幼い記憶  11

将軍の乗った列車が乗っ取られたという事で、司令部は慌しい状況に置かれていた。

「乗客名簿あがりました」

フュリーが紙切れをロイに手渡す。

「あー、本当に乗ってますね、ハクロのおっさん」
「まったく…東部の情勢が不安定なのは知ってるだろうに、こんな時にバカンスとは…」

乗客の中に将軍の名前を見て、ロイが呆れたような表情を見せる。
隣で名簿を覗き込んでいたハボックも然り。
名簿の中の乗客の名前を順に見ていって……ロイの目がとある名前の所で止まる。

「ああ諸君。今日は思ったより早く帰れそうだ」

そう言うと、名簿を手にしたまま口の端を上げる。

「鋼の錬金術師が乗っている」








「大佐…」
「何だね、中尉」
「エドワードくんが乗っていると言う事は…コウちゃんも乗ってるんですよね?」
「「「「「………………………」」」」」

リザの言葉に、一斉に名簿にかぶり付く東方司令部一行。
そこにはちゃんと、コウ・スフィリアの名前もあった。












「だからコレの一本前の汽車に乗ろうって言ったのに……」

コウは座席に深く座り込んだまま不平を漏らした。

「しょうがないよ…兄さんが寝坊したんだから…」
「んで?その張本人はすやすやおねんね?まったく…」

向かいの座席を一人で占領して眠りこける幼馴染を見て、コウが溜め息を漏らす。

「もー……面倒は嫌だったのにぃ…」

コウの視線は、乗客に銃を向ける男達に向けられていた。
膝の上のルシアを優しく撫でながら、コウはもう一度深く溜め息をつくのだった。






とある言葉に反応したエドが、成り行きで車両内の男達を叩きのめしてしまった。

「て言うか、こいつら誰?」
「乗っ取りの犯人さん」

無意識だったエドは、ようやくその疑問に辿り着いたようだ。
コウがその問いかけに短く答えを述べる。

「……コウ…何か不機嫌だな」
「誰かさんの寝坊の所為で汽車が一本遅れた上に、こんな面倒に巻き込まれたからねぇ…」

嫌味をサラサラと述べるコウ。
にっこりと笑っていたが、不機嫌なオーラを隠す事なく放っていた。

「わ、悪かったって…」
「別にー。謝ってもらったって事件が解決するわけじゃないし」
「………やればいいんだろ、やれば…」

コウの言葉に、エドが諦めた。
犯人に仲間が居ると聞いた乗客は、仲間が報復に来る事を恐れた。
口々に言葉を発する乗客に、三人はそれぞれに溜め息をつく。

「しょうがない。俺は上から、アルは下からでどうだ?」
「はいはい」
「私は?」
「コウはー…好きな方で」
「んじゃあ、エドと………・やっぱやめるわ。アルと下から行く」
「?わかった」

エドと一緒に。そう言おうとしたコウだったが、エドが窓枠に手をかけた時点でそれを取りやめた。
不思議そうに頭を傾けるが、エドはそのまま頷く。

「何でやめるの?」
「だってさー…」

理由を聞いてきたアルに答えるために、コウはエドを指さした。
窓から外へと出たエドだったが……汽車の風圧を全く考えていなかったようだ。
吹き飛ばされそうなエドにアルが手を伸ばす。

「こういう事」
「よーくわかったよ…」

去っていく足音を聞きながら、二人がそう話していた。










徐々に前の車両へと向かっていたコウとアル。
途中、何度か犯人と出会うものの、アルが前を歩いていれば何の問題もなかった。

「……ものすごく間抜けな犯人達ね…」

アルに銃弾を浴びせて、兆弾してくる弾を自分で食らい自滅していく犯人達。
コウたちは呆気に取られていた。

「エドはもう先頭車両に着いたのかな…」
「多分着いてると思うよ」

『あ――あ――。犯行グループのみなさん』

「………エドだ…」
「………兄さんだね…」

『機関室および後部車両は我々が奪還いたしました。残るはこの車両のみとなっております。

おとなしく人質を解放し投降するならよし。さもなくば強制排除させていただきますが…』

そこで一旦エドの放送が中断される。
二人には犯人の声は聞こえていないようだった。
だが、犯人の答えなどわかりきっていた。

「これで大人しく投降するようならトレインジャックなんてしないよね」
「うん」

アルが前方車両を覗き込む。
犯人が怒鳴っているのが見える。

『あらら、反抗する気満々?残念、交渉決裂』

その時、エドの特徴をよく捉えたマイクの下から水道管が錬成されてきた。

「コウ、避けた方がいいよ」
「ん?了解ー」

その様子を見ていたアルが、コウの腕を引いてドアの陰へと移動させた。
コウも素直にそれに従う。

『人質のみなさんは物陰に伏せてくださいねー』

そして、勢いよく水道管から水が車両内に流れ込んでくる。
アルが流れてくる水にあわせて車両のドアを開く。
夥しい量の水と共に、犯人グループの残りが流されてきた。

「いらっしゃい」

コウは残りの犯人をアルに任せて、水に濡れた車両を前へと進む。
でもエドを助ける気はないらしく…壁にもたれたまま犯人のリーダー、バルドとのやり取りを見ていた。
助けも要らない上に、勝敗は初めからわかりきっていた。










「コウ!!!」
「は、はい?」

汽車を降りたコウは自分の名を呼ばれる。
慌てて顔を上げれば、駆け寄ってくるロイが目に入った。

「ロイさん!!」

途端にパッと表情を明るくして、コウはその場から駆け出した。
後ろではエドがコウを呼び止めていたが…そんな声はコウには届いていない。

「久しぶり!!!」

ロイは飛びつくコウを慣れた様に受け止める。

「コウ…無事だったのか…」
「何が?……ああ、知ってるんだね。列車が乗っ取られたの」
「鋼のと一緒に名前があったからな」
「心配しなくても大丈夫だってば!私、あんな奴にやられるほど弱くないし」

笑顔でそう述べるコウ。
どこも異常なく、別れた時のままのコウを見て、ロイも笑みを浮かべる。
見事な過保護っぷりだが、司令部一行には慣れた光景だった。
約一名、その光景に不機嫌そうに膨れっ面の者も居たが…。
言うまでもなくエドだが…自分の所為で事件に巻き込まれた手前、二人を止めることは出来ない。

「だー!!いい加減離れろ!!」

が、我慢強くないのは今更改めて言う事でもない。
ベリッと音がしそうな勢いで引っ付いていたコウをロイから離す。
そんなエドの行動に、コウは不服そうに頬を膨らませた。

「エド!今ロイさんと話してるんだから…邪魔しないでよ!」
「うるせー!ただでさえ大佐が居るってのが嫌なのに何で話すのを見逃してやらなきゃなんねーんだよ!」
「な!私がロイさんと話すのは私の勝手でしょ!」
「気になるもんは気になるんだよ!」

二人で言い合いを始めてしまった。
すっかり蚊帳の外になってしまったロイは溜め息をつくとそれを止めるべく近づく。

「コウ、鋼の。いい加減にしておきなさい」
「元の原因は大佐だろうが!」「はーい」

それぞれの反応を返す二人。
少なくとも、コウの方は素直にそれに従ってロイの方へと移動した。

「ロイさん、リザさんたちは…」
「ああ、来ている」
「ホント?じゃあ、挨拶に行ってくるね!」

笑顔でそう言うと、駅のホームを走っていった。
後に残された男二人。
しばしの沈黙がその場を包んでいた。

「「……………」」

残された二人にこれと言って会話はなく。
仕方なく足並みそろえてコウの走り去った方へと歩き出した。