幼い記憶 08
「へぇ……錬金術の勉強をしてたんだ?」
「まぁ俺には才能がなかったんで研究はやめちまったがな」
「勿体無いなぁ…」
コウが嬉しそうに親方と話していた。
「しかしその歳で錬金術を使えるとはなぁ」
「そんなに偉いもんじゃないですよ」
「術師のよしみで代金サービスしとくぜ」
「やった!」
「ありがとうございます」
「大まけにまけて10万。嬢ちゃんは5万な」
「まだ高いよっ!!」
「あーそれくらいなら払えるかも…」
親方は料理を両手で運びつつ会話をしていた。
運ばれてきた料理にエドがフォークとナイフを持つ。
「そういや名前聞いてなかったな」
「あ、そうだっけ。エドワード・エルリック」
エドがそう名乗ると、親方の笑顔が固まる。
その様子を、顔を上げていたコウは見ていた。
料理に刺そうとしたフォークががちっと机に刺さる。
親方がエドの前の料理皿を取り上げつつ、笑顔で問う。
「錬金術師でエルリックって言ったら―――
国家錬金術師の?」
「……まあ、一応……」
コップに伸ばした手まで、空を掴む。
親方がコップを取り上げたのだった。
「なんなんだよ、いったい!」
「出てけ!」
そうしてぺっとエドとアルが外に放り出されてしまった。
何故か、コウはそのままである。
エドが何やら叫んでいたが、親方は「軍の犬にくれてやるメシも寝床もない」とその言葉を切り捨てた。
「あ、ボクは一般人でーす。国家なんたらじゃありませーん」
「おおそうか!よし入れ!」
「裏切り者っ!!」
入ってきたアルと入れ替わりに、コウが席を立つ。
「おう、どうした、嬢ちゃん」
「お邪魔しました」
コウはぺこっと頭を下げると、真っ直ぐに出口に向かって歩き出した。
「嬢ちゃんまで出てく必要は……」
「…コウ・スフィリア。それが私が両親より貰った名前です」
「コウ……スフィリア!?」
「ええ。国家錬金術師…………軍の犬です」
そう言うと、コウは扉を押し開けて外へと出て行く。
最後に振り向いたコウの表情はどこか悲しげだった。
「何でお前まで出て来るんだよ……」
「私だって同罪でしょう?同じ軍の犬よ」
「馬鹿やろー……」
「エドも同じね」
夜空に浮かぶ月を見上げながら、コウがエドに向かって微笑んだ。
「やっぱり……仇のためか?」
「……そうね。軍の犬と言われたとしても……目的のためなら何でもする」
「コウ……」
そんな風に二人で話していると、アルが宿から出てきた。
手には二つのトレイを持って。
「はい、兄さん。ボクに出されたのをこっそり持って来た。
あと……コウにはおばさんから」
「ありがとう、アル。あとでお礼言っててくれる?」
コウがそれを受け取ると、エドがアルに抱きつく。
現金だなぁと思いつつ、兄弟の仲の良さに笑みをこぼすコウだった。
「ボクも国家錬金術師の資格とろうかな」
「やめとけやめとけ!針のムシロに座るのは俺一人で充分だ!」
アルの漏らした言葉に、エドが笑いながらそう言った。
「軍の犬になり下がり―――か。返す言葉もないけどな」
「おまけに禁忌を犯してこの身体…。
師匠が知ったらなんて言うか…」
溜め息交じりにそう呟く。
一瞬の間を置いて、エドとアルがガチガチと震えだした。
「こっ…殺される………!!」
「そ、そんな大げさな……」
二人の様子にコウが苦笑を漏らしたが……。
どうやら事実らしい。
「一体どんな師匠なのよ……」
「何て言うか……すごいよ、いろんな意味で」
「へぇー……」
「なぁ、コウの師匠は?どんな人なんだ?」
急に自分の師匠が話題に上がり、コウはきょとんとした表情を見せた。
――が、すぐに笑みを浮かべる。
「優しい人。錬金術を使う側じゃなくて教える側の人みたいだったけど。
国家錬金術師になれたお祝いにこれをくれたの」
首のチョーカーを指先でいじりながら、コウがそう言った。
二人は覗き込むようにしてそれを見る。
「あれ……?コウ、リオールでそんなのつけてたっけ?」
「あぁ、リオールの街で貰ったの。師匠に会ったから……」
「あん時か!で、何て言うんだ?」
「何が?」
「名前だよ!師匠の名前」
「……知らないの。教えてもらわなかったから」
「知らないって……」
「今度会った時に教えてくれるって」
ピンッとクロスを弾き、コウは空を見あげた。
ふと、思い出したようにエドが周りをきょろきょろしだした。
「どうしたの?兄さん」
「いや……ルシアは?」
「ルシアなら今頃は散歩よ。もうすぐ帰ってくるでしょ。
――――ってほら」
コウが屋根の上を指差すと、白い猫が屋根から下りようとしているところだった。
軽やかに地面に降りると、迷わずコウの方へ走ってくる。
「お帰り、ルシア」
「ルシアにも同じチョーカー?」
「師匠がおそろいでくれたからv可愛いでしょ?」
自分の膝の上に乗ってきたルシアの身体を撫でつつ、コウがそのチョーカーを真っ直ぐに戻す。
「ねぇ、エドたちの師匠って「どけどけ!!」」
コウの声は誰かの怒鳴り声によってかき消された。