Topaz  -友情と希望-

地区予選前のとある日曜日。

「あれ?リョーマは来てないの?」

ドリンクを運んできた紅が悠希に問いかけた。
悠希はコート内を見回した後、首を振る。
そんな彼女に、紅は苦笑いを浮かべた。

「まーた寝坊かな。私ちょっと先生に呼ばれたから行って来るわ」
「了解ー。早めに帰ってよね。レギュラーの練習相手は私じゃ出来ないんだから」
「はいはい」

そして、紅はコートを出て校舎内へと歩いていった。














「ん?女の子…がレギュラージャージ??」

用事を終えてコートへと戻ろうとしていた紅を視界に入れた人物がいた。
紅の方もその人物に気づく。
先に声を上げたのは向こうだった。

「!紅さん!!」
「え…。あ…赤也?」

自分の方へと駆けて来る人物、こと切原赤也。

「久しぶりっス!紅さんって青学だったんだ!?」
「………去年も話したと思うんだけど…」
「あれ?」
「まぁいいわ。久しぶりね。今日はどうしたの?」

赤也は紅の隣に落ち着くと彼女の歩調に合わせて歩く。
紅がそう問いかけると、赤也は頭を掻いて笑うだけだった。

「また寝過ごしたの?」
「…っス」
「はぁー…」

紅と赤也が会ったのもこう言う状況の時だった。
思わず紅から溜め息が漏れる。

「今度はどこに行くの?」
「柿ノ木中っス」
「……じゃあ、柿ノ木中学校前で降りなきゃ駄目でしょ…」
「はは…寝てました」
「全く…。……………で、君は何で私についてくるの?」

話をしながらもコートへと足を運んでいた紅。
その横を赤也は遅れないように、追い抜かさないように進んでいた。

「紅さん、コートまで案内してよ」
「…問題起こさない?」
「起こさない起こさない」
「……じゃ、付いてきて。どうなっても知らないからね、私は」

起こさない、と答えた赤也だったが、その表情は不安が残る物だった。
溜め息を吐きながらも紅は赤也をコートまで連れて行くことに決める。

「で、何で紅さんレギュラージャージ着てるんスか?」
「皆から貰ったのよ」
「へぇ~…。じゃあ、俺らの学校のもプレゼントしますから立海に来てくださいよ!」
「物で釣るな、物で。大体なんで私が他校まで行かなきゃいけないのよ」
「先輩達も喜びますって!」
「喜ばれても……嬉しいことは嬉しいけど困るって言うか…」
「んで、俺と試合してくださいよ!」
「それは嫌。赤也充血したら怖い」
「じゃあ、それはしませんから。約束します!」
「試合に集中すれば約束なんて忘れるくせに…。さ、着いたわよ」

そんな風に会話を弾ませている間にコートの近くへと着いた。

「じゃあ、私はマネージャーの仕事があるから。くれぐれも問題は起こさないでよ」

そう言って紅は部室へと入ってく。
赤也はその背中を見送ると、コートへと近づいていった。













「ちょっと、紅。あんた何を連れてきたの?」
「は?」
「他校生が入ってるって部長が怒ってるよ?」
「え…赤也何か問題起こした?」
「まだ問題とまではいってないみたいだけどね」
「…行って来る」
「行ってらっしゃーい」

部室の片づけをしていた紅だったが、溜め息をつきながらコートへと急いだ。













「アンタ潰「赤也!!」」

赤也の科白を最後まで言わさず、高い声が響く。
同時に三個のボールが全て違う方向から赤也を目指して飛んできた。

「で!ちょ!紅さんマジ痛いっス!!さすがの俺も紅さんのそれはイナせないっスよ!」
「問題起こすなって言ったでしょうが!!聞いてなかったのか、君はっ!!」

ラケットを片手に握り締めたまま赤也の傍まで寄ると、その耳を思いっきり引っ張った。
先ほどまで部長である手塚に冷たい目を向けていた奴と同一人物とは思えないほど…
何とも情けない姿だった。

「痛いっスよ、マジで!!」

赤也が涙目になったところで、紅は漸く彼を解放した。
自分が赤也に当てたボール三つをカゴに打ち戻すと、赤也を見る。

「今度立海にお邪魔する予定だったけど…赤也とは試合しないからね!」
「え!!そ、それは勘弁してくださいよ!」
「なら今すぐに帰る?」
「帰ります!」

必死に頷く赤也を見て、紅も漸く怒りを抑えた。
もっとも、怒っているように見せているだけで実際にはそれほど怒っていないのだが。

「おーい、荒井くん。ボール返すぜ!」

背中を向けたまま荒井の方へ向かってショットを放つ赤也。
そのボールが素晴らしく運の悪い方へと運んで行ってくれた。












「わ、悪気はなかったんっスよ~!!」
「……悪気がなかったで済んだら謝罪の言葉は必要ないでしょうが!」

赤也の放ったボールは、吸い寄せられるように荒井の隣にいた桃城にヒット。
まさか自分に来ると思っていなかったのか、ボールの勢いが強すぎたのか。
桃城は持っていたラケットを手放してしまった。
そのラケットはたっぷりとボールの入ったカゴを抱えていたカチローの頭に直撃。
自由になったボールはコート内へと散乱した。
あちこちでボールを踏んで転ぶ部員が続出する中、苛立った一人が怒鳴り声と共にボールを投げる。

最悪に運が悪かったのはその先にいたのが―――

「やったの誰だ…!?」

海堂だったことだろう。

「うわ――っ!!海堂がキレた!!」
「あ!赤也逃げるなっ!!」

そそくさとコート内から逃げ出した赤也を追うように、紅もコートから出て行く。








「紅さん見逃してくださいよ!」
「いいわよ?今見逃すならちゃんと君の先輩には報告させてもらうわ。特に詐欺師に」
「げ。あの人は駄目っスよ!紅さんの頼みだったら悪魔とでも契約しそうなんだから!!」
「あんた…仮にも先輩に向かってそれはないでしょーよ…」

05.04.10