Topaz -友情と希望-
「悠希ー。そっちは終わった?」
紅が商品棚の一角から顔を覗かせた。
彼女の声に反応するように悠希が顔を上げる。
「こっちはOK。そっちは?」
「全部揃えてあるよ」
「んじゃ、会計済ませよっか。そろそろ部活の方も一段落ついた頃だろうし」
それぞれが抱えていた商品をカゴに放り込むと、早々に会計を済ませる二人。
店の入り口で待っていた桃城が逸早く彼女らに気づいた。
「先輩!買い物終わりっスか?」
「終わったよ。荷物持ちよろしく」
悠希がにっこりと微笑んで桃城と池田に荷物を渡す。
男子二人がそれぞれ二袋、紅と悠希が一袋ずつ荷物を持った。
学校に戻るべく、足を進め出した―――その時。
「キャ―――ッか、かえして!!ひったくりー」
女性の叫び声と共に、インラインスケーターの滑る音が近づいてきた。
4人が振り返る。
持っていた袋を地面に置いて桃城がひったくり犯に殴りかかる。
だが、寸でのところでそれを避けられた。
「先輩達とマサやん!先に帰っててください!」
「ちょ…桃!!」
紅が止めるのも聞かず、彼は犯人を追って走り出してしまった。
一方的に残された三人を微妙な沈黙が包む。
「…まぁ、とりあえず帰らない?」
悠希の言葉に、二人が頷いた。
「あ!薬局寄るの忘れてた!!」
急に紅が声を上げる。
彼女の隣を歩いていた悠希も、紅に合わせるようにその歩みを止めた。
「ガーゼ…だっけ。どうする?もう全然ないんだっけ」
「うん…リョーマの試合の時に無くなったから…。消毒液も少なくなってたし…」
そう答えた紅の手から袋を引き受けると、悠希はヒラヒラと手を振って見せた。
一見すれば「何処へでも行ってしまえ」的な仕草に見えないこともない。
紅がその様に思うはずもないが。
「んじゃ、先に帰ってるから行ってきなよ。それとも一緒に行こうか?」
「大丈夫。先に帰ってて。池田くん、ごめんね」
「別にいいですよ」
二人に向かって手を合わせると、紅はもと来た道を駆けて行った。
数分後、紅は無事に薬局で買い物を済ませていた。
ビニール袋に入った中身を確認して、彼女は学校への道を進む。
そんな時、それは起こった。
「キャ―――ッ!!」
「ひったくりだ!」
自分の背後から聞こえてきた声に、紅は深く溜め息を漏らす。
「…また…?」
若干面倒そうに身体を反転させると、こちらに向かってくる自転車が目に入る。
その腕にしっかりとバッグを抱え、更にスピードを上げるそれは犯人以外にありえない。
「怪我したくなかったらどきやがれ!!」
笑みすら浮かべてそう声を上げる犯人に、紅は再び溜め息を落す。
そして、買い物袋に被害が及ばないように持ち変えると―――
「うわぁっ!!!」
自分の横を通り過ぎようとした自転車を側面から蹴り飛ばした。
自転車は横からの攻撃に酷く弱い。
成す術もなく、男は地面に転がった。
その拍子に放してしまったバッグを紅が拾い上げる。
「ひったくりも立派な犯罪ですよ、お兄さん」
にっこりと笑顔でそう言うと、紅はバッグの持ち主である女性の方へと歩き出す。
「はい。これからは気をつけてくださいね」
「あ、ありがとうございますっ!」
必死で頭を下げる女性に微笑む紅。
いつの間にか集まっていた周囲のギャラリーが沸いた。
照れるように苦笑を浮かべた紅は、その場を立ち去ろうとする。
「き、君!!危ないっ!!」
誰かが叫んだ。
その声に振り向いた紅の視界に、拳を握り締めた男が映った。
と、次の瞬間。
紅の頬を掠めるように、目を瞠るようなスピードで黄色い何かが飛んでいった。
持ち前の動体視力でそれがテニスボールである事に気づく紅。
気づいた頃には、ボールはしっかりと男の眉間に叩きつけられていた。
強かに打ちつけられたそれによって、男はその場に崩れ落ちる。
「兄さん。女に殴りかかるような男はモテへんで?」
場違いに感じるようなイントネーションが耳に届く。
紅が振り返った。
「しかも人の女に手ぇ出そうっちゅーんやから…覚悟出来とるんやろな?」
見惚れるような笑みを携えて、彼はそう言った。
その姿を視界に納め、紅は苦笑混じりに告げる。
「…格好つけたところ悪いけど…あの人意識ないわよ」
男を指してそう言う。
地面に伸びている男を、周囲に居た人物が取り押さえていた。
そんな様子を見ていた紅の元に足音が近づく。
「怪我あらへんか?」
「ええ、大丈夫。ありがとう」
「それにしても…自分、無茶するなぁ…。アカンやろ、危ない事したら」
「んー…放っておけなかったし」
反省しているのか、いないのか。
紅は微妙な返事をして笑う。
そんな彼女の頭に手を置く彼。
「それより、侑士。何でこんな所にいるの?」
見上げるように自分へと視線を向ける紅に、彼―忍足は笑った。
「俺の姫さんを迎えに行く途中やったんやけど?」
「…何で?部活は?」
「今日は休みや。跡部もこの辺でうろついとる筈やで」
そんな忍足の言葉に、紅は眉を寄せる。
「景吾まで?あのトラブルメーカーまで来てるなんて…問題起こしていないんでしょうね…」
「紅……何気に酷いんちゃう?」
「だって事実だし」
「否定できへん所が痛いなぁ…」
「あー君達!ひったくりを捕まえてくれてありがとう。詳しく聞きたいから署まで来てくれるかな」
二人に警察官からの声がかかる。
お互いに目を見合わせた後、素直に頷いた。
一時間後、漸く学校へ戻れた紅を待っていたのは額に怒りマークを貼りつけた親友だった。
05.05.19