
「そう言う事…だな」
「いつ?」
覗き込むようにして聞いてきた成樹に、ようやく暁斗が視線を向ける。
見惚れるような笑みを浮かべて、ただ一言。
「秘密」
それ以上問うことは出来なかった。
たった一人の部屋で、紅はベッドに横たわる。
シャワーをしたばかりで水気を含んだ髪が、自由にシーツに流れた。
肩を超えるあたりまで伸びた髪を、指先で弄る。
唇から漏れるのは溜め息だけだった。
「消える…か」
溜め息と共に零れ落ちた言葉。
限界が近い事は、自分でもよくわかっている。
だから、そろそろ潮時と感じていた。
暁斗が消えて、紅に戻る。
たったこれだけの変化でも、紅にとっては大きな変化だった。
「楽しかったんだよな…本当に」
楽しかった。
何も考えずに、友人とボールを追いかけていた時は。
あの時はまだ子供で…。
好きだと言う事実だけで、十分だった。
中学の時も、そう。
辛くなったのは――――
「将来…か」
このまま続ける事は出来ない。
ならば、紅に出来る事は……。
「ごめんな、成樹…」
ここにいない人物に、心から謝りたい。
全てを伝える強さを持たない自分。
情けなくても、それが今の自分。
「選抜が終わったら…暁斗も………紅も消えるから」
明るすぎない部屋灯の光を遮るように、腕で目を覆った。
Rewrite 07.08.08