Soccer Life   STAGE--23

パス練習の後は本来のポジションではないポジションでの軽いゲーム形式の練習。
どこの位置でも問題なくこなせるけれどもFWが一番好きだ、と言う暁斗には障害でも何でもない。
本来のそれを捨てきれない者は戸惑うばかりで自分の良い所を見せられない。
それが更に焦りを生むと言う悪循環に見舞われ、散々な結果だった。

「この練習をものに出来れば…伸びるだろうな」

それに部類出来るであろう彼、風祭を見ながら、暁斗はそう呟いた。











「本日の練習はこれまで!しっかり身体を休めるように。明日の練習は遅刻しないようにね。それから、雪耶!」

玲の挨拶の途中で、暁斗は名前を呼ばれる。
話を聞いていなかったわけではないが、呼ばれる事は予想外。
僅かに肩を揺らした後「はい」と答えれば、彼女がにこりと微笑んだ。

「話があるから残ってちょうだい。では、解散!」

良くも悪くも目立つ暁斗が名指しで残された事。
好奇の視線を向けてくる輩のそれを無視して、暁斗は玲の方へと歩み寄る。
途中、何か物言いたげな表情を見せる翼を追い越したが、結局言葉を交わす事はなかった。
最後まで根気強く暁斗とコーチとの話を気にしていた一人が建物の方へと歩き出す。
そうして、二人の声の届く範囲には誰もいなくなった。

「さて、と。もう良さそうね」
「お疲れ様です。最後の最後で居残りとは…悪い意味で目立ちましたね、今度は」
「そんなのを気にするような性格じゃないでしょう。それより、練習はどうだった?」

クスリと笑ってから表情を真剣なそれへと切り替え、玲は暁斗に問いかける。
暁斗は少し言葉を選んだ後、口を開いた。

「物足りなさはこの際無視することにして…面白かった、かな」
「…まぁ、あなたならそうでしょうね。Aでも存分に実力を発揮できたでしょうから」
「別に、嫌だとは思ってないよ。玲さんの練習は…うん。何だかんだ言っても、斬新で面白いし」

満足できてるから、と笑う。
パス練習なんて、正直飽きるほどこなしてきた。
けれどもその基礎を怠らないからこそ、今の自分が在るのだ。
そう思えば、もう一度基礎からの練習を重ねてみるのも悪くはないと思う。

「あなたをBにと推したのは、理由があっての事なの」
「…だろうな。じゃないとあの監督が納得しそうにないし」

言葉としてはっきりと告げられたわけではない。
しかし、尾花沢の期待が自分の想像以上のものであるという事は、テスト中に受けた視線からわかっていた。
その後の満足げな頷きも目にしていたからこそ、気に入られていて期待されているのだと断言できる。

「それぞれのテスト、全体共にトップである事は言うまでもないわね」
「…まぁ、減点される理由が見つからないしな」

あえて言うならば、少し遊んでいた部分がその対象となりうるものであったかもしれない。
けれど、それも余裕の表れと言えない事はない。

「この結果に関しては、暁斗が良く目立ってくれたお蔭で参加者全員が理解しているわ」
「…派手にやれ、って言われましたから」
「ええ、その通り。結果としては大満足よ。いい具合に視線を集めてくれたし…Bへの評価も上がったでしょう」
「結局の所、俺は玲さんの駒だった、ってわけか」

別に気にするほどの事ではないけれど。
そう言えば、満足げな微笑みを向けられる。
綺麗だなぁ、なんて場違いな事を考えていた暁斗の思考を取り戻すべく、玲は続けた。

「あなたの実力を疑う子は居ない。加えて、基礎練習に対しての真面目さも評価される筈よ」
「…」
「これで、思う存分やってもらえるわね」
「やってもらえる、って…一体何をやらせるおつもりで?」

やや呆れた風に溜め息を吐きつつそう問いかける。
返って来たのは見惚れるような、けれどもそれに騙されてはならないような裏を含ませた笑顔。

「選抜合格第一号、おめでとう」
「―――――…また、予想外のもんが来たな…」
「あら、嬉しくないの?合格したのよ?」
「嬉しくないとは言わないけど…そんな簡単に決めていいのか?」
「問題ないわ。満場一致だから。明日からは私の補佐として練習に参加してもらうわ」

