幼い記憶  03

―――リオール―――

エルリック兄弟は、今日も賢者の石の情報を求めて街を彷徨い歩いていた。
片や、大きな鎧。
片や小さな少年とあっては、道行く人の注目を集めるのも必至。
だが、理由はそれだけではなかった。

「わかってたことだけど…すごく見られてるね…」
「あぁ…」
「何でだろうねぇ?」
「「(コウのせいだよ!!!)」」

一人理由がわからず首を傾ける少女。
それが更に周りの目を集めることなど知る由もない。
二人の幼馴染である少女―コウ―は、二人と同じくある目的のために彼らの旅についてきていた。
行く先々で人目を集めているのだが、コウはそっちの方面には酷く鈍いらしく、エルリック兄弟の悩みの種である。

見慣れている二人ですら、目を見張るほど綺麗な顔立ちであった。
更に言うと、エドよりも少しだけ背が高く、そして身体の均整が取れていた。

「…とにかく、この街で情報収集と行くか」
「じゃあさ、あそこの喫茶みたいなところに行こうよ。街の人も結構いるみたいだし」
「そうだね。兄さん、あそこに行こうよ」
「だな!じゃ、ついでに腹ごしらえといくか!!」



「あ、エドにアル。私ちょっとだけ向こうの店見てくるね」
「あぁ俺たちはここにいるから」
「気をつけてね?」
「了解。じゃあ、後でね」

ヒラヒラと手を振って、コウは二人から離れていった。


「さて!ルシア、どこから行こうか?」

コウは露店を前にしながら、その品物を見て回っていた。

「―――…コウ?」
「はい?」

すれ違った拍子に、コウは名前を呼ばれた。
不思議に思って振り返ると、そこには見慣れた人物が驚いた顔を見せていた。

「…師匠?」
「久しぶりだね~。何でこんな所に?一人?」
「いえ…幼馴染と旅してるから…。師匠はどうしてこんな所に?」
「俺?俺はー…仕事♪」
「そっか…あ、ごめんなさい。合格してからちゃんと挨拶に行かなくて…」
「そのこと?別に気にしてないよ。俺もあちこち回って捕まらなかっただろうし」

そう言って微笑むと、コウの師匠はコウの手を引いた。

「どっかで座って話さない?」
「うん!」

コウは手を引かれるままに、喫茶店の中へと入った。





「じゃ、無事に国家試験に合格したんだね」
「うん。二つ名は“銀翼の錬金術師”。これで錬成したからみたい」

コウは両腕のブレスレットを指して言った。
師匠は微笑みながらコウの頭を撫でた。

「よくやったね。これで、やっと仇を捜す旅に集中できるね」
「ありがとう」
「あ、はい。これ、あげる。俺からのプレゼントv」

ポケットから取り出した包みを、そのままコウの手の上に置いた。

「開けてもいい?」
「どうぞ」

コウが包みを開けると、中から二組のチョーカーが出てきた。
前にシルバーのクロスのついた、黒色のチョーカーが二つ。
師匠はそれのサイズの大きめの方を取り上げると、コウの後ろに回った。
コウの髪をまとめて横にずらすと、後ろからそのチョーカーをはめる。
はめ終わると、再びコウの前の席に座った。

「特注品だよ?そっちはルシアの分ね」
「ありがとう!」

コウは嬉しそうに微笑むと、膝の上のルシアの首にチョーカーをつけた。
サイズがピッタリのそれは、ルシアの純白の毛とよく合っていた。
ルシアも、礼を言うようにニャアと一声鳴いた。

「うん。よく似合ってるよ」
「嬉しー…」

コウはクロスを手でいじった。
ふと、師匠は壁にかかっている時計を見上げた。

「コウ、時間はいいの?幼馴染の彼らと一緒に旅をしてるんじゃないの?」
「ああ!!!忘れてたぁ!!!っと、ごめんなさい。私、もう行かないと!!!」
「別にいいよ。それも渡せたしね」
「あ!師匠、約束守ってよ!!」
「約束…?」
「合格したら名前を教えてくれるって言ったじゃない!!」
「あぁ、そんなこと言ったっけ?」
「言った!!」
「うーん…」

師匠は少し考えるように指で頬をかいた。
と、コウの耳元に口を寄せて、小さく呟いた。

「…今度会った時に教えてあげるよ」

コウにもちゃんと届いたらしく、少し不服そうな顔はしたものの、素直に頷いた。

「今度破ったら、許さないから。じゃあ、私行くね」
「わかってるよ。気をつけて旅を続けなよ?」
「うん!師匠も元気で!!」

そう言うと、コウはルシアを肩に乗せて、急いで店を出て行った。








コウが出て行って数分後、師匠の前に黒髪の妖艶な女性が座った。

「あの子がお気に入り?ずいぶん可愛い子じゃない」
「でしょ?殺しちゃダメだよ、ラスト。俺のだからv」
「殺さないわよ。あの子優秀な錬金術師ならしいじゃない。人柱になれるんじゃない?」
「…あの子はさせない。鋼のおチビさんで十分でしょ?」
「まぁ、今はね。ところで、いつまでその格好でいるの?」
「ん?あぁ、そっか。まだ“師匠”のままだっけ?」

ニヤッと笑うと、師匠は一瞬のうちに姿を変えた。
漆黒の髪の青年へと。
店の中には二人以外の客はいなかったものの、店員がその変身を目撃して、叫び声をあげた。

「きゃあ!!!ば、化けも……っ!!!」

最後まで叫ぶことなく、その女性はラストの爪によって絶命した。

「化け物?失礼なこと言うねぇ…。俺たちだって、一応は感情があるんだからね」
「それで?エンヴィー、あの子…コウって言ったかしら。どうするつもりなの?」
「しばらくは、おチビさんと一緒に旅をするんじゃないの?ま、監視はするから安心してよ」
「はぁ…遊ぶのも程ほどにしなさいよ?私はこれからあの教主のところに行って来るけど…」
「あぁ、偽の賢者の石を渡したおっさん?多分、コウもそこに行くと思うんだよね~…傷つけないでね?」
「勝手に怪我する分には責任は持てないわ」
「そ。………で、これどうするわけ?はっきり言ってうっとおしい」
「後でグラトニーに片付けさせるわ」
「じゃあ、俺もそろそろ行く」
「くれぐれも、仕事は忘れないでよ」
「了解」

エンヴィーは席を立つと、コウが去って行った方へと歩き出した。
店を出る瞬間には、また別の人間へと変身していた。

「おチビさんにだってくれてやるつもりはないからね」



エンヴィーの呟きを聞いた者は、誰もいない。