Soccer Life   STAGE--39

フィールドに出ると、一つのゴールに集まっている集団に近づく。
自分の東京選抜の一団だと言う事がわかったが、暁斗は特に関心を示さなかった。
集団の横を抜け、ゴール付近に立つ二人の人物の傍へと寄る。

「成樹!」

癖のない金髪がサラリと揺れ、暁斗の方を向いた。
同時に、集まっていた風祭、水野、藤代、不破がやや驚いた表情を見せた。
特に、風祭と水野。
そんな彼らの反応を気にする事なく、暁斗は成樹に駆け寄った。

「やっぱり残ったんだな!」
「当たり前やろ!俺を残さんで誰を選抜に残すんや?」

自信満々にそう答えた彼に、暁斗はそれもそうだ、と笑う。
彼の実力を知っているからこそ、それが自分と並ぶくらいのものだと知っているからこそ、頷ける。

「ほな、約束は守ったってや」
「ああ、了解。今度また家に来るだろ?そん時にな」
「藤村!誰なん?紹介してや」

成樹と会話を続ける暁斗の横から、成樹と同じく関西選抜のジャージに袖を通した男子が声をかけた。
暁斗が誰だ?と言う視線を向ければ、成樹が思い出したように「あぁ」と声を上げる。

「こっちは吉田光徳。関西選抜の一人や。んで、ノリック。これが話してた俺の相棒。名前は雪耶暁斗やで」
「よろしく。俺の事は暁斗でいいよ」
「ほな、ぼくの事はノリックでかまへんよ。よろしゅう」

お互いに笑顔で握手を交わす。
何だか柔らかく笑う奴だな、と思った。
屈託のない笑顔、とでも言うのだろうか。

「君の事は藤村から聞いてたわ。思ったより男前やな!」
「さんきゅ。………一体どんな事を話してたんだ、成樹」
「さぁ?もう忘れたわ」
「…ま、それはいいとして…。成樹、後ろで固まってる奴ら、何とかしろよ」

暁斗は顎で自分の後ろに立つ四人を示す。
そんな様子に、成樹はふっと笑みを見せた後、風祭たちに向き直った。
彼らとのやり取りの間、暁斗は一切口を挟まずに黙っていた。

「藤村が一緒にサッカーしたい奴がおる言うてたけど…」
「ああ、それはあいつの事だよ。風祭将って言うんだけどさ」

ススス、と近寄ってきた吉田が声を潜めて暁斗に話しかける。
暁斗もまた、やや声を落として答えた。
別に聞かれたくないわけではなく、彼らの邪魔をしないようにと言う配慮からだ。

「あの小さい子?小回りが利きそうやな」
「結構ちょこまかしててやりにくいぜ?どんどん上手くなってる」
「ふーん…。僕が思うに……君のことやないの?」
「俺…?」

吉田の言葉に、暁斗は驚いたような視線を向ける。
すると、彼は「せや」と頷いて見せた。

「あの子の話も出てきたけど……一番多かったんは暁斗のことやで。
戦いたいんはあの風祭って子やろうけど…同じフィールドに立ちたいんは…」

その続きは、あえて言わなかった。
口に出してしまうと何だか軽くなってしまうような気がしたからだ。

「……そっか…」
「…嬉しくないん?」

短く答えた暁斗に、吉田が不思議そうに首をかしげた。
暁斗はそれに苦笑を返す。
そして、何も答えずに今一度彼らの方へと視線を投げた。

「さて…俺はそろそろいくよ。監督にも呼ばれてるし」
「そうなん?」
「んじゃ、また後で」

ヒラッと手を振ると、暁斗はフィールドを出るべく足を動かす。
成樹を追い抜かすときに、小さく囁いた。

「ガイダンスの後、西館の外の非常階段で」

彼が頷いたのを見て、暁斗はそのまま背中を向けて歩き出す。















各選抜の選手が集る一室は、やや温度が高くなっているようにも感じられた。
限られた空気を奪い合うこの空間は、独特の緊張感に包まれている。
そんな中、次々にアシスタントスタッフの紹介が行なわれていた。
そして、最後に、スッと椅子から腰を上げた人物に、選手の驚きに似た目が向けられる。

「東京選抜からコーチ補佐として、雪耶暁斗。トレーニング以外は、東京選抜監督の補佐に当たる」

司会を勤めるスタッフの紹介により、暁斗は頭を下げた。
何十と言う視線を一身に浴びながらも、それに臆すことなく堂々とした態度を崩さない。
自分に自信がなければ出来ないことであった。
彼らの驚きは、同年代の者が補佐とは言えスタッフとしてこの場に居る事だろう。
暁斗と同じ東京選抜のメンバーは、聞かされていなかったという事実に対して驚いている。
彼女の実力は、自分たちが身をもって知っているのだから、今更それを疑う事はない。

「暁斗…」

ただ一人、成樹だけは驚きではなく困惑のそれを浮かべていた。
その小さな声は、隣に居た吉田にさえ届かない。

「ひゃあー…凄いなぁ、暁斗。コーチの補佐するなんて、めちゃくちゃ上手いん?」
「…上手いで。俺と同じか、それ以上や」
「ふぅん…これは期待出来そうやな」

彼の言葉に何とか返事を返しつつも、脳内では情報整理に追われている。
だが、数分後には諦めていた。
自分であれやこれやと考えても、結局は真実にはたどり着けない。
後から本人に聞くのが一番―――そう、思いなおしたらしい。









ガイダンスが終わり、最後のほうで部屋を出た暁斗が廊下を進んで数分後。
彼女は見知った自選抜のメンバーによって足止めされていた。

「どう言う事か説明してくれない?コーチ補佐になるなんて、聞いてないんだけど?」
「玲さん…じゃなくて、西園寺監督が推薦してくれたんだよ。んで、黙ってたのは…面白いから」

多分な、と告げる。
黙っておいてね、といわれれば頷くしかないのだ。
彼女のはとこである翼は、ちゃんとそれを理解したらしい。
まったく…と額に手をやってから、改めて暁斗を見た。
だが、彼が何かを言う前に、暁斗が口を開く。

「悪いけど、これから用事があんだよ」

そこを退いてくれないか。
そう言った暁斗の目は、どこか鋭い。
思わず口を噤んだ彼らを一瞥して、暁斗は空いた空間からその身を滑らせた。
そして、焦るわけでもなく、かと言って遅いわけでもない足取りで進んでいく。

「…暁斗…何か、変じゃなかったか?」

誰かの言葉に、メンバーは言葉なくただ一度だけ頷いた。

Rewrite 07.07.16