幼い記憶 05
「…なるほど、そうか貴様…。
なぜこんなガキが“鋼”なんぞという厳つい称号を掲げているのか不思議でならなかったが…
そういう訳か…」
教主がニヤリと口の端をあげた。
「ロゼ、この者達はな。
錬金術師の間では暗黙のうちに禁じられている「人体錬成」を…
最大の禁忌を犯しおったのよ!!」
ロゼが怯えたように息を呑んだ。
コウは、ただあの日の様子を思い出していた。
決して忘れることのない、あの日の記憶を。
「兄さんは左足を失ったままの重傷で…
今度は僕の魂をその右腕と引き換えにして、この鎧に定着させたんだ」
「へっ…二人がかりで一人の人間を甦らせようとしてこのザマだ…。
ロゼ、人を甦らせるってことはこういうことだ。
その覚悟があるのか?あんたには!」
エドの声に、今まで目を閉じて大人しくしていたコウがその目を開いた。
ビクッと肩を震わせたロゼを見て、コウは軽く溜め息をついた。
「さて…取り込み中悪いけど、偽者さん。
その指輪を渡してくれない?」
コウが教主に向かってそう言うと、教主がくくくっと咽の奥で笑った。
「なるほどなるほど。それで賢者の石を欲するか。
そうだなあ、これを使えば人体錬成も成功するかもなぁ?」
「カン違いするなよハゲ!」「エドたちはその為にそれが欲しいんじゃないわよ!」
コウとエドの声が被る。
しばらく二人は顔を合わせていたが…コウがエドに続きを譲った。
「・・・・・・・・・石が欲しいのは元の身体に戻るためだ。
もっとも、元に戻れるかもだけどな…!」
「教主さん、もう一度言う。痛い目見ないうちに石を僕達に渡してほしい」
「…これで最後の忠告だよ」
上からエド、アル、コウのセリフである。
だが、教主は依然として石を渡す素振りは見せない。
それどころか、自分の杖に手を当てて錬成を始めたのだ。
「くく…神に近づきすぎ地に墜とされたおろか者どもめ…。
ならばこの私が今度こそしっかりと…神の元へ送りとどけてやろう!!」
教主は杖からマシンガンを錬成すると、行き成り激しく撃ち込んでくる。
辺りが煙にまかれる。
煙が納まった頃、ようやく三人の姿が確認できるようになった。
「いや、オレって神様に嫌われてるだろうからさ。
行っても追い返されると思うぜ!」
「右に同じく。
…・・・・・・・・・・・・・・・・・・エド、あれくらい私自分で避けれたんだけど」
エドは自分の前に壁を錬成して弾の雨を防いでいた。
そして、その右腕にはしっかりとコウの身体を抱え込んでいたのだ。
コウも瞬時に剣を盾に錬成しなおしていたのだが…
エドに助けられたために意味を成さずに右手に持ったままだった。
「ま、気にすんな!条件反射だって」
「もー…」
未だ不服そうなコウだが、エドが軽く宥めていた。
そうしている間に、教主が今度はアルを狙ってマシンガンを撃った。
アルはロゼに弾が当たらないように抱き上げると、その場を離れる。
「アル!いったん出るぞ!」
「あぁ!また!!自分で走れるってばっ!!!」
エドはアルに見えるようにドアを指さすと同時に、コウの腕を引いて走り出した。
コウはまた不機嫌な声を上げる。
「バカめ!!出口はこっちで操作せねば開かぬようになっておる!!」
「ああ、そうかい!」
「・・・・・・・・・学習能力ないね、おっさん・・・・・・」
エドが一時的にコウの腕を放すと、両手を合わせて壁についた。
同時に、立派な扉が錬成される。
「おおー…エドにしてはまともなデザインだね。
…・・・・・・・・・・・・・・・・・・って!また引っ張るわけ!?」
エドがコウを腕を離していたのは一瞬で、すぐにコウの腕を引いて扉を押し開けた。
すぐにそこから走り去ると、信者達が突如現れた扉とエドたちに呆然としていた。
―――が、すぐに教主の声によって四人を追い始める。
「…いい加減に放せ!」
「ってぇ!!殴ることねーだろうが!!」
「いつまでも放さないエドが悪い!!」
「こっちだ!」
「止まれ、そこの者!」
「あ…見つかった」
「ほら、ボウズに嬢ちゃん丸腰でこの人数相手にする気かい?」
「ケガしないうちにおとなしく捕まり…」
そんな信者の言葉に、エドはにこーっと笑ってパンっと両手を合わせた。
次の瞬間には、エドの機械鎧がかなり切れ味のよさそうなナイフに姿を変えた。
コウも同様に微笑みを浮かべたまま両手を合わせる。
こっちはリーチの長い槍を錬成した。
その様子を見て、信者達が一気に青ざめる。
その廊下には信者達の叫び声が木霊していた。
とある部屋の前を通ったとき、エドが徐に反応を見せた。
「お?この部屋は…」
「放送室よ。教主様がラジオで教義をする…」
「ほほ―――――う」
エドがニヤリと口の端をあげた。
アルは思った。
「なんかいやらしい事考えている」と。