Soccer Life   STAGE--14

テスト前にもなれば、部活は一時的に休みとなる。
必然的にサッカーをする時間が減ってしまう事に、暁斗は少し苛立っていた。
勉強が学生の本分、それはよくわかる。
だが、暁斗のように普段から少しずつマメにこなしている生徒にとっては迷惑この上ない規則だ。
部活が休みなのは一週間。
テストが始まる日から遡って、たったの一週間だ。
しかし、暁斗にとっては苛立ちの募る日数で―――

「行って来ます」

テストまであと5日という日の放課後、暁斗はバッグを肩に担いで家を後にした。
















連絡していたわけではないので、彼らが居るかどうかはわからない。
まぁ、居なければ別のチームに入れてもらえばいいか。
そんな考えと共に、暁斗はバスでフットサル場へとやってきていた。
徒歩では到底来る事のできない距離に住んでいながら、足繁く通う暁斗はすでにフットサルメンバーの顔見知り。
一度顔を出せば、試合中の面子まで声を掛けてくれる。

「よぉ、暁斗!久しぶりだな!」
「最近見なかったけど、どうしてたんだよ?」

高校生、もしくは大学生程度の男子が暁斗の元に歩み寄ってくる。
順番待ちなのか、軽く身体を慣らしている最中だったようだ。

「ども。久しぶりっス。最近部活の方が試合前で忙しくって…間の悪い事に、テストも控えてるんですよ」
「あー、テストか。俺達も先週テストだったよ。お蔭で部活が出来なくて、密かに教師を恨んだぜ」

鬱陶しい規則だよな、とどこか声を潜ませて言う彼に、暁斗は肯定の意を示す。
そうしてひと時の時間をすごし、チームに入れてもらう約束も交わす。
フットサルを楽しみたい人間が集まるのだから、人数を揃えるために年齢も職業もごった煮になる事なんてザラだ。
すでに、やりたい人間は快く誘い入れる、そんな暗黙の了解が出来上がっている。
尤も、そんな了解などなくとも、それぞれが好きなことの為に集っていくのだが。

「そういや、暁斗。部活は飽きたんじゃなかったのか?」
「…俺、そんなこと言いましたっけ?」
「うわ、誤魔化す気かよ」
「冗談っスよ。まぁ―――心境の変化だと思ってください。中々、いいメンバーになってきたんですよ」

だから楽しくって、と答えれば、彼は「そうかそうか」と嬉しそうに笑う。
暁斗に男の兄弟は居ないから分からないけれど、兄が居ればこんな感じなんだろうかと思う。
今年大学に入ったばかりの彼とはもう一年近い付き合いだ。
非常に可愛がってくれている、いわば心の兄、といった所か。
本人にそう言えば、照れ隠しに笑いながらも「こんな弟は御免だ」と言ってくれるだろうけれど。

「―――…暁斗?」

不意に、一試合終えて休憩していた背中にそんな声が掛かる。
フットサル場の為に設置されたスポーツ飲料の多い自販機で買ってきたドリンクを飲みながら振り向いた。
そこに立っていたのは、今しがた到着したばかり、と言う装いの男子学生複数。
暁斗は間違っても女子だと思ってはならない『彼』と、その後ろの『彼ら』に向けて笑みを浮かべた。

「よぉ、飛葉中諸君。久しぶり」

きゅっとペットボトルの蓋を閉めてからそう笑う。
反応の軽さに呆気に取られている面々を横目に、暁斗はベンチから立ち上がった。
一番先頭の彼がスゥッと息を吸い込むのに気付くと、さり気無く…ではなく、あからさまに耳を手で覆う。

「行き成り音信不通になったと思ったら、また連絡もなく現れて…!事故とか考えた俺らの心配を返してくれる!?
大体、何ヶ月連絡してこなかったかわかってんの!?」
「あー…一ヶ月くらい?」
「三ヶ月だよ、三ヶ月!」
「おぉ?そんなに経ってた?」

正確な時の流れを把握していなかった暁斗は、彼の言葉に驚いたようにその後ろのメンバーを見た。
そんな確認するような視線を受け、彼らは苦笑気味に頷く。

「~~~~~っ!!………暁斗には何を言っても柳に風、だね。怒るだけ馬鹿らしくなってきたよ」
「うん。それが一番だと思うぜ、翼」

最初の第一声目の怒号は、耳を塞ぐ事で乗り切った。
その後と言えば徐々に音量も落ち着いてきていたので、暁斗自身にさして影響はない。
脱力したように肩を落とした彼、椎名翼に、暁斗はポンとその肩を叩いた。
そして、溢れんばかりの笑顔を浮かべ、改めて「久しぶり」と告げる。

