Soccer Life STAGE--21
ボールコントロールは点数が低ければ罰則付き。
そんな説明はやる気を出させる為だけのものではなかったらしい。
テストの合間に、暁斗は自分の脇を走っていった風祭を見てそれを悟った。
「リフティングだけなら上手いのになぁ…」
「まぁ、それだけじゃやっていけないからな」
「…急に独り言に答えが返って来るから誰かと思えば、竜也か」
首だけを横に向けて、その乱入者を視界に納める。
暁斗よりも半歩ほど斜め後ろに立つ水野。
彼もまた、グラウンドを走らされている風祭を見ていた。
「厳しいと思うか?」
「…さぁ、どうだろうな。厳しいかどうかなんて、カザ次第だろ」
暁斗はそう素っ気無く答えた。
水野はその答えに、「そうだな」と小さく頷く。
そんな彼の反応を見て、暁斗は心中で溜め息を吐き出した。
小さく一歩だけ前に出て自分と並んだチームメイト。
風祭ほどではないにせよ、彼は優しい。
それだけに、共にやってきた風祭が心配でならないのだろう。
本当なら、自分には「カザなら平気さ」と笑って欲しかったのかもしれない。
人からの大丈夫だと言う言葉は安心感を与える。
彼の不安を拭い去るのも、チームメイトとしての役目だっただろう。
しかし、ここは桜上水のサッカー部とは違うのだ。
選抜―――実力のある者だけが選ばれ、夢の舞台への第一歩を踏み出せる場所。
他人を気にして己の実力を損なうような者が残れる、いや残るべき場所ではない。
「そう言えば、流石だな」
「?」
「さっきのキックターゲット。Perfect、だろ?」
「…あぁ、あれか。お前には負ける」
あえてパーフェクト、の部分を英語の発音にするあたり、若干のからかいも含まれているのだろう。
殆どが彼を賞賛する意である事は明らかだが。
「そうか?俺の場合は面倒だっただけだしな」
1球終わるごとに並べては蹴って、また並べて。
面倒極まりない、と肩を竦めた彼に、水野は苦笑した。
そう言えば、暁斗はこう言う人間だったな、と今更に思い出す。
「暁斗はもうテストは終わったのか?」
「後はコンビネーション………と、ボールコントロールもまだだったか」
走らされている風祭を見ていてすっかり忘れていたらしい。
事も無げにそう答えた暁斗に、水野は「はぁ」と短く息を吐き出した。
「竜也は?」
「残りはコンビネーションだけだ」
「お早い事で。んじゃ、さっさと片付けてきますかね」
ひらり、と手を振って彼の傍を離れる。
そんな暁斗を見送り、それから風祭へと視線を向ける。
そうして、桜上水キャプテンはもう一度短く溜め息を吐いた。
キックターゲットの一件もあり、暁斗は注目の的となっていた。
ボールコントロールも難なくこなした暁斗は、次にコンビネーションのテストに参加する。
「一馬!」
「うわっ!あ、足元に蹴るなって!」
「何を言うか。足元へのパスなんて理想だろうが」
「暁斗の場合は爪先ピンポイントだろ!?」
「ははは」
「笑って誤魔化すな!」
そんな風に会話を交わしながらひょいひょいとゴール付近までボールを運ぶ。
もう一人の選手の存在も決して忘れず、ここと言う時にボールを送る。
DFは彼らの動きに翻弄されるだけ翻弄されて終わった。
暁斗が名前も知らないようなDFに、暁斗と真田を止められる筈がない。
「あー、もう!取り辛いパスばっかり回すなよ!」
「頑張れ~」
「…遊ばれてるね」
「あぁ、遊ばれてるな。いいなー。俺も入りてぇ!」
外から見ていた郭や若菜の会話など露知らず、楽しむだけ楽しみ、最後はゴールに背を向けたまま踵で押し込む。
さほど勢いの付いていないボールは、これまた名前の知らないGKの足元を抜けてゴールネットを揺らした。
「Yes!!ナイスパス!」
「お前もな!」
真田からのパスをシュートへと結びつけた暁斗は、満面の笑みで彼に駆け寄った。
そして、二人でパンッと手を叩く。
それからもう一人の選手にも声を掛け、彼らはフィールドを出た。
彼らに交代して選手が入っていくのを見送り、暁斗はふと手招きしている人物に気付く。
にこりと、本人に言うと怒るが可愛らしい笑顔を浮かべて「来い来い」と手を上下に揺らす彼。
「よ、テストはどうだ?」
「まぁまぁだね。それより…暁斗、何を企んでるの?」
「企んでるって…随分と人聞きの悪い事で」
そう言って肩を竦める暁斗に、彼、翼は不愉快に眉を潜める。
可愛らしい顔立ちが…と思うが、それを零そうものなら恐ろしい仕返しが待っている。
鉄の理性で持ってそれを飲み込む事に成功した暁斗は、代わりに別の言葉を吐いた。
「何か気になることでも?」
「…珍しく、目立った行動ばっかりだよね。理由がないとは言わせないよ」
「よく見える目をお持ちのようで」
面倒だなぁ、と悪戯に笑う。
本心がそう思っていない事は明らかで、翼は一度息を吐き出した。
そんな彼に、暁斗はこれ以上からかうのはよくないと判断する。
「玲さんとの約束なんだ」
「玲…?知り合い?」
「まぁ、それなりに」
「ふぅん…。暁斗までBってのは、玲の差し金か…」
何を考えてるんだか、と呟きつつ、翼は漸く不機嫌な表情を軽減させる。
玲が理由ならばと納得してもらえたらしい。
心の中で、素晴らしき玲さん効果、なんて思っていた事は秘密だ。
「ところで、このテストの後って何だっけ?」
「暁斗には人の話を聞くって言う行動が頭の中に浮かばないの?全員が終わったら昼食。玲が言ってただろ」
「そうだっけ。メンバーだけ聞いたらその後は聞き流してたなぁ」
そんな反応の暁斗に、翼はこれ見よがしに長い溜め息を落とす。
翼にそう言う反応を返されるのも予測済みだ。
「まったく、暁斗らしいよ。昼食は一緒に食べるでしょ?玲との関係も聞きたいところだしね」
「え?あー…実は約束が…」
「食べるよね?」
「人はそれを強制と呼ぶんですよ、翼さん」
頷くしか道など残されていない。
それに気を悪くした様子もなく、暁斗は一呼吸置いた後で了承の意を述べた。
Rewrite 07.03.18