Labyrinth of memory

見上げる視線に感じたものは、デジャビュ。
金色の眼差しに重なったものは、アイツの眼に他ならなかった。







「もうすぐ鋼の錬金術師がやってくる。彼は優秀な錬金術師でね…君も一度会ってみたらどうだ?」

ロイの言葉に、コウが顔を上げる。
その目が不安げに揺れるのを前にして、彼は思わず苦笑を浮かべた。

「知らない人物と会うのは好ましくない事はわかる。しかし、私は会うべきだと思う」

ロイの視線を受けて、コウは静かに頷いた。














「久しいな、鋼の」
「ああ。俺は会いたくなかったけどな」

ふいっと視線を逸らす少年に、ロイは目を細める。
司令部の入り口で少年をからかうロイの姿は、周囲からすればさぞかし滑稽なものだっただろう。

編みこまれた金の三つ編み、そして、射抜くような同じく金色の眼。
男女の違いはあるものの、酷似する点が多すぎる。
これで赤の他人と言うの難しいだろう。
それを自分の眼で確かめたロイは、人知れず安堵の息を吐いた。
これで彼女の問題は無事に解決できるかもしれない、と。



これまでの報告もそこそこに、少年――エドワードは早々に司令部を後にしようとした。

「待ちたまえ。君に会わせたい…いや、会ってほしい人物がいる」

踵を返そうとする彼の横顔に声をかける。

「会ってほしい人物…?」
「ああ。女性なんだが…生憎記憶を失っている」
「…アルを待たせてるんだけど」
「なら、一緒に来てくれないか。君…と言うよりは君たち兄弟に関係する人物かもしれない」
「わーったよ。あいつは図書館で待ってるから…三十分後にここに来る。それでいいだろ?」
「あぁ。すまんな」

彼の返事を聞くと、エドは赤いコートをはためかせて歩き出す。













「アル!」

弟の姿を視界に捉えて、エドが声を上げる。
館長がジロリと睨むとバツが悪そうに頭を下げながら彼の元まで小走りで近づいた。

「早かったね、兄さん」
「ああ。こっちはどうだ?」
「あんまり。やっぱりここの図書館のは全部読んじゃってるからね。新しい本も探してみたけど…」
「そっか」

自分も、アルの前に積んであった本の一つに手を伸ばしそうになって、先程の約束を思い出す。
その手を引っ込めながら、エドがアルに言った。

「大佐が呼んでるんだ。何でも、会ってほしい人物が居るんだとさ。お前も一緒に行くぞ」
「会ってほしい?わかった。じゃあ、この本を元の場所に返さないと」
「だな」

二人で手分けして本を持ち上げては本棚に戻す作業を進める。
分厚い本の山を返しながら、アルがエドの背中に声をかけた。

「それにしても…珍しいね、大佐が兄さんに頼むなんて」
「だよな。俺も不思議だったんだけど…何でも記憶喪失なんだってさ、その人」
「記憶…大変だね」

最後の本を隙間に押し込むと、エドが元気よく立ち上がった。
パンッとコートの裾を払ってアルの方を振り返る。

「行くか!」

明るい笑顔を浮かべるエド。
そうして、二人は図書館を後にした。














「マスタング大佐」
「何だね?」

すでにほぼ一日この部屋に縛り付けられていたコウ。
初めこそ緊張していたものの、今ではかなり落ち着いた様子を見せていた。
それを見越して、エンヴィーは仕事を理由にこの場を離れている。
『夕方には迎えに来るから、それまで彼女を頼む』そう言い残して。
彼が居なくなってからは暫く不安げにしていたコウだったが、随分彼らとも打ち解けたようだ。
そんな彼女がロイを呼ぶ。

「私、何歳くらいに見えますか?」

その言葉に、ロイは箇条書きにしていたコウに関する書類から顔を上げて彼女を見つめる。
そして、ゆっくりと口を開いた。

「そうだな…17・8歳…くらいに見えるな」

彼女の外見から受け取った年齢を告げるロイ。
彼の言葉に、コウは笑みに苦笑を交じらせた。

「私、多分21歳です」
「21…!?」

コウの答えに、ロイが驚愕の表情を見せる。
今度は困ったように微笑むコウ。
その外見は、幼顔と見るには無理があった。

「確かなのか?」
「恐らくは。気がする、程度なので絶対とは言えませんが」

自身の指を絡ませながら、コウがゆっくりと語る。
確かに言動や仕草は21歳と言われても頷ける。
だが―――

「失礼。君の家系は幼顔の人が多いのか?」
「クスクス…わかりませんよ、そんなの。自分の事でもあやふやなんですから…」

笑いを零すコウ。
その時には、それが重大な事だとは思っていなかった。











――コンコン――

「大佐、エルリック兄弟をお連れしました」
「入ってくれ」

ノブの回る音がして、扉が押し開けられる。
初めに入ってきたのはコウにも見覚えのある青い軍服に身を包んだリザ。
彼女の陰に、赤いコートが揺れた。

リザが横に動く。

「彼が、エドワード・エルリック。鋼の二つ名を持つ、国家錬金術師だ。

後ろにいるのが弟のアルフォンス・エルリック」

ロイの声に釣られるように、コウの視線が動く。
自分と同じ金色の髪を三つ編みに結った少年と、鋼の鎧に身を包んだ人物が視界に入る。
その少年の―――自分と同じ色の眼が、大きく見開かれた。

「彼らに見覚えは…………鋼の?」

コウからエドへと視線を動かしたロイが、彼の様子に気づく。
アルの表情はわからないが、息を呑む声から彼も驚いていることがわかった。
見開いた眼はそのままに、震える唇でエドが言葉を紡ぐ。

「姉さん ――― …!?」

05.05.07