Topaz  -友情と希望-

青学は準決勝も順調に勝ち進み、いよいよ決勝戦となった。
相手はノーシード校の不動峰。
紅の予想は的中したのだった。

「ダブルス2は不二とタカさんか…どう見る?」

オーダー表を眺めながら悠希が紅に問う。
紅も隣からそれを一瞥すると、僅かに笑みを浮かべた。

「さぁ?私には何とも言えないわね…。今までの不動峰だとは思わない方がいいわね」

コートに入った不二と河村を見ながら、紅はそう答えた。
そんな彼女の様子に、悠希が驚いたように動きを止める。

「珍しいっスね。紅先輩が褒めるなんて」

悠希の言葉を代弁するように、フェンスの中から声がかかった。
それの主は見紛う事なく1年ルーキー、越前リョーマ。

「……何で越前が知ってるの?」
「子供の頃から知ってるから」

試合開始のコールを聞きながら、リョーマは悠希の質問に答える。
悠希は「へぇ~」と納得しているのかよくわからない返事を返した。

「…さっきの言葉って褒めてたの?」
「いつもなら“皆なら大丈夫”って言うじゃない。相手にすれば立派な褒め言葉でしょ」
「あぁ、なるほど。でも、大丈夫じゃないとは思ってないよ。ただ、いい試合になると思うんだよね」

フェンスに両腕をつきながら、ラリーの応酬を見守る。
そんな紅の眼は、酷く楽しそうだった。

「…まったく…あんたも皆と変わらないくらいテニス馬鹿よね」
「テニス馬鹿って…。まぁ、否定はしないでおくわ」

視線を試合に固定したままの紅に肩を竦めると、悠希は静かに息を付いた。
先ほどまでは会話に入っていたリョーマも、すでに試合に集中しだしている。
悠希も彼らと同じく試合に集中しようとそれを向けた時―――

弾まない打球がコートを這った。












「やっぱり「つばめ返し」から試合の流れが変わったわね」
「そうみたいね。あれはコピーできないの?」
「多分…無理。それに…するつもりないよ」

再びポイントを重ねていく不二を見ながら紅が答える。
不二の放った弾まない打球…「ツバメ返し」が決まってから流れは青学に向いた。
不意に、悠希が不動峰の石田を見て口を開く。

「…さっきからやけにベンチを気にしてない?」
「誰が?」
「頭にタオル巻いた…石田?って人」

悠希の言葉に、紅は漸く視線を彼女に向けた。
何かを考えるように顎に手を当てる悠希を見ながら、言葉の続きを待つ。

「ベンチって言うよりあの部長さんの方を気にしてるって言うのかな」
「…何か隠してるんじゃない?そして…橘さんの許可を待ってる。ってとこかな」

他の部員の邪魔にならないように、声を潜めて答える紅。

「いけ!!石田ぁ!!波動球!!」

二人が試合から視線を逸らしていたその時、再び場の空気が変わる。







「ゲームカウント5-3青学リード!!」

コート内にコールが響く。
石田の波動球を返したのは不二ではなく河村だった。
返された球に再び全力を込めようとした石田だったが、球はガットの穴を通り抜ける。
青学一同がほっと安堵の息を付いた。
そんな中、紅だけは苦い表情のまま河村を見つめる。
他の部員と共に喜んだ悠希だったが、親友の表情を目にして首を傾げる。

「紅…?」
「…………………」

悠希の呼びかけにも答えず、紅はじっとコートを見ていた。
丁度、河村に歩み寄った不二が彼の右手首を掴む。
痛みに表情を歪める河村に、何かを語りかけるが、さほど大きくない声だった為に紅達の所までは届かない。

「審判。この試合、棄権します」

不二の静かな声が周囲をざわめかせた。
彼の声を聞くと、紅は傍に置いてあった救急箱から冷却スプレーを取り出してフェンス内へと走る。

「タカさん!腕出して」

コートを離れた河村に走り寄り、傷めた部分に触れないように気を配りながら患部を冷やした。

「恐らくヒビは入っていないと思いますけど…。先生、私が病院まで付き添います」
「ああ、任せたよ。車は…」
「大竹総合病院ですよね?ここからそう遠くないから大丈夫ですよ」

竜崎の許可を得ると、紅は河村を連れて病院へと向かう準備を始める。

「悠希、悪いけど行ってくるから」
「はいよ。私、医療関係はさっぱりだからね。しっかり付き添ってきて」
「うん。じゃあ…皆頑張ってね。出来るだけ早く帰ってくるけど」

鞄を持ち上げ、紅はレギュラーを振り返った。
紅は河村の準備が終わるのを待つ間に、激励の声をかけたのだ。
次の試合のために軽く身体を解していた菊丸が笑いながら答える。

「大丈~夫!勝って来るかんね。紅ちゃん、タカさんの事よろしく」
「了解。大石も次の試合頑張って。多分…この試合の間には帰ってこれないと思うから」
「わかったよ」

大石の答えに満足げに頷くと、紅は海堂とリョーマの方を向いた。

「海堂も頑張ってね」
「っス」

彼らしい短い返答に微笑み、隣のリョーマへと視線を向ける。

「頑張ってね」
「俺が負けると思ってんの?」
「思ってないよ。いい試合が出来るように頑張ってねって事」
「…それは向こう次第っスね」
「間違っても手塚の出番を作らないよーにね!」

リョーマの言葉の後に皆の方に向かってそう言うと、紅は河村を連れて試合会場を後にした。














病院を出ると、紅は携帯の電源を入れる。
同時に、メールの着信を告げる音が響いた。

『今から越前の試合開始!現状はダブルス2、シングルス3共に青学の勝ちだよ。急いで帰れ!』

…悠希からのメールだった。

「どうしたの?」
「悠希からのメール。英二と大石、海堂がちゃんと勝ってくれたみたい。今からリョーマの試合だってさ」
「雪耶先輩!タカさん!」

試合会場に向かおうとした二人に、前方から声がかかった。
声の主は桃城。

「どうしたの?」
「迎えに来ました!今から越前の試合っスよ!早く早く!」

桃城に急かされるようにして、二人は半ば駆け出すようにして病院を離れた。

05.04.25