幼い記憶  21

リゼンブールに着いて三日。
エドは無事に機械鎧を取り戻していた。
義肢のままでコウを探しに行こうとしたエド。
言うまでもなく周囲からの反対を受けて、仕方なく三日間をロックベル家で過ごす事となった。

「兄さん、これからどこを探すつもり?」

金属のぶつかり合う音の合間に、アルがそう問う。
お互いに攻撃を与え、受けつつ言葉を交わす。

「どこを探せばいいんだろう…なっ!」

避けた反動を利用して足をアルに振り下ろす。
機械鎧の作動確認を兼ねた組み手を始めてから十数分。
三日分のイライラをぶつけ合うように攻撃を繰り出す。

「コウの家は?」
「あそこはもう何年って使ってないだろ」
「だからこそ、調べるんじゃないか」

組み手が終わると、二人で草の上に腰を下ろす。

「……駄目元で行ってみるか」

今ここにいない幼馴染に思いを馳せ、二人の兄弟は立ち上がった。












「話は終わったの?」
「…寝てるよ。混乱させたみたいだね」

ラストの声に、困ったような笑みを浮かべるエンヴィー。
彼女からすればそんなエンヴィーの表情に驚きを隠せない。

普段は返り血を浴びて笑っているような男が。
一人の少女の髪を梳きながら優しい笑みを見せていた。

「ご執心ね。そんなに大事?」
「まぁね…」
「私には関係ないけど……坊やが来るわよ」

それだけを言うと、ラストは部屋から出て行った。

「おチビさんか…もう時間がなさそうだね…」

呟いて、目を閉ざすコウに視線を落す。
ベッドに腰掛けたエンヴィーの脇で眠るコウ。
エンヴィーがその場から動けないのには原因があった。
コウの手はしっかりとエンヴィーの髪を握り締めていたのだ。

不安で、誰に縋りたくて伸ばした手。
そんな中で自分に縋ってくれた事が。
離れて欲しくないと願ってくれた事が。

こんなにも嬉しい。

「コウ……俺たちを選んで…」

額にかかる髪を払い、エンヴィーはそこに静かにキスを落した。












「本当に久しぶりだよな…」

ロックベル家よりも大きな家を前に、エドはそう呟く。
幼い頃には何度も訪れたが、コウの両親が死んでからはこの敷地内に足を踏み入れたことはなかった。

「兄さん…コウはいるのかな?」
「どうだろうな」
「……ねぇ…鍵はどうするの?」

アルの言葉に、エドがはっきりとわかるほど固まった。

「…………………忍び込む!」

暫しの沈黙の後のこの言葉。
アルは思わず溜め息を吐いた。
そんな弟の気持ちも知らず、エドは閉ざされたフェンスに手をかけた。











「ん…?」

コウがゆっくりと目を開いた。
次第に鮮明になっていく視界に、ここ数日で見慣れた姿が目に入る。

「目が覚めた?」
「エンヴィー…私寝ちゃったんだ…」

身体を起こしながらそう言うと、不意に自分の指に絡まる物に気づいた。
目を落せば、しっかりと握り締めている一筋の漆黒の髪。
髪を辿っていけばコウの視線に気づいたのか口元で笑みを作るエンヴィー。

「えっと…もしかしなくても……動けなかっ…た?」

躊躇いがちにそう聞くと、エンヴィーが頷く。

「ご、ごめんなさい…」

頬を赤らめて握り締めていた指を外す。
そんなコウの様子に、エンヴィーは笑みを深めた。

「さて…そろそろ話に戻りたいんだけど…」
「あ、うん」

熱の篭った頬を押さえながら、コウが返事を返した。
笑いたい気持ちを抑え、エンヴィーが昨日からの話を再開した。

「自分の中に未完成の賢者の石がある…って言うのは納得できた?」
「一応は…。今まで考えなかったけど、等価交換が成り立たないことが今までにあったから…」

そう答えて、コウはエンヴィーに視線を向けた。
その眼は真剣で、エンヴィーは口を閉ざす。

「両親が死んだ時の事…詳しく教えて」
「……いいよ」

エンヴィーから全てを聞いた後でも、まだ心の奥で彼らを信じていた。
ずっと、愛する者だと思ってきた人たち。
そう簡単に考えを改める事はできなかった。
だからこそ、あの日の真実を知りたい。

あの日、あの場所にいたエンヴィーの口から。








『この人を殺さないで…こんな風にしてしまったのは…私の所為だから…』

自らの血に身体を染めながら、ユセリはそう微笑んだ。

『ユセリ……?う…うわあぁぁああああぁぁあああっ!!!』
『!?コウに手を出すなっ!』

エンヴィーは叫びながらコウの身体に触れようとするカイトにナイフを投げた。
ナイフは寸分狂わずカイトの心臓を射抜き、彼は床に倒れこむ。
カイトの目は、最後の時までユセリを映していた。
その時、彼によって眠らされていたコウが目を覚ます。

『だ…れ…?』
『あんたがコウ?』

横たわる二人を足元に、エンヴィーはコウに向かって微笑んだ。

(05.01.16)