Soccer Life STAGE--22
全員がコンビネーションのテストを終えると、一旦集合してから午後の説明を聞いて解散。
それぞれが仲間内で集まって建物へと移動していく。
我先にと駆け出す者も居れば、のんびりと身体を休ませながら歩む者まで様々だ。
暁斗は約束していたように翼たち飛葉中のメンバーと共に居た。
監視よろしく、テストの間ずっと隣に居てくれたお蔭で約束を違えられなかったというのもある。
どちらにせよ約束した以上は守ると決めている暁斗だから、逃げ出すような事は考えもしなかっただろうけれど。
「そう言えば…。直樹は来てないんだな。一人落ちた?」
「直樹なら地元で受けてる」
飛葉中のメンバーは仲が良くて、5人で連れ添っている姿ばかりが浮かぶ。
ふとそのことを思い出した暁斗は、隣に座った柾輝にそう尋ねる。
彼の素っ気無いとも取れる答えに「ふぅん」と返事を返した。
「地元…ねぇ」
「何か含みのある言い方だね」
「いや、別に?関西までご苦労だなーと思って」
暁斗はそう誤魔化して味噌汁椀に唇をつけた。
地元と言う事は、選抜は関西選抜。
関西と言えば、暁斗の中で浮かぶのはただ一人。
「向こうで選抜受けてくるわ」
そう言った成樹に、暁斗は特に驚いた様子もなく「ふぅん」と相槌を打った。
まさかそんな反応が返って来るとは思わなかったらしく、間抜けに口をぽかんと開けたまま静止する成樹。
「…それだけ?」
「他に何か?あぁ、頑張れって言葉が欲しかったのか?」
お前もまだまだガキだなぁ、なんて笑ってみる。
それに対してはノリよく「ちゃうわ!」と返事の声が上がり、関西出身だなぁと感じた。
「別に心の篭らん応援が欲しいわけちゃうけど…『ふぅん』の一言は寂しいわぁ」
「…俺にそれ以上を要求する方が間違ってる」
「…それを言うたらあかんわ、暁斗」
がっくりと肩を落とした彼に、暁斗はクスクスと笑う。
そして屋上のコンクリートにごろりと寝転がって、太陽の眩しさに目を細めた。
「俺も今度合宿に参加する」
「知っとるよ。暁斗の実力で残られへんねやったら、他に誰も残らんやろ」
「あぁ、その辺はあんまり心配してない」
「………参加者を敵に回す発言やで、それ」
ケロリと言ってのける暁斗に、成樹の方がやれやれと肩を落とす。
暁斗らしいと言えば暁斗らしい。
確かに暁斗の実力はこんなマイナーな学校でなくとも…それこそ、武蔵森でも十分に通用する。
それだけは断言できるからこその発言だ。
わかっているのだが、その自信家な部分が合宿参加者の反感を買わないだろうかと少し心配だった。
「とにかく!俺は東京都選抜に残る。だから―――お前も残れ。選抜くらい、絶対残れよ」
寝転がったまま、暁斗は隣に座る成樹を見上げてそう言った。
彼が体を少しずらしてくれたお蔭で、顔に影が差して目を開けていられる。
真っ直ぐに見つめてくる暁斗に、彼はクッと口角を持ち上げた。
「当然やな」
「ま、目下の目標は…飛び入り参加を成功させる事だけどな」
呼ばれてないんだろ?と悪戯な笑みを浮かべる。
暁斗の言葉に成樹は「お見通しか」と苦笑のそれを返した。
「関西方面ではまだまだ無名だしな。それに、関西選抜の召集担当が東京まで探しに来てるとは思えない」
となれば、彼にお呼びの声がかかる筈がないのだ。
にも関わらず関西の選抜を受けると言う事は、己の実力のみで這い上がる覚悟を持ったと言う事。
「応援してるよ、俺は」
「…暁斗…」
「お前に影響を与えた奴も、恐らく残るだろ。あいつの可能性を理解してくれる人さえ居れば…な」
そんな人に覚えがあるからこそ、「恐らく」だけれど言える。
成樹を本気にさせた奴―――それは、桜上水サッカー部の改革の要因となった彼だ。
