Topaz  -友情と希望-

「雪耶先輩って部長と付き合ってるんスか?」

まだまだ入部したての越前リョーマ。
彼は思いもかけない爆弾を落としてくれた。













地区予選に向けて順調に練習が進んでいたある日。
部員の練習が多いほど、マネージャーの仕事も忙しい。
基本的に部長である手塚と話を進めるのは紅の役目。
部活前には二人で話しているのを見かける。
今日もいつもと同じような光景が見られたわけだが…。

「雪耶先輩って部長と付き合ってるんスか?」

この発言に、周囲に集まっていたレギュラー+乾・悠希が固まった。
話題の本人達もさすがに話を中断してリョーマの方へと視線を向けている。

「……………何で?」

本人、紅がリョーマにそう返した。

「部長の事名前で呼んでるのって先輩だけっスよ」
「…そうだっけ?」

紅がいつの間にか隣にやってきていた悠希に問う。
悠希は肩を竦めながら頷いた。

「んー…私達って付き合ってるの?国光」
「俺に聞くな」
「…付き合ってるって言うか、私達「ストーップ!!」」

紅が説明しようと口を開いたわけだが…悠希がそれに声を被せる。
その表情は何かを企んでいるもので…。

「越前?紅に質問したかったら……彼女に勝ちなさい」
「は?」

にっこりと微笑んで紅の腕に自分の腕を絡める。
紅は「また始まった…」と溜め息をついていた。

「紅にテニスで勝ちなさいって言ってんの。勝ったら教えてくれるわよ?」

悠希の言葉に、他のレギュラーが苦笑を浮かべていた。
もちろん、それは紅の実力を知っているからなのだが。
自分たちが同じ質問をした時にも同じように返されたのだ。
リョーマが聞いた事で自分達も聞けるかと思ったのだが…人生そう甘くは出来ていないらしい。

「いいっスね、それ。わかりやすくて」

ニヤリと口の端をあげたリョーマ。
紅は慌てて悠希を引っ張って彼らから遠ざかった。

「ちょっと、悠希ってば…。私試合する気はないよ?」
「何言ってんの。試合くらいやすいモンでしょ。じゃあ、何?話すの?」
「別に隠すほどの事じゃ…」
「去年はレギュラーの皆にああ言って断ったのに…今回だけルーキーの我が儘を聞くって言うの?」
「それは…」
「やるわよね?」
「………やらせていただきます」
「それでこそ我が親友!ちゃっちゃと勝ってきなさい!」
「はぁー…最近試合なんてしてないのに…」

溜め息を漏らす紅を、先ほどとは反対に悠希が皆の所まで引っ張っていく。
先ほどの位置に紅を戻すと、悠希は手塚の方を向いた。

「って事で…試合させてくれるよね?」
「部活中だ」
「コートを一つ貸してくれるだけでいいから」
「規律を乱すならグラウンド「手塚も走るなら走ってあげるわよ?」」

にっこりと笑っている悠希の笑顔は綺麗なのだが……有無を言わさぬ色が見て取れる。

「悠希…今じゃなくてもいいでしょ!国光が困ってるじゃないの!」
「今じゃなくていつやるのよ。あっちはやる気満々みたいだし」

そう言って悠希が指した方を見れば…何やらアップを始めているリョーマ。
しかもレギュラーたちが乗り気である。
かなり自分勝手な言い分なのだが…いつまで経っても平行線と判断した手塚が折れた。
さすがは部長。
引き際をよく理解していると思う。
思うのだが………。

「私からすれば粘って欲しかったんだけど…」

紅がそう呟いた所で後の祭り。
音符を飛ばしそうなほどご機嫌な親友に引き摺られるようにして、紅はコートへと連行された。














「1セットマッチね」
「…悠希が審判するの?」
「とーぜん!だって…皆すでに観戦者に落ち着いちゃってるし」

今日の部活は自主練が主だったので髪を結っていなかった紅。
頬にかかるそれに気づくと、手首にまいた紐を器用に片手で解いた。
そして腰ほどの長さの髪を結い上げて紐で纏め上げる。
邪魔にならないようにそれを後ろへと流すと、自分のラケットを持った。

「はぁー…」
「いい加減腹括ってくださいよ、先輩」
「…文句なしだからね。フィッチ?」
「スムース」
「………ん、君ね。どっち?」
「コートでいいっスよ。早く先輩のテニスを見たいからね」

ニヤリと口の端をあげてそう言うと、リョーマはネットから離れていった。
紅も仕方なく覚悟を決めて位置に着こうとしたのだが…。

「紅、紅」

ニコニコと笑顔を貼り付けて自分を呼ぶ親友にどこか嫌な予感を覚えつつ、彼女の元へと歩く。

「即行で決めなさいね。サービスエースなんて当たり前よ?」
「…別に負けても…」
「ん?負けたら一ヶ月駅前の喫茶店のケーキセット奢りねv一番高いの」
「悠希…あんたねぇ…」
「大丈夫大丈夫。いつもみたいに気を張らずに…久しぶりに楽しんできなよ」
「楽しんで…ね。了解」

返事を返すと、紅は悠希に背を向けてラケットを構える。
リョーマを見据えてふっと笑みを浮かべた。

「…覚悟してよね?」

必要以上に端整な顔立ちの紅が不敵に微笑んだとあれば……。
部員の頬が赤く染まるのも無理は無かった。
やれやれ、と言った風に悠希が溜め息を一つ。

「ザ・ベスト・オブ・1セットマッチ、雪耶サービスプレイ!」

悠希のコールを聞いて、紅がボールを上げた。

「上手く避けてね」

そう言うとラケットを振る。















「15-0」
「……やっぱりアンタ俺と会った事あるね」

落ちた帽子を拾い上げながらリョーマが言う。
紅はその言葉に笑みを返した。

「やっと気づいた?」
「まぁね」
「んじゃ、次行って見ようか」

弾んだ口調で紅がリョーマを挑発して見せた。

05.03.24