Topaz  -友情と希望-

「雪耶と佐倉!ちょっとこっちへおいで!!」

竜崎先生の声を聞いて、紅と悠希は二人で顔を見合わせた。
どうやらレギュラー陣の集まりの中から呼んでいるらしく、その姿は見えない。
準備済みのドリンクをベンチに置くと、竜崎先生の所へと駆けて行った。

「何ですか?」

彼女の姿が見えると、紅が先に声をかける。

「手塚から渡してやりな」
「…これだ」

そう言って二人にあるモノを手渡す。
真新しいそれは見紛う事なく―――

「「レギュラージャージ?」」

そのものであった。

「3年のレギュラーからのカンパでね」
「そうそう雪耶さんと佐倉さんがマネージャーをしてくれているおかげで俺たちが存分に練習できるから」
「そのお礼って事で受け取ってよ!」

彼らの言葉にはそれだけの感謝の思いが込められていた。
二人は笑顔を浮かべる。

「ありがとうっ」
「大事に使うからね!」

お礼を言うと、まだ袋に包まれたままだったジャージを取り出す。
新品の匂いのするそれに袖を通した。

「「ピッタリ…」」

思わず紅と悠希がそう漏らす。
そうなれば、とある疑問が浮かぶのは可笑しくない。

「何でサイズわかったの?」

悠希の声に、3年レギュラーの視線は彼の元へと注がれた。

「聞きたい?」
「え、遠慮しておきます」

ノートを片手にメガネをあげる乾に、二人は首を振った。

「って言うか…そんなデータまであるの?」
「はは…何か笑えない事実発覚」

どの程度までデータが取られているのかと不安になった二人だった。













二人が他の部員の手伝いがあるからとその場を離れていった。
竜崎先生も用事があるからと早々に校舎の中へと引き返す。

「っつーか…いつの間にカンパなんて集めてたんスか?」
「昨日の放課後」
「俺にも教えてくださいよ!雪耶先輩たちのジャージを買うなら俺も協力したのに!」
「…俺もっス」

桃城と海堂が乾に抗議していく。
一方、よく話が見えていないのは今年入ったばかりのリョーマ。

「…何でマネージャーにジャージを送るんスか?」

一番近くにいた河村にそう問いかける。

「あぁ、越前は知らないんだったよね」
「っス。たかがマネージャーでしょ?」

部員からジャージの事を聞かれているのだろう。
笑顔を浮かべて話しながら作業を進める紅と悠希を視界の端に捉えながら、リョーマは言う。
その声に一番に反応したのは意外な人物だった。

「“たかが”なら部員に慕われていないな」

手塚が静かに答える。
それに乗るように菊丸・不二が続けた。

「そうそう。この手塚が認めてるくらいだからね~!」
「二人の仕事ぶりを見ればわかると思うよ」

レギュラーたちの言葉に、リョーマはとりあえず頷くだけだった。












「先輩!そのジャージどうしたんですか?」
「レギュラーの皆に貰ったの」

そう言って嬉しそうに笑う紅。
少し離れた所では悠希が同じように部員に囲まれているのが見えた。

「何かねーレギュラーの皆で買ってくれたんだって」
「よく似合ってますよ!」
「俺もそう思います!」
「ありがとう」

にっこりと笑って言葉を返しながら、紅は球出しの手伝いをしていた。
ふと、一人の部員が呟く。

「…レギュラーだけずるいよな…」

その言葉を聞き取った部員が顔を見合わせる。
そして――――

「あれー?こっちの部員の球出しはもう終わったの?」

悠希が空になったカゴを持って紅の元へと帰ってきた。
紅は彼女の言葉に苦笑を返す。

「向こう」

コートの端に見える人だかりを指さして、紅が答えた。
恐らくその中心にはレギュラーたちがいるのだろう。
悠希が見ていたコートにいた部員も誘われるようにそこに集まっていく。

「一斉に走り出してったんだよね。あのままだと国光が…」
「いい加減にしろ!全員グラウンド10周!」

手塚の声が紅たちのところまで聞こえてきた。
部員が一斉に出て行ったために、急に閑散としてしまうコート。
残っているのは手塚と乾、それから1年生たち。
そしていつの間にか上手い事騒ぎから抜けていた不二だけだった。

「…何があったの?」
「そのジャージは2・3年の部員全員からのカンパ、と言う事に変更になった」
「そうなの?んじゃ、皆にお礼言わないと」

たった今走らされている原因が自分達だと知ると…二人は思わず苦笑を浮かべた。













「赤・青・黄のコーンと、そして同じ様に赤・青・黄に溝をぬり分けた3種類のボールを沢山用意した」

両足に合計1kgの鉛板を装着したレギュラーの前にボールが満杯まで入ったカゴが用意された。

「説明するよりやって見せた方が早いな」
「って事で…私がやってみるね」

自分のラケットで肩を叩きながら、紅はコートに立った。
紅が位置に付いたのを見ると、乾がボールを打つ。

「黄色!」

そう言いながらボールを黄色のコーンに当てる。

「もう二・三球いっておこうか」
「了解。今度は赤ね」

答えながら余裕でコーンへとボールを打ち返す紅を見て、リョーマが呟いた。

「…何か…あのフォームどっかで見覚えが…」

その声は小さく、他の誰の耳にも届く事はなかった。

05.03.14