Topaz -友情と希望-
「どんな感じ?」
次のランキング戦に向けてブロックを組んでいた手塚の後ろから紅が用紙を覗き込む。
「雪耶も出たいのかい?」
「あはは!出れるなら是非出てみたいですよね」
竜崎先生の言葉に紅は笑ってそう返した。
後ろでは大石もクスクスと笑っている。
「雪耶さんが出たら大変だな…レギュラーも危ういよ」
「そんな事ないって。私、君たちと試合できるほど体力ないから」
「所で…雪耶さんも竜崎先生と同じように気にしてる1年がいるみたいだな」
「悠希から聞いた?」
「そんな所」
手塚の後ろから竜崎先生の隣へと移動すると、椅子に腰掛ける。
座った状態で大石の方を振り向いた。
「いるよ。気にしてる1年生。一度ちゃんと試合してみたいな、あの子と」
「雪耶もテニスの好きな子だね」
「そりゃ、先生。当然でしょ?こう見えても女子の中では負けなしだから」
「男子は含まないのかい」
「あそこの硬い表情の部長さんに何度も負けてますよ」
用紙にペンを走らせる手塚の方を指して言った。
「そんなに上手いなら女子部に入ったらどうだい?今年からでも大歓迎だろうさ」
「嫌ですよ。マネとしてレギュラーの手伝いをした方がスキルアップに繋がりますもん」
「それはマネとは言わないよ、全く…」
「いいじゃないですか、先生。今年もやらせてくれるんでしょう?」
「もちろんだよ。しっかりレギュラーを扱いてやりな!」
「了ー解!」
ピッと敬礼のポーズを取る。
その時、ジャージのポケットに入れていた携帯が震えた。
「…“テニスコートを見ろ”?」
悠希からのメールにテニスコートが見える窓に近づく紅。
「!国光と大石!!面白い事になってるっ!!」
至極楽しそうな声で二人を呼ぶために振り返ると、すぐにまたテニスコートに視線を落とした。
何事かとまず大石が紅の隣まで移動。
そんな二人の様子に溜め息を一度漏らして手塚も窓の方へと近づいた。
丁度、帽子を被った1年生の打ったボールが荒井の右サイドを抜けた所だった。
「…あのラケット……捨てておいてって言わなかった?」
「「…………………」」
「ま、おかげで面白い試合が見れたから許してあげるけど」
今度は荒井の足元に落ちたボールをリョーマの打ったボールが弾く。
ボロボロのラケットにも拘らず、素晴らしいコントロールだ。
「さすが。腕は全然落ちてないんだね、リョーマ…」
ランキング戦の用紙にはしっかりとリョーマの名前が記されていた。
「悠希、受付の交代はいつだっけ?」
「午後からー」
「あのさ…私…」
「例の1年生君と海堂の試合が見たいの?」
「…よくお分かりで」
「長い付き合いですから。いいよ、行ってきな。その試合の間は私が受付しててあげるから」
「ありがと!!悠希大好きっ!!」
「その代わり不二の試合は代わってね。あいつのデータ取ってみたいから」
ボールの籠を運びながら二人は部室の方へと歩きだす。
ふと、女子テニス部の中に知った人物を見つけて紅が声をかけた。
「桜乃ちゃん!」
長い三つ編みの女子が紅の声に反応して振り向いた。
「あ、紅先輩!」
素振りの練習中だったようだが、急いで紅の傍へと駆け寄ってくる。
そして、紅の隣に立つ悠希へと視線が移った。
「あ、私の親友。男テニマネージャーの佐倉悠希よ。ちなみにクラスは私と同じ3-1ね」
「は、初めまして!竜崎桜乃ですっ!」
「桜乃ちゃんね。悠希よ、よろしく」
ボールの詰まった籠を下ろして握手を交わす二人。
「桜乃ちゃん、素振りの練習?」
「はい。でも上手くできなくて…さっきリョーマ君がアドバイスしてくれたんですけど…」
「リョーマが…?ふーん…アドバイスなんて出来るようになったんだね」
紅の脳裏に、今よりも少し幼い頃のリョーマが浮かぶ。
「一度振ってみなよ。見ててあげるから」
そう言うと、桜乃はすぐに素振りの体勢に入る。
勢いよく…とまでは行かないがそれなりに振り切られたラケット。
「まだ膝が伸びてるね。基本の形は腕をこうして…」
桜乃の背後に回って問題の合った箇所を直して行く。
ちゃんとしたフォームに戻ったのを確認すると、紅は再び桜乃の前に立った。
「それで振ってみなよ」
「はい!あ…振り易い…」
「でしょ?初めに癖が付くと後々苦労するからね。そのフォームをしっかり覚えてなよ」
「ありがとうございます!」
振り易くなったのが嬉しいのか、桜乃は笑顔で紅にお礼を言った。
そんな二人を横で見ていた悠希が校舎に掛かった時計を見て紅を呼ぶ。
「可愛がるのはその辺にしときなよ、紅。時間もないんだし」
「あ、そっか。ごめんごめん。じゃ、頑張ってね」
地面に置いたままだった籠を持ち上げて二人は部室へと入っていった。
「ねぇ、噂の1年生君って紅の何?」
「越前リョーマの事?」
「そうそう。あの子以外に噂になってる1年なんていないでしょ」
「うーん…アメリカにいた時の友達、かな。向こうは覚えてないかも…って言うより多分覚えてないけど」
二人で使い物にならないボールを分けていく。
「何で?」
「…向こうが男の子って勘違いしてたような気がする。私もそれを否定した覚えがないし」
「……でもさ!顔を覚えてるかもよ?」
「3年も前の話を?私だったら覚えてないね」
「………………………………」
悠希が言葉を失っていたが、紅はどこ吹く風で作業を進めていく。
3年前、紅は親の仕事関係でアメリカへと渡っていた。
その時に偶々リョーマと会った事があったのだ。
『君、凄くフォームが綺麗だね』
『…誰?アンタ』
『私のことは…
コウって呼んでくれればいいよ。折角だから相手してくれない?』
『…
コウね。いいよ』
『お手柔らかに』
何度かストリートテニスで出会った二人はよく試合をしていた。
試合結果は………またの機会に。
05.03.10