Soccer Life STAGE--19
何が何でも合格、からトップクラスで合格。
暁斗の中の目標がそう変わって、一時間ほど経った。
全員がミーティングルームを出て、グラウンドへと集合している。
そして簡単な説明を聞いた後は、各々の自由に技能テストを受ける事になっていた。
それぞれ仲間内で集まって移動している姿を眺めながら、暁斗はどこから行こうかな、とグラウンド全体を見回す。
そして、とりあえず目に付いたものから…と歩き出した。
と、同時に背中に衝撃が走る。
「納得いかない!」
「…俺も、お前が圧し掛かってくる事に納得いかない…」
自分とほぼ同じ身長の若菜だ。
体格差を考えろとは言わない。
だが、人一人に圧し掛かられて重くないはずが無く、暁斗は即座にそう返した。
「何で暁斗がBなんだよ!!」
そう、彼の不満の原因はここにあったのだ。
暁斗の胸に掲げられているそのビブスは、Bであることを示す色。
AでもBでも構わない、と思わないのは、ミーティング中の監督尾花沢の発言が大きく関係している。
彼は、Bは所謂「落ち零れ」だと言ったのだ。
暁斗がそちらに分けられた、と言う事が若菜には納得できないことらしい。
とりあえず暁斗の背中から若菜を引き剥がす手伝いはするものの、郭・真田も同じ心境だ。
実力をよく知っているユースの彼らにとって、仲間である暁斗が低く見られたことが許せないらしい。
べりっと音がしそうな勢いで引き剥がされた若菜は未だに不満げに口を尖らせている。
他の二人も、表情には出していないけれどその空気が重かった。
「…ま、お前らがそう言ってくれるのは嬉しいんだけどさ」
そう言って、暁斗は苦笑を浮かべる。
こうして自分の為に怒ってくれる人がいるというのは、やはり幸せな事だと思う。
「でも、決まった事だし…どっちにしろ合格すればそう深い意味は―――」
「あ、監督発見!!」
暁斗の説明も半ばに、その向こうに尾花沢を発見する若菜。
彼は持ち前の瞬発力を生かし、その場から駆け出してしまった。
「おいおい、直談判かよ…」
「…放っておいていいのか?」
俺も行くけど…、と控えめに声を掛けてきた真田の方を見れば、すでに郭も歩き出してしまっているではないか。
いつの間に、そう考えている間すらも惜しいとばかりに、暁斗は肩を竦めて歩き出す。
「尾花沢監督。何で雪耶はBなんですか?」
意外にも、若菜は監督を前に平静を取り戻していた。
いや、平静を作っていた、と言った方が正しいのかもしれない。
暁斗に問い詰めたあの剣幕をそのままにするのではなく、一応目上の者に対するそれを見せていた。
「雪耶…?あぁ、雪耶暁斗くんの事か。彼に関しては、私も迷わずAに入れるつもりだったんだがね…」
「何かあったんですか?」
「いや、西園寺コーチがどうしても、と言うのでBに入ってもらっているんだ。勿体無いとは思うんだが…」
今からでもAに移るかね?