楽しみでしょう?と問いかけられ、再び長く溜め息を吐き出してしまった。
何というか、無茶苦茶だ。
選抜と言うのは、この三日間の合宿の間に各々の実力を発揮し、最終日に結果が発表される。
そう言うシステムの筈だ。
精々基礎の練習の時にモデルとして玲の補佐をする程度だと思っていたのに―――本当に、予想外だ。

「不満なのかしら?第一号って響きは好きでしょう?」

一番が好きなんだから、なんて笑いを含ませた彼女の言葉に、暁斗は肩を竦める。
別に一番が好きなわけじゃない。
ただ、遅いのが嫌なだけだ、ついでに言うと、要領がいいから一番になってしまうだけだ。
結局は自分の中だけの言い訳で、肝心の相手には伝わらないのだけれど。

「何か、他の奴らに失礼だなーと思って」
「実力社会を生き抜こうと思うなら、妬む前に自分だってって奮い立つべきね」
「…そりゃそうだ」

先を越された事を妬む時間があるならば、それを己を高める時間に使うべきだ。
そう考えられないような人間は、ただでさえ星の数ほど居るサッカー少年の中から躍り出る事などできない。
所詮は趣味の領域と割り切るなら話はまた別だが…そんな人間が、合宿に参加しているという事はないだろう。
少なからずプロへの志望を視野に入れている人間が集まる場所。
自分が彼らの事をとやかく考えるのは、畑違いなのかもしれない。

「どうする?このまま合格を蹴るって言う手もあるけれど…。結果は変わらないわよ」
「受けます。今は踏み倒してでも進まないと」
「そのハングリー精神は大切よ。まぁ、仲間になった時の切り替えも大事だけれど…その辺は心配ないわね」

にこりと笑った玲に、暁斗は頷く事で返事としておく。
サッカーは一人で出来るものではない。
だからこそ、後から合格してくる仲間を嘲うような性格だったならば…自分も、暁斗の合格を推したりはしなかった。
暁斗ならば大丈夫、そんな安心感が、当初の予定を大幅に狂わせる「合格第一号」を生み出したのだ。

「しかし…その為に俺を躍らせるなんて…玲さんらしくって、言葉もないよ」
「暁斗が予想できないなんて珍しいわね。悪戯が成功した気分だわ」
「子供みたいに笑うなって。で、明日は何をさせるんだ?」
「さっき話したように、私の補佐。尾花沢監督が最後まで粘ってきたんだけど、B所属ですからって」

尾花沢の粘りも想定内だったのだろう。
その上で、暁斗をBへと引き抜いた。
全ては玲の計画通りに事が進んでいるということだ。

「それに…Aの補佐をさせるわけにはいかないわ」
「…仲間は多いですよ?あっち」
「でも、敵も多いわよ。Aは割とプライドの高い子が集まっているから」
「ま、Aに選ばれた事で自信を持った奴も少なからず居るだろうからな」

プライドが高いという事は、それを傷つけられた時の感情の起伏が激しいという事。
玲が暁斗を案じて、あえて自分の補佐にまわしたのだと気付き、その心遣いに感謝した。
同じようにサッカーを楽しむ者として、そんな人間は居ないと思いたい。
けれど、様々な選手の集まるこの場所でそれを断言するのは難しいのだ。

「元々私の手伝いをしてもらうから、って事で一人部屋にしてもらっているから、話は楽だったわ」
「あぁ、そう言えばそんな設定だったんだっけ。形だけかと思ってたんだけど…」
「まさか。暁斗にはこれからテストデータの洗い出しを頑張ってもらうわよ」

若菜を納得させる為に例としてあげておいた仕事は、どうやら本当に自分が担当しなければならないものらしい。
綺麗に微笑んだ彼女に、暁斗は最早笑うしかなかった。

Rewrite 07.03.24