幼い記憶  10

翌日、ヨキの言葉通りに親方の家はほぼ全焼状態だった。
その光景にコウは息を呑んだ。
肩に乗ったルシアが心配そうに声を上げるが、コウはただ立ち尽くすばかりだった。

思い出すのはエドたちの旅立ちの日。
同じように黒く焼けた家の残骸を前に、コウもウィンリィと共に静かに涙を流した。
育ってきた場所が、誰かの居場所が失われるという事。
二度目の光景はまだ慣れるには不十分だった。

だから……その場から立ち去ったエドとアルに気づいていてもコウはその場から動かなかった。

「ルシア……エドたちなら何とかしてくれるよね?」

答えるように一声上げる愛猫に優しい視線を送る。

「コウだってあいつ等と同じなのか?」
「…カヤル……」

不意にかけられた言葉。
悲痛の表情というよりはエドに対する怒りが露になった表情をしていた。

「エドを、信じて欲しい」
「アイツの!アイツの何を信じろって言うんだよ!!何も………っ」

何もしてはくれない。

そう怒鳴ろうとして、カヤルはその口を閉ざす。
コウの耐えるように握り締められた手を。
そして、その表情を見てしまったから。

「私達錬金術師だって…万能じゃないのよ……」

道を失ったような、しかしエドを信じるその心の現われだった。
口を閉ざしたまま、カヤルは親方の方へと走り去った。
心配するように擦り寄るルシアを撫でて、コウも踵を返した。











「悪巧みは終わりましたか?」
「「コウ!」」

エドの足元で黄金色に光るモノ。
それはどう見ても金塊。
エドとアルが思わずコウから目を逸らした。
それを見てコウは溜め息を一つ漏らす。

「言うわけないでしょ。幼馴染の告げ口をしたって私には何のメリットもないし。

それにエドの悪巧みなんて今更だし?」
「な、何で俺の悪巧みなんだよ!アルかも知れねーじゃん!!」
「アルはそんなことしないし」

きっぱりと言い放つコウにエドは何やらダメージを受けていた。
その横でアルが笑いを漏らしていた事は言うまでもない。

「信用ないね、兄さん」
「うるせー!!」
「あれ、信用してると思ったの?」
「!?」

クスリと言う笑いつきで語られた言葉。
エドはそれに頭を抱えて座り込む。

「私はエドを信頼してるの。ここの事も口出ししないよ。

だから………任せるからね?」

コウは笑みを浮かべたままエドの横に座った。
頬をカアッと赤らめて顔を背けるエド。

「(……不覚にもエドが可愛いと思ったかも…。)」

楽しいものを見つけた子供のように、コウが表情を緩めた。
しかし今思った事をエドに伝えれば彼が拗ねる事は間違いない。
という事でコウはニコニコしていたものの黙っていた。

「………二人とも街に行かないの…?」

それを見ていたアルが溜め息交じりに一言。











『珍しいな、コウから電話をかけてくるなんて』
「いやー色々とありまして」
『で、今どこにいるんだ?』
「ユースウェル炭鉱」
『…随分遠くまで行ったんだな』
「うん」
『所で……何やら後ろが騒がしいようだが?』
「ああー…エドが色々してくれちゃってるから」
『鋼の…?』
「そうなんだよね」
「コウ」
「あ、ロイさんちょっと待ってね」

そこまで話してコウが受話器に手を当てた。

「何?」
「代わってくれないか?アイツの報告もしておきたいし」
「ああ、いいよー」

そう言うとコウは再度受話器に口を近づけた。

「ロイさん?あのね、エドが話があるって。代わるね」

ロイが答えたのを聞き、コウは受話器をエドに渡す。
途端に騒ぎの中心に連れて行かれてしまった。

『また何をやらかしたんだ、君は』
「別にー?」
『で、私に話とは?』
「ああ、ここの中尉の事で」
『…コウが電話をかけてくるより珍しいな』
「何がだよ」
『鋼のが私に報告する事だよ』
「ンなこと言ったって……仕方ねぇだろ。コウが大佐に話すのがいいって言って聞かねえんだから」
『コウが………なるほど。それで鋼のが納得した理由がわかった』
「……んで、用件に入るけど…」

エドはロイと話しつつ部屋の中央へと視線を向けた。
楽しそうに親方達と笑い会うコウがいて。
そのコウには暗い表情など微塵もなかった。

「んじゃ、そう言うことで」

そう言って電話を終える。
それに気づいたのか、コウが「あー!!」と声を上げた。

「な、何だよ?」
「私殆どロイさんと話してないのに!勝手に切らないでよー!!」
「あ、それかよ…。大佐がこっちに戻ったら司令部に顔出せってさ」
「もー……」
「膨れんなって。次は司令部の方に帰る予定だから」
「ホント?」

パッと嬉しそうに表情を明るくするコウ。
それにエドが笑みを浮かべた。

「嘘じゃねぇよ。一回報告に来いって大佐からも念を押されたからな」
「んーじゃあ許してあげる。

久しぶりにロイさんとリザさんに会えるーvv」

エドは嬉しそうにアルの方へと駆けて行くコウを見ていた。
一秒たりとも同じ表情をしていない幼馴染に自然と頬が緩む。

「あーあ…俺も過保護だよな、ホント」

果たしてそれは親愛からか異性愛からか…。
それはまだ本人にもわかっていない。