彼が転校してこなければ…きっと、自分達は今でもあの部活に戻ってはいなかっただろう。
自分はユースの方に全力を注ぎ、成樹は目的もなく燻っていたかもしれない。
もしかしたら違う未来が待っていたかもしれないけれど、恐らくあの段階ではその可能性が一番高かった。
「楽しいもんだな、部活ってさ。レベルは…まぁ、合わないって言えば合わないけど」
何でこれが取れないんだ、そう思った事は数え切れないくらいにある。
いつだって外に見せたりはせず、悪いと謝罪する彼らを「次は取れよー」なんて軽い口調で窘めた。
物足りなさを感じる事だって一杯あったけれど、それでも。
「得るものだって大きい。ユースでは学べない事も多いんだな」
「どないしたん?えらい褒めるやん」
「あいつらとは違う環境に行くんだなーと思うとな。何か、ここも悪くないと思ってさ」
そう思ったら、自然と口から零れていた。
暁斗がそう言えば、成樹はどこか柔らかく笑みを作って空を仰ぐ。
そしてそのまま暁斗の隣に寝転がった。
「俺も、面白い環境で、お前とサッカー出来るんは楽してしゃーないわ」
「お前にだけは全力で当たれるから楽だよ、ホントに。居てくれて助かる」
「はは!やっぱ、全力出せんのは辛いもんなぁ。でも、お互い様やで、暁斗」
「…――っ。…暁斗!」
呼ばれている気がする、耳の訴えを聞き届け、暁斗は現実に帰ってきた。
「…ん?」と短く答えて視線を返せば、呆れたように溜め息を吐く翼が視界に入る。
「…食べながら寝てるの?」
「いや、普通に食べ終わってるところを見ると、とりあえず起きてたらしい?」
「あのな…。自分の事なんだからもっと自信を持って言えよ」
記憶はないが、気がつけば自分の皿は殆ど空。
どうやら考え事をしながらもちゃんと箸を進めていたらしい。
時間に間に合わなければ途中でやめなければならなかったのだから、これはこれで問題ない。
だが、その返事は翼にはお気に召さなかったらしい。
何度呼んだと思ってるんだ、やら、変な所で抜けてる、なんて言葉が飛び交う。
それを右から左へと聞き流しながら時折場違いな相槌を入れてみて、より一層彼を怒らせる。
そんな風にして、ランチタイムは幕を閉じた。
芝生の上でリフティングをしながら、暁斗はふむ、と周囲を見回した。
「パス練習とは…また何ともテンションの下がる事で」
自分は思ってもない事を、事も無げに紡ぐ。
それを告げられた時の反応はそれぞれだ。
大抵は不満の声で、一部はとりあえず練習を始める事が嬉しい、そんな感じ。
そのごく一部の中に入る暁斗は、芝生の上でも土のグラウンドと変わりなくボールを操る。
まるで暁斗に引き寄せられているのでは、と感じさせるその柔らかで滑らかな動きに、目を奪われる者もしばしば。
「フォームガ綺麗デスネ」
そんな声が聞こえて、暁斗はぽーんと跳ね上げたボールを足元に止める。
それからその声の主を振り向いて、笑みを浮かべた。
「どうも、ルイスコーチ」
「デモ、今ハパス練習ノ時間デスヨ」
「あぁ、そうでしたね。すみません」
素直にそう謝罪した暁斗に、ルイスは構わないと笑った。
それから、暁斗に向けて手を招く。
蹴って来い、と言う意味らしい。
「Don't regret. OK?」
「Yes. Come on.」
突然飛び出した英語に、周囲に居たBのメンバーが驚く。
中学生でも十分に聞き取る事の出来る単語ばかりなのだが、現地並みの速さで紡がれたそれはもはや宇宙語。
理解できたらしい翼が呆れたように肩を竦めるのが見えたが、暁斗には関係なかった。
目の前の好敵手に、獲物を狙うような目を見せる。
かなりの力で蹴り出されたそれは、癖のある球だった。
Rewrite 07.03.21