「まったく…本当に、心配してたんだよ。毎週来てたのに、急に来なくなるし、携帯は繋がらないし…」
「悪かったよ。あの頃、丁度携帯が洗濯機に水没してな…アドレスも全部パァ」
「…暁斗らしい間抜けっぷりだね」
「いや、いつもはそんなドジは…」
「そんなのはどうでもいいとして…今日は、俺達に付き合うよね?」

案じていたような、そんな声色から一転。
お得意の強気な声に、暁斗は肩を竦めた。

「了解。翼さんに話しつけてくるよ」
「…わざと?」
「いやいや。だって、仕方ねぇじゃん?あの人の名前も「翼」なんだからな」

心底嫌そうに表情を歪めた翼に、ニッと口角を持ち上げる。
暁斗の事を弟のように可愛がり、また暁斗が兄のように慕う人。
彼の名前は、目の前でその端正な顔を歪めている椎名翼と同じだった。
先に出会ったのは、翼さんの方だ。
その後飛葉中のメンバーと共に翼と出会い、思わず噴出して怒られたのも、今となってはいい思い出。
順番取りに行って来る、と言い残して、翼のみこの場を去る。
その背中を見送ると、他のメンバーが漸く暁斗へと近づくことが出来た。

「大変だったな」
「いや。別に構わねぇよ、このくらい。心配させてるかなーとは思ってたし」
「ホンマやで。音信不通になってから三ヶ月の翼は恐いのなんのって…」
「一時期は暁斗の名前が禁句になってたよな」
「うわーぉ、重症だな、それ」
「笑い事じゃなかったんだぜ、まったく…。一ヶ月くらいは意味もなく八つ当たりされるしよ」

順番に文句にも似た彼ら流の挨拶を受け、暁斗は自然体のままに接する。
悪かったなぁとは思うが、この三ヶ月と言えば自分も忙しくてそれどころではなかった。
尤も、月に2度ほどはこのフットサルに顔を出していたのだが…出会わなかったのは、運が悪かったからだろう。

「翼さんとは毎回会ってたんだけどなぁ…。運が悪いと言うか、いいと言うか…」
「伝言でも残してくれたらちょっとはマシやったんちゃう?」
「んー…忘れてたな。そう言えば」

彼らの反応から考えると、翼さんとは何度も顔を合わせていたらしい。
確かに、彼に言付けておけば翼たちにも伝わっていただろう。
それをしなかった理由は、暁斗が先ほど告げた内容に相違ない。
翼さん自身もまた、聞かれないことを自分から話すような人ではなく―――結果、三ヶ月の音信不通となってしまったわけだ。










そんな風にして彼らと時間を潰していると、一行に先ほどの大学生…暁斗風に言えば翼さんが近づいてきた。

「暁斗、さっき姫に会ったんだが…何言ったんだ?随分怒ってたみたいだったな」
「…それ、多分じゃなくて俺の所為っス。それと、次の試合なんですけど…あいつのご機嫌取らなくちゃなんなくって…」
「あぁ、分かった。メンバーには俺から伝えておくよ。丁度いいから、久々に飛葉中とやりたいな」

彼は翼の事を、本人の前以外では名前を呼ばない。
やはり自分と同じ名前を呼ぶのは抵抗があるのか、別の理由があるのか…真実は彼のみぞ知ることだ。
本人の前ではちゃんと名前で呼ぶのだが、それ以外では「姫」と呼んでいる。
翼が聞けば、容赦なく噛み付いてくる事は間違いない。

「じゃあ、翼に言ってみます。多分出来ますよ」
「なら、またその時にな」

ひらひらと手を振って去っていく彼には、颯爽と言う言葉が良く似合う。
同じ名前でも随分違うよなぁ、と思ったが、それは心中のみに止めておいた。
入れ替わるようにして戻ってきた翼に試合の事を話せば、二つ返事で了承を得ることに成功する。
どうやら、彼自身も強い相手と試合をしたかったらしく、間が良かったようだ。

「所で…この三ヶ月何してたわけ?」
「部活」

一単語でそう答えれば、翼が驚いたように目を見開いて静止する。
そんな彼を見て、暁斗は予想通り、と口角を持ち上げた。

「部活はやめたんじゃなかったの?」
「まぁ、色々と事情が変わってな。面白そうだし、戻った」
「ふぅん…なら、試合で勝ち進めば会うんだね」

楽しみだ、と笑った彼に、暁斗は返事の代わりに曖昧な笑みを浮かべた。
勝ち進めば、と言わずに次の試合で会うことになるのだと、伝えれば彼はどんな楽しい反応をしてくれるのだろう。
そう思うけれど、いざ試合会場で会った時の方が、きっと驚きは大きい。
今はまだ隠しておこう、そう思って、暁斗は「そうだな」と話をあわせておいた。

Rewrite 07.01.22