そう言いたげな視線を向けられ、暁斗はにこりと笑いながら首を振る。
「ご心配には及びません、監督。どちらに入ろうと、期待は裏切りません。俺は全力を出すだけですから」
「そうか。君には皆注目しているからね。是非、頑張ってくれたまえ」
そう言ってやや痛いと思える力で背中をバシンと叩いて激励される。
そうして、尾花沢は用があるのかバインダーを片手にテストの方へと歩いていった。
「職権濫用だろ、明らかに!」
「あのな…別にどっちだっていいだろ。なぁ、英士」
「そうだね。監督の目が節穴だったわけじゃないみたいだし…いいんじゃない?」
郭が若菜に続いてこの場にやってきたのは、暁斗の実力がわからないのか?と疑問を抱いたからだ。
そうではなく、実力が関係しない理由があってBに分けられていると言うのならば、何も問題はない。
納得しているらしい彼に、若菜は再び口を尖らせた。
「一馬は納得できないよな!?」
「…確か、最終日にAとB対抗の試合があるだろ。暁斗と同じよりも相手の方が楽しいじゃん」
つまり、納得と言う事らしい。
味方を失った彼は「うぬぬ…」と呻いた後、そこに転がっていたサッカーボールを蹴り上げる。
半ば八つ当たりの如く力をこめて蹴られたそれは、寸分狂う事無くボール籠の中に納まった。
派手な音はしたけれど、幸いその付近に監督やコーチはいない。
「わかった!納得するよ。その代わり、試合の時は楽しませろよな!」
「…了解。メンバーに入ってれば頑張るよ」
「何が何でも入れー!」
そう言って、漸く笑みを浮かべると、彼はガシッと暁斗の首を抱えて「テスト行くぞ!」と歩き出す。
歩きにくい事この上ない姿勢だけれど、暁斗は文句を言うでもなく苦笑を浮かべて彼に従った。
「…本当に、暁斗が好きだよね、結人は」
「…だな。何か、兄弟って言われても頷けるかも」
容姿的に似ているわけではないけれど、あの懐き方はそれを髣髴とさせる。
どちらが上だと問われれば、当然の事ながら暁斗が兄役だ。
そんな事を言えば若菜が怒り出す事は必至なので、これは二人の心の中に隠されたのであった。
ミーティング前、鞄に入れておこうとポケットから取り出した携帯が光っていた。
どうやらメールを受信していたらしく、折りたたみのそれをパカンと開いて中身を確認する。
「“派手に暴れなさい”って………マジで?」
確かに適当にこなそうとは思っていなかった。
だが、テストはテスト。
特別抜きん出る必要も無いか、と思っていたのだが…どうやら、彼女はそれを許してくれないらしい。
「派手に…ねぇ…」
元々、それは相棒の得意とする分野だ。
自分は彼の隣で、目立たないように活躍する…それが理想なのに。
自分がその中心にならなければならないのか、と暁斗はガシガシと頭を掻いた。
「ま、お望みならば…叶えてご覧に入れましょうか…?」
苦笑にも似た笑みを零し、暁斗はそう呟く。
ここで追記しておくならば、暁斗自身は忘れている。
自分は、立っているだけでもその存在感を霞ませる事のない人間なのだと言う事を。
そして、特にサッカーの面においてそれが顕著であるということを。
要するに、暁斗は努力などせずとも、普通にプレーしていれば派手に目立つ事になるのだ。
50メートル走の場が、一時騒然となった。
原因は、負けたー!!と悔しがっている武蔵森レギュラーではなく、その隣。
共に走った彼の悔しさなどどこ吹く風、と言った様子で笑って肩を叩く、銀髪の人物だ。
「ま、次頑張れよ」
「これでも0.2秒速くなったのに!!」
「残念。俺も0.2秒速くなってんだよ、実は」
まぁ、頑張れ。
そう言って励まし代わりにもう一度彼の肩を叩く。
武蔵森レギュラーと言えば、この年代のサッカー少年の中では有名だ。
何度も全国出場を決め、そこでも好成績を残してくる、言ってしまえば実力社会。
その一人とこんなにも馴染み、溶け込んでいる馬鹿みたいに目立つ容姿の少年。
注目を集めるなと言う方が無理だった。
「そう言えば…暁斗はBなんだな」
「意外か?」
「まぁ。でも、試合で相手してもらえると思うと今から楽しみだ!」
そう言って屈託無く笑う藤代に、暁斗は肩を竦めた。
どいつもこいつも、よほど自分と試合がしたいらしい。
確かにこう言う場所でなければ、相手として正式な試合を組んでもらうのは難しい。
部活で試合を組むには、あまりにも暁斗側のレベルが低すぎる。
それだけに、こうして自分達の能力を活かせる場所で相手として試合ができると言う事は、素直に嬉しいのだ。
「ま、試合に出れればご期待を裏切らないように頑張るよ」
「絶対出ろよな!何が何でも!」
若菜と同じような事を言う彼に、実は同属性なのか…とどこか納得する暁斗。
藤代が白だとすれば、若菜はやや白に近いグレーと言った所か。
どちらも純粋で…何だか、犬のようだ。
「(飼い主になったみてぇ…)」
次はどこに行くんだ、と問いかけてくる藤代の頭に耳が見えるような気がして、暁斗は慌てて視線を逸らした。
動物は好きだが、人間の動物化が好きなわけじゃない。
自分にそんな趣味はないんだ。
弟にしたら可愛いかも、なんて、一瞬でもそう思ってしまった自分に、暁斗は溜め息を吐き出したくなった。
Rewrite 07.03.03