Topaz  -友情と希望-

リョーマは無事に約束の10分に間に合わせるようにして勝利を掴んだ。
結果、青学が地区予選優勝を収める。
閉会式も終わり、皆が帰る準備を始めていた。

「紅?まだ悩んでるの?」

ずっと黙り込んだまま不動峰の方に視線を向ける紅を見て、悠希が声をかける。
しかし、彼女は首を横に振った。

「違うの…。んー………」

説明するか、しないか。
考える紅を見かねた悠希が溜め息混じりに言う。

「何か気になる事があるなら行ってきなさいよ。こっちは大丈夫だから。準備も終わってるしね」
「……じゃあ、ちょっと行って来る。ごめん、ちょっとこれ任せてもいい?」

悠希が頷くのを見て、紅は自分の荷物を彼女に預けて駆けて行った。

「まったく…。他の学校の怪我人まで診てどうするんだか…」

彼女の行動で理由がわかったらしく、悠希が呆れた様な表情で呟いた。















「すみませんっ!」

紅が不動峰の部員に声をかける。
海堂と試合をした…確か、神尾と言う部員だった。

「あれ?君は青学のマネージャー?」
「青学3年の雪耶です。橘さんにお話があるんですけど…お時間いただけませんか?」
「あ、3年?じゃあ先輩なんだ?」
「別にいいよ。あなたの先輩なわけじゃないし」

暗に、言葉遣いの話をしたのだろう。
それを理解して紅がそう答える。
その時、丁度神尾の後ろから声がかかった。

「神尾?何してるんだ?」
「橘さん!丁度良かった。彼女、青学の雪耶さんです」

紅の隣に並ぶと、神尾が彼女を紹介するように前に出す。
慣れた様子で紅が挨拶を交わした。

「初めまして、青学3年の雪耶です」
「不動峰の橘だ。君は…あの1年生の手当をしたマネージャーだな。よくあの怪我の止血ができた物だ」
「ありがとうございます。そこでちょっとお話が…」

紅が本題を切り出した。
彼女が橘と話している間に、神尾が伊武に声をかける。

「なぁ、彼女の用事って何だろうな」
「さぁ?こんな場所で告白なわけないんだし、そんなにウキウキする事でもないでしょ…俺には関係ないし」
「お前なー…そんな事言わずに…」
「石田!ちょっと来い!!」

紅と話していた橘が石田を呼んだ。
呼ばれた本人は自分を指さして確認するように視線を向ける。
頷く橘に、彼はそれ以上何も聞かずに二人の元へと近寄った。
不動峰一同の視線は自然と3人の元へ。
中には「目当ては石田!?大穴だ!」などと話している者までいる。

やがて紅が石田の腕を見ながら何かを告げて、そして慌てたように頭を下げる。
それを止めるように、今度は石田が慌てる。
傍から見ている分には実に面白い光景だった。






数分後、紅は笑顔を浮かべて最後に何かを告げると、橘と石田、そして不動峰一同に向かって頭を下げた。
そしてそのまま青学の集まっていた場所へと駆けて行く。

「石田!お前あんな美人に何言ってもらってたんだよ!?」
「マジで告白!?」
「や、普通に部長を通したりしないだろ、それ」

部員達が彼らの元へ集まってくる。

「お前ら勝手に妄想を膨らませるなよ。

彼女は石田の腕を心配して効果的なアフターケアの方法を教えてくれたんだ」
「腕…?あ、波動球の!」

橘の言葉に、一人が声を上げる。

「はは…実はちょっと痛むんだよな。あれだけ遠くに居た彼女はそれに気づいたみたいで…」

そう笑う石田に、皆は一斉に肩の力を抜いた。

「最後にめちゃくちゃ笑顔で何言ってたんっスか?」

神尾はそれが気になっていたらしく、疑問を隠す事なく口に出した。
一同考える事は同じのようで、期待に満ちた視線を受けた橘は苦笑を浮かべる。

「“お時間を取らせてすみませんでした。お大事に。それから…都大会頑張ってください”だとさ」

告げられた言葉の後半部分に、部員達が喜びを露にした。














「お人好し」

戻ってきた紅に開口一番に告げられた言葉はこれだった。
毒舌な親友に苦笑を浮かべる紅。

「だって…放っておいたらよくないし…」
「……ま、そんなアンタだから皆に信頼されてるんだけどね」

やれやれと溜め息をつく悠希。
彼女は紅の荷物を渡すと、早々に歩き出した。

「皆、先に行ってるって」
「先に…?この後どこか行くの?」
「タカさんの家」
「タカさんのって……河村すし?」
「そ。打ち上げ…みたいな感じかな」

周囲の視線を一時的に絡め取りながら、二人で並んで歩く。
それは彼女らの容姿からか、はたまた制服の知名度からか…二人が真実を知る良しもない。














河村すしに到着した二人。
中ではすでにレギュラー一同が揃って――

「一人足りないわね」
「あぁ、越前なら病院っスよ」

紅の疑問には桃城が答えてくれた。
ここに呼ばれた以上打ち上げが行われるのだと言う事は容易に想像できた。
しかし、それぞれに寛ぐだけで、未だそれは始まっていない。

「見かけによらず優しいねー」

悠希がカウンターに座りながら笑う。
紅も彼女の隣に腰を降ろしてクスクスと笑った。
否定しない辺り、彼女も同じ事を思っているのだろう。
もっとも、悠希とは違って「見かけによらず」とは思っていないだろうが。

「そう言えば…雪耶、何してたの?」

彼女らの後ろの座敷の方に座っていた不二が紅にそう問いかけた。
それに、紅は苦笑を浮かべる。
彼女の代わりに答えたのは、隣に座る悠希だった。

「不動峰の石田君…だっけ?の腕の心配」
「はは…いやー…ごめん」

悠希の言葉に一時シンッと静まりかえる一同。
だが、次の瞬間には店の中は笑い声に包まれた。

「先輩…っ!らしすぎっスよ!!」
「さすが紅ちゃん!!相手の心配~!?」
「不動峰の部員16人が雪耶の笑顔にやられただろうな」
「ちょっと、乾…その数字何処から出てくるのよ?」

「……………何かなぁ…」

ともあれ、青学は無事に地区予選通過。

05.05.13