Topaz  -友情と希望-

地区予選を明日に控えた放課後―――
紅と悠希は、部長である手塚と顧問の竜崎先生と共に部室に残っていた。

「先生…本当にこれで行くんですか?」

オーダー表を覗いていた紅が眉を顰めてそう問いかける。
横の悠希も思わず苦笑いを零していた。

「…本人達の希望だよ」
「希望って…あの二人…特にリョーマはダブルス不向きですよ?

って言うか、彼にやらせたらかなりヤバイです」
「おや、経験済みかい?」
「まぁ…。向こうで少々。彼は覚えてないと思いますけど」

向こうと言うのはアメリカでの事を指しているのだろう。
あの時はお互い幼かったと言えばそれまでだが、リョーマがダブルス向きに成長したとは到底思えない。
むしろあの性格からして、完璧シングルス向きに成長しているだろう。

「だから昨日リョーマがあんな事聞いてきたのね…」
「“あんな事”?」

竜崎先生の問いかけに、紅は頷きながら答えた。

「“ダブルスってどうすれば上手くいくんスか?”そう聞かれたんです。彼にはスキルはありますからね。

あと、難しい事があると言えば意思の疎通だって教えてあげたんですけど…」
「あの協調性の“き”の字も見当たらないあの越前がねぇ…」

紅の言葉に繋げるように、ピラピラとオーダー表を弄びながら悠希が言う。
その場に居た全員が同意見のようで、否定の声は上がらない。

「国光は出ないんだ?」
「ああ」
「今回は手塚が出る必要もないだろうからね。一応怪我の事もある」

竜崎先生の言葉に、紅は黙って頷いた。
彼女が従兄弟の怪我の事を知らないはずもない。
何より、医療の知識を持っている紅は手塚の腕の事をよく理解していたのだ。

「明日の第一試合は面白くなりそうですね」

オーダー表に視線を落として、紅はそう呟いた。













地区予選当日――

「~~~~~~っ!!」
「……わかる。言いたい事はわかるから笑わないで…」

隣で必死に笑うのを堪えている悠希に、紅が小さく声をかける。
そんな紅も苦笑いを浮かべているのだが…。

「な、何あのかけ声…っ。笑い死ぬ…っ!!」
「かけ声が妙な事は認めるけど…笑いすぎよ」

ダブルス2としてコートに上がっているリョーマと桃城。
第一試合が始まってすでに二分が経とうとしていた。
先ほどから真ん中にボールが来た時にかかるかけ声―――それが悠希を笑わせている原因なのだ。
阿吽の呼吸、とでも言いたいらしい。
真ん中の攻略はしっかりしてきたようだが―――

「あー…駄目。二人が縦に並んだ」

紅が呟くと同時に、相手のショットが空いている半分へと打ち込まれる。
守備範囲の広い二人は同時にボールを追った。
結果、二人はお互いのラケットをぶつける様にして得点を許してしまう。

「…やりおった」
「真ん中以外は意思の疎通0だな」

竜崎先生、手塚と言葉を続ける。
その隣では不二がふき出していた。
もちろん、紅の隣では悠希も同じくである。

『コートチェンジ』

向こうにペースを奪われたまま、審判のコールが響いた。













「人選を間違えたかの、手塚よ」
「はい」

コートに入る二人を見送った後、竜崎先生がそう漏らした。
迷う事なく即答する手塚に紅は苦笑を浮かべる。

「くらえっ!!」

桃城の弾丸サーブが放たれる。
だが、それはまるで吸い寄せられるかのようにリョーマの後頭部に直撃した。

「~~~!!~~~~~~っ!!」
「はいはい…声も出ないくらいに笑いたいのはよくわかったから…。落ち着きなって」

笑いすぎで咽そうになっている悠希の背中を叩きながら試合へと目を向ける。
試合を見守っている青学を沈黙が包む。

「桃先輩っそっちに行かないで…!!」

リョーマが打ったショットは相手コートの穴に吸い込まれる―――のではなく動いた桃城の後頭部にヒット。
先ほどとは逆の事が起こった。

「……CMで見たけど…あんな事ってホントに起こるものなのね…」

呆気に取られた表情で紅がそう呟いた。












結果としては、リョーマたちダブルス2は6-2で勝利。
最終的にはコートを綺麗に分割して、お互いにシングルス気分で試合を進めていった。
水を得た魚のように生き生きとしたプレーを見せた彼らに、紅は人知れず笑みを零す。
縦に割ったライン上のみダブルスと言う何とも珍試合を見せて試合は終了した。


『5勝0敗で青学の勝ちとします!!』

残りの試合は全て6-0と言う結果で圧勝だった。
昼食の後に決勝戦と言う事で、それまでは自由時間である事が顧問である竜崎先生から告げられる。

「紅、部長と不二が柿ノ木中の試合を見に行くって。どっちが付いていく?」

次の試合の準備物の点検をしていた紅に、悠希からの声がかかる。

「あぁ、じゃあ私行って来るわ」
「OK。残りの点検は私がしておくから行ってきて」
「ありがとう」

悠希の言葉を素直に受け取って、紅は待ってくれている二人の元へと足早に去っていった。













「弱い犬ほどよく吠える…」

柿ノ木中の試合を見ていた紅がそう呟いた。
九鬼という男の言葉に対してだが。

「いや、雪耶…否定は出来ないけど、それはあんまりじゃないかな?」
「そう?絶対負けない自信があるんだけど」
「……紅」
「了解。…大丈夫よ、本人に言ったりしないわ」

隣に居た手塚の眉間の皺が深まった事に気づいた紅は素直に彼の声を聞き入れる。
さすがに、紅は幼い頃から家同士の付き合いがあった為に、手塚の空気を読み取るのが上手い。

「決勝まで来ると思う?」
「どうだろうね」
「私はー…不動峰も侮れないと思うわ」
「?」
「実はちょっとだけ試合見てきたのよね」

それ以上は何も言わなかった。

05.04.18