幼い記憶  06

「本当にやるの?」
「当たり前だろ!やるからにはとことんやらないとな!」
「別にいいけど…」

放送室での会話。
エドは机の上に座り、コウはベランダから下を見下ろしたまま。
すでにここの準備は整っている。
と、下を見ていたコウがアルのサインに気づいた。

「準備終わったみたいだよ」
「よし!こっちも役者の登場みたいだな」

バンッとドアが開け放たれ、息を切らせた教主が到着した。
コウはやれやれ、と言った風な表情のままエドの横まで歩く。
何やら苦し紛れの言葉を吐いているが、二人には全く効き目なしであった。

「もうあきらめたら?あんたの嘘もどうせすぐ街中に広まるぜ?」
「ぬかせ!教会内は私の直属の部下だし、バカ信者どもの情報操作などわけもないわ!」
「はぁー…あんたを信じてる人たちが可哀相ね」
「信者どもなど戦のための駒だ!ただの駒に同情など不要!!

それになあ、神のためだと信じ幸福のうちに死ねるなら奴らも本望だろうよ!

錬金術と奇跡の業の区別もつかん信者を量産して駒はいくらでも補給可能!」

熱く語りだした教主を他所に、エドはニヤニヤと笑みを浮かべていた。
そんなエドの横では、コウが必死に笑いを堪えているのが見て取れる。

「これしきの事で我が野望を阻止できるとでも思ったか!!」

教主の語りが一段落ついたところで、エドが声を漏らす。

「くっ…。ぶははははは!!」
「エ、エド…そんなに笑っちゃ…っ!!」

エドが笑い出したことで、コウにも限界が訪れた。
大笑いしている横で、コウもクスクスと声を漏らす。
そんな二人の様子を見て、教主が驚いた表情で二人を見た。

「!?何がおかしい!!」
「だぁ―――からあんたは三流だっつーんだよ、このハゲ!」
「小僧!!まだ言うか!!」
「はい、エド」
「サンキュ。これなーんだ♪」

コウがあるものをエドに手渡すと、エドがそれを教主に見えるように持った。
教主がそれを確認するように、わずかに目を細める。
それは、スイッチ。もちろん、電源はON。
そして、そのコードの先………マイクは教主の足元にある。

「まっ…」

教主の声は、マイクを通って外へと流れる。

『まさか…貴様―――――ッ!!!』

そして、アルが準備していた鐘から街へと響いた。
教主の叫び声が、街中に響き渡った。

『いつからだ!そのスイッチいつから…』
『最初からvもー全部だだもれv』
『なっなっなっ…なんて事を~~~~~~~~っっ』

街の人々は、ラジオから流れる教主の真実に目を丸くしていた。





「…このガキ…ぶち殺「遅ェよ!!」」

杖を銃に錬成し始めた教主だが、エドの方が早かった。
即座に機械鎧に刃を錬成すると、教主の銃の先を切り落とす。

「言っただろ?格が違うってよ」
「諦めなよ。エドに敵うはずがないんだからさ」

そう口をはさんだコウの方に、教主が身体を向けた。
そしてコウに向かって再び銃を錬成しようとした。

「私は…私はあきらめんぞ…。この石があるかぎり何度でも奇跡の業で…」
「コウ!!」

エドが焦ったように声を荒らげる。
だが、コウは特に焦る様子もなく、教主の方に向き直る。
その手には、すでに一丁の小さめの銃が握られていた。

――ばちぃっ――

「…っぎゃあああああああああああぁぁああああっ!!!う…腕っ…私の腕が!!」

――リバウンド――
賢者の石ではありえない事が、教主の身に起こっていた。

「な……なんで…いったい…」
「どうして…。賢者の石にリバウンドはありえないでしょ…!?」
「ああああああぁぁ痛ああぁあああああ!!!」
「うっさい!!」
「ぶあ!!」

いつまでもうるさく喚く教主に、エドが頭突きをかました。

「ただのリバウンドだろうが!!腕の一本や二本でギャーギャーさわぐな!!」
「ひィィイイイ~~~」
「石だ!賢者の石を見せろ!!」
「ひィ…いっ…石!?」

エドにものすごい剣幕で迫られ、教主が指輪をはめた手を胸の辺りまで上げた。
その時、ピキッという音が。
赤い石は指輪を離れ、カランと床に転がり落ちると、サラサラと風化するように消えた。

「壊れ…た…。

どういう事だ!「完全な物質」であるはずの賢者の石がなぜ壊れる!?」
「し、知らん、知らん!!私は何もきいてない!」

助けてくれ、とせがむ教主を前に、エドは賢者の石が偽物だったことにショックを受けていた。
やっと元の身体に戻れると思っていたエドにはショックが大きすぎたようだ。
コウは、小さく溜め息を漏らすだけだった。

