Topaz  -友情と希望-

「紅さん……?」
「何?」
「目が輝いてますよ?」

悠希が溜め息混じりにそう言った。












「いやー…だって、あんな面白そうな練習ないでしょ」
「紅にとっては、でしょ」
「悠希、久々に帰り打ちに行かない?」
「あそこはダブルスだから私が居ないと困るんでしょ?付き合うわよ」
「ありがとう。さすがは私の親友」

紅は嬉しそうに微笑んだ。
ちなみに紅がいるのは家庭科室。
悠希は家庭科室の外に居た。
開け広げた窓を挟んで話していたのである。
話をしている間にも手を休める事はない。

「で、美味くできそう?」
「もちろん。そろそろ練習始まる頃かしら?」
「多分ね。こっちの洗濯物も仕上がる頃だと思うわ。ところで……」

そこで言葉を区切り、悠希が家庭科室の中を見回す。
彼女には先程からずっと気になっていたことがあったのだ。
それは…。

「この異臭は何?」

まさか紅の作ってるドリンクじゃないよね?と確認のように言う悠希に、紅は頷く。
紅は苦笑いを浮かべながら答えた。

「ついさっきまで乾がいたの」
「うん」
「で、何か…乾特製野菜汁って言うのを作っていったの」
「………野菜ジュースじゃなくて汁…?」

口元を引きつらせた悠希に紅は頷いた。
彼女のドリンクも出来上がったらしい。
本来ならばそれの匂いがしてもよさそうな物だが、生憎乾特製野菜汁の臭いの方が強い。

「それにしても…これだけ臭いが酷いんだからその味も「ぬああああああぁ!!」」

酷そうだね、と言う言葉は突如聞こえた奇声に掻き消された。

「「…………………」」

驚くような速さで走り去った背中を見送った二人を沈黙が包む。

「…今の、大石?」
「…みたいね」
「紅のドリンク、早く持って行った方がよさそうね」
「うん」

準備を進める手を早めた。















「で、何人犠牲者が出た?」

悠希が近くにいた桃城に聞いた。

「マムシと大石副部長と、後不二先輩っスけど…」

そう言いながら彼の視線は不二の方へと移動する。
未だに気分悪そうにしている前者二人とは違い、不二はいつもと変わらない様子だった。

「…無事に見えるんだけど」

悠希が呟いた。
彼女の声に反応して不二が振り向く。

「あれ、結構美味しいよ?お薦め」
「謹んでご遠慮させていただきます」













一方、乾特製野菜汁が想像以上だったのか、紅は口直しにとドリンクを二人に渡していた。

「大丈夫?」
「何とか…」
「まさかあそこまで酷いとは思わなかったな」

ぐったりとした様子の二人に、紅は苦笑を浮かべるどころではなかった。

「そんなに酷いの?」

紅が乾の持つそれを見ながら問うた。
乾は片手でメガネを持ち上げつつ、それを紅の目線の高さに上げる。

「飲んでみるか?栄養バランスは完璧だ」

とても飲み物とは思えないそれを目の当たりにして、紅は思わず一歩下がる。
でも、人間誰しも好奇心と言うものはそなえ持っているもので…。

「ホントに飲んでも平気?」
「「駄目だ!!!」」

乾特製野菜汁を受け取ろうとした紅を止めるように、ダウンしていた二人が声を上げる。
普段は物静かな二人なだけに、声を荒らげるのは珍しい(特に大石)。

「…じゃあ、やめとく…」

二人の勢いに負けた風に、紅が肩を竦めながら首を振った。

「そうか」

乾が小さく舌打ちしたのは、本人以外の知る所ではない。













「何か英二が猫みたい…」

リョーマと菊丸の練習風景を見ながら、紅がそう呟いた。

「この練習は菊丸にはうってつけだな」
「あ、やっぱり国光もそう思う?」
「あぁ」
「楽しそうよね」

余裕のアクロバティックプレーを見せる菊丸は酷く楽しげだった。










結局、乾特製野菜汁を飲んだのは海堂・大石・不二・リョーマの四人だった。
そのうちで平気だったのは不二一人なのだから、それの不味さは折紙付と言っても過言ではないだろう。
練習途中、都大会の組み合わせが発表された。
ホワイトボードにはり付けられた紙に名前を連ねるのはどれも強敵ばかり。
その中には紅にも覚えのある学校名がいくつかあった。
どれも、恐らくは青学と対戦する事になるだろう学校。

「さて…皆は何処までいけるのかな…?」

自分が試合に出るわけではない。
しかし、湧き上がる高揚感を押さえられるはずもなく、紅は静かに呟いた。

「よーし、練習再開だーっ!!」

部員達が一斉にもとの場所へと足を進めだす。

紅の一番の仕事はドリンクを、走り去ったリョーマに届ける事だった。

05.06.08