幼い記憶 07
「コウ……」
「んー…」
「起きろって!着くぞ!!」
「寝起きの悪さは健在だよね」
「……失礼ね、起きてるわよ」
汽車のスピードが徐々に落ち始めていた。
次に到着する場所は―――“東の終わりの街”ユースウェル炭鉱。
「なんか…炭鉱っていうともう少し活気のあるもんだと思ってたけど…」
「右に同じ」
「みなさんお疲れっぽい…」
駅を出た三人の感想だった。
エドの方を向いたコウが、あ、と声を上げる。
「エド危な……」
――ゴン――
「おっと、ごめんよ」
炭鉱の少年の運んでいた資材が、エドの後頭部に直撃した。
鈍い音を立てるそれに、コウが溜め息を漏らす。
「いてーなこの…。「へー!可愛いなぁ!!」」
少年に文句を言おうとしたエドだったが、すでに少年はエドから離れていた。
コウの前まで移動していたのだ。
「何?観光?どこから来たの?メシは?宿は決まってる?」
「は…?え…あ、あの…」
質問攻めにあったコウは、どれに答えていいのか分からなくなっていた。
そんなコウと少年の間にエドがはいる。
「コウに近づくな!」
「親父!客だ!」
「人の話聞けよ!!」
少年の声に反応して、仕事中の男性が四人の方を向く。
「あー?なんだってカヤル」
「客!美人と金ヅル!」
「金ヅルってなんだよ!!」
エドがむきになっている間に、コウはアルの傍まで避難していた。
「ねぇ…美人って誰の事?エドって結構綺麗だけど……」
「コウ……………」
アルは呆れて答えられなかった。
「いやホコリっぽくてすまねぇな。炭鉱の給料が少ないんで店と二束のワラジって訳よ」
三人は案内されるままに少年の父親の宿を訪れていた。
「別にいいんじゃないですか?私、派手な宿よりも好きですよ」
「ほぉー。嬉しい事言ってくれるじゃねぇか」
「うわぁ!髪が乱れるじゃないですか!」
親方に頭を撫でられ、コウは頬を膨らませながら乱れた髪を直す。
そうしている間に、親方は別の客の所へ行っていた。
「いい親方さんだね」
「そうだな。っつーか……お前髪くしゃくしゃだぞ」
「むー…括り直すか…」
そう言うと、コウはシュルッと髪を結い上げている紐を解いた。
銀色の髪が、重力に沿ってコウの肩へと流れる。
見方によっては金色に見えるその髪が、見る者の目を奪った。
「綺麗な髪ね」
「ありがとうございます」
「宿の方は一泊二食の三人分でよかったかしら?」
「はい。お世話になります」
「いくら?」
奥さんにエドが値段を聞くと、親方がニヤッと口の端をあげる。
「高ぇぞ?」
「ご心配なく。結構持ってるから」
「20万!あ、嬢ちゃんは半額にまけてやるよ」
その言葉に、エドが椅子から落ちる。
「ぼったくりもいいトコじゃねぇかよ!!」
ひとケタちがうわい!とエドが叫ぶ。
コウはと言うと……自分の財布の中身を確認していた。
かなり冷静である。
「うーん……足りそうにないわね。ツケといてもらえるなら後から払いに来るんだけど…」
「こんな街までそう簡単には来れないよ」
「確かに…アルはどうなの?」
エドが他をあたる、と宿を出ようとしていたが……親方に止められていた。
どうやら他も同じ料金らしい。
そうして、エドがようやく財布の中身を確認する。
―――が、当然の事ながら足りないようだ。
「………足りん…」
「まぁ…当然よね。そんな大金を持ち歩いてたら身体がいくつあっても足りないもん」
「こうなったら錬金術でこの石ころを金に変えて!」
「金の錬成は国家錬金法で禁止されてるでしょ!」
床にしゃがみ込んでの会話である。
ちなみにしゃがみ込んでいるのはエドとアルだけで、コウは椅子に座っている。
「バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ」
「兄さん悪!!」
「うわぁ……主人公の風上にも置けない…」
その会話を、カヤルが聞いていた。
「親父!この兄ちゃん錬金術師だ!!」