期待していなかったわけではない。
だが、コウにとって記憶を戻すことがそんなに簡単なことでないこともわかっていた。

「おい、おっさんあんたよォ…」
「はいィ!?」
「街の人間だますわ、オレ達を殺そうとするわ。コウまで危ない目にあわせて…」
「え…?」
「あ…やばい」

そこまで来て、コウは危険を察知した。
床についたエドの手から、錬成反応が現れている。
床や天井がパキパキと錬成を始めた。
コウは迷わず開け放たれていた窓から下に飛び出した。
落下の途中で両手を合わせると、壁からロープを錬成する。
それを片手に、ひらりと衝撃を和らげて下に下りた。

「コウ!?どうしたの!?兄さんは??」
「あー…ちょっとキレてるから…」

コウは言葉の先を濁して、顎で上を示した。

「神の鉄槌くらっとけ!!」

エドの作り上げた石像が、教主のすぐ傍に拳を落とした。



「ハンパ物?」
「ああ。とんだムダ足だ。
やっとお前の身体を元に戻せるかと思ったのにな…」
「ボクより兄さんの方が先だろ。機械鎧は色々大変なんだからさぁ」
「…コウの記憶も…」
「…私の記憶は一番最後。君達の後だよ」

コウはにっこりと微笑んだ。
その笑顔に、二人が少なからず癒されたようだ。

「しょうがない。また、次さがすか…」

エドがまだ残念そうに立ち上がる。
それに倣って、コウもその場に立ち上がった。

「そんな…。うそよ…だって…生き返るって言ったもの…」
「あきらめな、ロゼ。元から――」
「…なんて事してくれたのよ…。
これからあたしは!何にすがって生きていけばいいのよ!!
教えてよ!!ねえ!!」
「そんな事自分で考えろ。

立って歩け。

前へ進め。

あんたには立派な足がついてるじゃないか」

エドはそのままロゼの横を通り過ぎると、振り返ることなく歩いていった。

「…勝手なことだったかもしれない。

余計なことだったかもしれない。
でも…エドがしたこと、無駄にしないで」
「コウ……」
「彼らがいたから…私は立ち上がれたの。

エドとアルのしたことを…意味のないことにはしないで」

そう言うと、コウもロゼの元を離れる。
自分を待っている二つの背中に向かって、地面を蹴った。






「…くそ!!あんな小僧に私の野望を…。

冗談じゃないぞ。これまでどれだけ投資をしたと…」
「ほーんと。せっかくいいところまでいったのに台無しだわ」

暗闇の中から、女性の声がした。

「久しぶりに来てみればこの騒ぎ。困った教主様ねぇ」
「あ…あんた達、どういう事だ!!
あんたがくれた賢者の石!壊れてしまったじゃないか!!あんなハンパ物つかませおって!!」
「いやぁね。あんたみたいなのに本物渡すわけないじゃないの」
「それなのにおチビさんにいいようにやられちゃって…情けないねぇ」

今度は若い男の声が響く。
同時に、闇の中から漆黒の長い髪の男が姿を見せた。

「あら、エンヴィー来てたの?」
「ちょっとこいつに言いたいことがあってね。
……・・アンタ、コウに手を出そうとしただろ?」

エンヴィーが目付きを鋭くして教主に近づいた。

「コウ…あの小僧といた小娘の事か!!」
「“小娘”、ね…」
「あの娘も余計なことをしおって…あやつらさえ始末できれば…っ!!」

その瞬間、ナイフが教主の咽を突き刺した。
それを投げたのはエンヴィー。

「……・・馬鹿じゃないの?お前みたいな奴にコウを殺らせるわけないだろ」
「…私が始末するはずだったのに…」
「あぁ、ゴメンネ。あんまりムカついたからさ」
「ま、手間が省けたけど」

エンヴィーがラストと話している間に、グラトニーが痙攣を起こしている教主を持ち上げた。
にーと笑みを浮かべる。

「おや、食べちゃいけないったら」
「別にいいじゃん。後片付けが楽になるんだし♪」

ぼりっと鈍い音が部屋の中に響く。

「さて…じゃあ、後は頼んだわよ、エンヴィー」
「あーあ…面倒なことしてくれたよね、本当」
「あんたのお気に入りは私が監視しておくから」
「…殺したら許さないよ?」
「わかってるわよ。こっちも、もう失敗は許されないわよ」
「はいはい」

エンヴィーは軽く両手を上げると、そのまま姿を変える。