Topaz -友情と希望-
「ウォンバイ雪耶、6-2!」
終了のコールが響く。
「悠希~!無事終わらせてきました!」
「はいはい。あんた試合の後は妙にテンション高いわね」
「久しぶりに楽しんだからね!」
ラケットをクルクルと回しながら紅は悠希の元へと歩く。
用意してあったドリンクの一つを彼女に差し出すと、悠希はリョーマの方を向く。
「って事で…部長との関係はまた後日ね」
「…………………」
「あー、リョーマ」
ドリンクから口を離した紅がリョーマを呼ぶ。
「私から2ゲーム取ったから…一つだけ質問に答えてあげる」
ベンチに置いてあったドリンクを手渡しながら紅はリョーマにそう言った。
それを受け取ったリョーマがニヤリと口の端をあげる。
「んじゃ、早速…。
Were you in America three years ago?」
流麗な英語がリョーマの口から流れ出る。
部員達の反応から、その9割の人物が聞き取れていないであろう事は容易に想像できた。
いくら簡単な英語だったとしても、現地並みの速さで話されれば聞き取れないのも無理はない。
紅はにっこりと微笑み返す。
『 Yes sure. Because I went there to study for circumstances of work of father.』
『
I heard it. But I do not hear that you are a woman. I thought that itwas a man all the time.』
『
It is natural. I do not say. You misunderstood it without permission.』
「おーい。あんたらが英語話せる事はわかったから…。そろそろ止めないと頭がパンクしそうな奴がいるよ」
悠希が呆れたような声を発する。
ふと、思い出したように周りに視線を向ければ…
ある程度問題なく聞き取れているであろう人物数名。
笑いを浮かべているが殆ど聞き取れていないであろう人物これまた数名。
全く聞き取れずに苦笑いを浮かべている人物…十数名。
まぁ、様々な反応を見ることが出来た。
「……まだまだだね」
「現地の速さで喋られて聞き取れる方が普通じゃないのよ。喋れるあんたらも普通じゃないけど」
「留学してたら割と普通よ?」
かく言う悠希はと言うと…彼女の家の関係上、日常会話程度は理解できる。
故に、二人の会話はちゃんと聞き取れていた。
もっとも、悠希にすれば殆ど紅から聞いていたことばかりであったのだが。
「紅、一応今の会話を説明してやってくれないか」
「んー……要するに、三年前に私アメリカに留学してたんだよね」
三年前といえば小学生の頃。
まずその事実に驚きを隠せない部員達だった。
「その時に、向こうでリョーマと会ってたの。そう言う話」
かなり省略しているが…まぁ、内容的には間違っていない。
「所で越前…」
「何スか?不二先輩」
「雪耶は昔も強かったの?」
「……強かったっスよ。俺も勝てなかったし…」
視線を逸らしたのは悔しさからだろう。
「それにしても…何で雪耶さんはツイストサーブをあの一球しか打たなかったんだい?」
「身体に負担がかかるからよ」
「紅はツイストサーブだけフォームが独特なんだ。回数打てば肘を痛める」
「…ってことで、国光から1セットにつき一球って言われてるの。ま、普通のスライスサーブで問題ないし」
紅に代わって説明してくれた手塚に微笑むと、紅はそう答えた。
確かに彼女のサーブはキレがよくて…ノータッチエースも余裕でこなせる代物だ。
「手塚は紅ちゃんの事よく知ってるよね」
菊丸の声は不思議なほどコート内に響いた。
当事者二名は軽く溜め息を漏らす。
「だって…国光は私の従兄弟だし」
沈黙がその場を包んだのはほんの一瞬の事。
「「「「「「「「従兄弟!?!?!?」」」」」」」」
「紅――――!!あれだけバラすなって言ったのに!!!」
「ご、ごめん…。でも隠すほどの事でも…」
「これを隠さずに何を隠すって言うのよ!こんな面白い事実なのに!」
「(面白いって…。)」
それは何か違うだろうと思った紅だったが…それを口に出すほど愚かではない。
「部長と雪耶が…」
「って事は薄いながらも血の繋がりがあるって事だよな」
「基本的に従兄弟は似ていなくても可笑しくないが…これはまた両極端な二人だな」
ボソボソとあちらこちらで話し声が聞こえる。
「俺のデータにもそれはわからなかったな…」
「隠してたつもりはないんだけど…ね」
乾の言葉に、紅が苦笑を浮かべる。
「隠してたわよ?私が」
悠希がサラリと言ってのけた。
まぁ『彼女らしい』の一言で片付けられる事ではある。
「じゃ、じゃあ!部長と付き合ってるわけじゃないんですよね?」
「付き合うも何も…。名前で呼んでたのは手塚家では皆が『手塚』だから自然と国光になっただけだし…」
紅に問いただす勢いたるや恐ろしいものがあった。
その返答を聞いて喜ぶ者続出。
その光景に、紅は首を傾げて見せた。
「私…何か喜ぶような事言った?」
「紅がフリーって聞いて喜んでるんでしょ」
「フリーって…」
「ずっと部長と付き合ってると思ってたんでしょ」
「あぁ、なるほど…。私達ってそんな風に見えてたのかな?」
紅は隣にいる手塚に問う。
「…俺は知らん。普通に接していただけだからな」
「私もそうだと思うけど」
「………まず、部長が普通に接するって事が珍しいんだってば」
悠希が溜め息混じりに答える。
そんな彼女に、紅は苦笑いを浮かべるだけであった。
「……それより…私っていつの間にフリーになったの?」
「私の知る限りでは紅にはまだ彼氏がいたと思うけど…。勝手に勘違いしてるんだからさせておけば?」
「それはいいんだけど…あー…ひょっとしてあいつも国光との事気にしてるかな…」
「ま、ドキドキかもね。でもさ、事情は知ってるんだから大丈夫でしょ」
「…嬉しそうに言わないでよ、人事だと思って…」
「まさか!ちゃーんと親友の一大事だと思ってるよ?」
「………夜にでもメールしておこう…」
こんな二人の会話を知っているのは手塚だけだった。
05.03.30