Soccer Life   STAGE--29

試合は瞬く間に進んでいった。
いや、時間の流れが変わったわけではないのだから、ちゃんと45分プラス45分の筈。
驚くほどに早く終わったように感じたのは、それだけ集中していたからだろう。
要は感覚的な問題だ。

「なーんか…寂しいよなぁ。優劣がつくのって」

ミーティングまでの時間を過ごしていた暁斗が、小さく呟いた。
色々な人から誘いがあったけれど、結局暁斗が選んだのは一番に声を掛けてきたユースの三人組。
改めて考えるとこの三日間、彼らと過ごした時間はかなりのものだったと思う。

「そーか?俺は優劣がつけばやる気が出るけど?」

そう答えたのは食事を頬張った若菜だ。
もごもごと頬を動かす彼は、どこか小動物を思わせる。
尤も、動き出せば小動物と言うよりは元気な犬の方が似合っているが。

「だってさ、折角皆頑張ってるんだし…どうせなら、合格したいじゃん?」
「仕方ないよ。全員が全員プロになれるなら、そもそもプロなんて言葉が必要ないんだから」

確かに、全員が全員願い通りにプロとしての道を歩むことが出来るならば、そんな言葉は必要なくなる。
同時に、アマチュアと言う言葉もこの世界からは不必要なものとなってしまうのだろう。

「それに、上手い下手に関わらず合格されたら、俺達が迷惑するじゃん」
「そうだよな。結局は尻拭いみたいになりかねないし」
「まぁ、それは確かに…」

一理ある、と暁斗は頷く。
そして、ストローを差し込んだグラスからジュースを吸い込んだ。
もう残りが少なくなっていた所為か、ズズッと行儀の悪い音が響く。

「いい機会なんじゃない?下手な奴はいくらやったって無駄なんだから…落ちれば、諦めもつくでしょ」
「わーぉ。痛烈なお言葉」
「…馬鹿にしてる?」
「とんでもない。ちゃんと、それが英士の優しさだって分かってるよ」

ただ好きだからと我武者羅になるのもいいだろう。
だが、成果が見えない限りはいつか諦めなければならない時が来るのだ。
全てが円満に解決していくなど、二流漫画のような事はありえない。
諦める機会になるのだ、と言う彼の言葉は、彼なりの優しさでもあると思った。

「しかし…余裕だね、君達」

まだ合格が決まったわけではない筈なのに、それを案じた様子を見せない彼ら。
そんな彼らに、暁斗は肩を竦めながらそう言った。

「落ちるわけないし?」
「心配するだけ無駄でしょ」
「…ま、当然か」

当たり前のようにそう答えた彼らに苦笑する。
後半は殆ど交代が言い渡されなかった。
だが、彼らの動きを見る限り、目に見えて調子が悪い様子はなかった。
寧ろ調子が良く、全力を出せていたと思う。
彼らを合格させるか否か、と言う問題でこんなにも時間を取る筈がなかった。

「…随分時間掛かってるよな…」

ポツリ、と暁斗が呟く。
それに反応して、三人が顔を見合わせた。

「ほら、あいつだろ?暁斗と同じ学校の」
「風祭将、な。ま、それだけじゃねぇとは思うけど…あいつも、話題にはなってると思うよ」

いい意味で、彼は選手らに大きな影響を与えた存在だった。
小柄な身体の中に溢れる「諦めない」という心が、それぞれの心に響いたのかもしれない。

「暁斗はどう思う?」
「さぁな。合格すりゃ嬉しいけど…別に、落ちてもあいつはあいつだと思うよ」
「合格するとは思ってないの?」

意外だ、とばかりに僅かに目を見開く郭に、暁斗は苦笑を返す。
合格する、なんて無責任な事、本人ではないのに思えるはずがない。
それを口にすれば、三人からは、暁斗らしい、と言う笑いが零れた。

「そう言えば、暁斗って今後はどうなるんだ?」
「どう、って何が?」
「ほら、先に合格したんだし、何かないのか?」

なんて言えばいいのか分からないが、兎に角何か特別な役職がついたりはしないのか、と言う事らしい。
数少ない情報からそれを導き出した暁斗は、うーんと悩んでから玲の言葉を思い出す。

「選手兼コーチ補佐、だったかな。確か」
「結局コーチ補佐は兼任するんだ?」
「そうらしい。あ、でも選抜が本格的に動き出す頃には、監督補佐になるかもしれないって言ってたな」
「監督補佐!?あの監督の?」

そう言って真田が思い浮かべたのは、きっとAの指示をしていた尾花沢だろう。
彼の下で暁斗が補佐をする姿がどうにも頭に思い浮かべられず、怪訝な表情を浮かべてしまう。
どちらかと言えば…あの西園寺コーチの方が合ってる、心の中でそう思った。

「俺としてはあき…じゃない、西園寺コーチの方がいいんだけどな。まぁ、やれって言われればどっちでもするさ」
「暁斗ってあのコーチと仲良いよな。知り合いなのか?」
「うん。前から知ってる人。結構良くしてもらってて…姉みたいな人だな」

彼女と一番初めに会ったのは、いつのことだっただろう。
もう何年も昔の事で、よく覚えていない。
第一印象が「綺麗な人」だったと言う事は、彼女だけの秘密だったりする。
因みにこれを本人に言うつもりはない。
恐らく墓の中まで抱えていく事になるだろう。

「暁斗の友好関係ってかなり広いよね」

暁斗の返事を聞いた郭が小さく呟いた。
どこか呆れを含ませた声色に、彼女は苦く笑う。
否定しない辺り、自分でも自覚はあるのだろう。

「武蔵森の連中とも知り合いみたいだったしな。飛葉中もそうだろ?」
「あぁ。飛葉の連中とは、フットサル仲間なんだ」
「なぁ!フットサルって、強い奴とかいんのか!?」

ズイッと身体を乗り出してそう問いかけてくる若菜に、暁斗は迷いなく頷く。
自分が飛葉連中と組んで試合をして、あまり負けた事はない。
だが、それでも勝てないメンバーはやはり居るものだ。
経験の差なのか、チームワークの差なのかはわからないが。
それを話すと、若菜の興味はより一層引き立てられたらしい。
時間は十分ある事だし…と、時計を見上げると、暁斗はフットサルで出会った人たちのことを話し始める。







そうしてのんびりと時間を潰して迎えたミーティング。
次々と合格者の名が挙げられて行く中、反応は分かれた。
喜びを噛み締める者、悔しさを噛み締める者。
最後列でそんな彼らの様子を眺めながら、暁斗はふぅ、と息を吐き出した。
とりあえず、自分は一歩を踏み出すことが出来た。
問題はこれからだ。
いつまでこの状態を保つことが出来るかは…正直、分からない。
だからこそ、後悔だけはしたくなかった。
応援してくれている人たちのためにも。

「…負けらんねぇなぁ」

試合に、ではない。
これから先迎えるであろう挫折や苦難。
それらに対する言葉だった。

東京都選抜の合格者は、暁斗を合わせて23名。
風祭はと言えば、20名枠から外れたものの、補欠として首の皮一枚が繋がった。
ここから、選抜メンバーの新たな道が始まるのだ。

Rewrite 07.04.20