時舞う旅人  04

「教えてくれ!!どうやってこいつを!?誰が作ったんだ!?」
「ちょっと、エド…?」

尋常ではない様子に、コウは困惑したような表情を浮かべる。

「もしこいつが合成獣なら人体錬成に近い!なら、俺達の身体を元に戻す手がかりに…!!」
「兄さん!!」
「どうやって…!?…代償はその左腕なのか…!?」

エドの言葉にコウの藍色の目が揺れる。
彼のそれが終わるや否や、メラノスがコウの肩を掴んでいたエドの手を払いのけた。
そして彼の胸倉を掴み、怒気の宿る鋭い眼差しをエドに向ける。

「今度コウにその話をすればその残った腕も食い千切ってやる」
「メラノス…止めなさい。大丈夫だから」

コウがそう言えば、メラノスは静かに手を放した。
そのままストンッとエドは椅子に座る。
前髪をくしゃりと握り、搾り出すように言った。

「………ごめん…」
「…ワケありなのね。その右腕、左足と……アルの肉体は」
「……わかってたのか…?」
「鎧を纏う人や、機械鎧を足につけた人の足音は何度も聞いた。

私に左手を出してくれたのは、あなた自身の手で助けると言うクセがついているからじゃないの?」

結果として私のこれに気づかれちゃったみたいだけど。とコウは苦笑を浮かべた。
そして、二の腕の中ほどにはまっているバンクルの留め具を外す。
バンクルで固定されていた黒い布が落ち、光を反射させるそれの一部が露になった。

「機械鎧…」
「兄さんが言ってたのは本当だったんだ…」

女性用に作られているのか、エドの物よりはいくらか細く見える。
調子を確かめるように指を動かすコウ。
肩から腕全体機械鎧の彼とは違い、彼女は二の腕の中ほどからそれが付けられている。

「もういいだろ、コウ」

そう言ってメラノスが彼女の機械鎧を腕布で覆い、バンクルとカチリと嵌める。
踊り子である彼女は日頃、機械鎧を晒さないようにしている。
悲しげな眼で自分のそれを見つめていたコウが、エドの頭の中から消えない。
その瞳の奥に、自らと同じ自責の念を感じたのは気のせいではないように思えた。












「ねぇ、ご主……コウ」
「どうしたのよ?」

コウは手に持った本から視線を外し、自分の膝の上にいる彼にそれを向けた。
彼は膝の上で座りなおして見上げる。
くりくりとした藍の目がコウを映した。

「僕らはいつまで待たされればいいの?」
「…さぁ?」

コウは首を傾げると本を持ち直す。
翌日、彼らは東方司令部の一室に通されていた。
メラノスについて何か情報がもらえるかもしれないと言うエドについて、彼女もここへやってきたのだ。
それから早半時間。
エドが言う大佐と言う人物はその階級通りに忙しい人物のようだ。

「はぁ…軍部の匂いって嫌いなんだよね」

人間のように溜め息をついて肩を落とすメラノス。
そんな彼に苦笑を浮かべると、コウは本を持つ手とは逆のそれで彼の背中を撫でた。
毛並みを整えるように繰り返される動作にメラノスは機嫌を良くする。

「まぁ、もう少しだけ待とうね」
「…こうやって撫でててくれるなら待ってあげてもいいよ」

コウはそんな彼の言い分にクスリと笑い、本を横に置くとその柔らかい身体を抱き上げた。









「ぜーったい大佐も驚くぜ」
「ほぉ。私を驚かせるような物がそうそうあるとは思えないが」
「あれを見れば、錬金術師なら絶対驚く。なぁ、アル?」

廊下を進むロイの半歩分後ろを歩きながらエド言った。
アルも「驚かない人がいたら見てみたいね」と答える。
そんな彼らを一瞥すると、ロイは肩を竦めた。
そして、とある扉の前で止まる。

「彼女はここに?」
「ああ。受け付けの人に案内してもらったんだけど…まずかったのか?」
「…いや、構わんが…一応この部屋は国家資格受験申し込み者を通す部屋なんだが…」
「「…え!?」」
「通りで受験申し込み用紙などと言う不可解な物を渡されるわけだ。……まぁ、別に構わんだろう」

だったら態々言うなよ、と言う視線を向けるエド。
しかし、ロイがそんな物を気にするはずもない。
拍手を送りたくなるほど綺麗にじとりと纏わりつく視線を無視し、彼はドアノブに手をかけた。





「初めまして。“時の踊り子”…いや、ルデンタ、だったかね?」

部屋に入るなり人当たりの良い笑顔を浮かべてそう言ったロイ。
エドに言わせれば「胡散臭い笑顔」である。
革張りの長椅子に腰掛けていたコウは、メラノスを膝から長椅子へと下ろして立ち上がる。
ロイと軽く握手を交わし、口を開いた。

「初めまして。コウ・スフィリアと申します」
「ほぅ…。ルデンタは通り名かね?」
「ええ。えっと…マスタング大佐…でしたっけ?」

コウが自信なさげに首を傾げながら彼に問う。

「あぁ、失礼。ロイ・マスタングと言う。君の事は彼らから少しだけ話を聞いた」
「そうですか」
「君の踊りを見る事が出来なかったのは非常に残念だ。今度の踊りの予定を聞かせてはもらえないかね?」
「た・い・さ!!!ナンパみたいなセリフ吐いてんじゃねーよ!」

放っておけば翌日まででも話し込みそうなロイに、エドが耐え切れず口を挟む。
そんな彼を引きとめようとしていたアルはやれやれと言う仕草を見せていた。

「…焼きもちか?鋼の」
「誰が!!」
「男の嫉妬は見苦しいぞ?」
「違うっつってんだろ「はいはい、そこのお二人さん。コウが反応に困ってるから止めてもらえない?」」

アルではない、少し低めのテノール。
それが聞こえると共に、ロイの向かいにいたコウは勢いよく後方に引き寄せられる。
そして、ポスンッと彼の腕の中に納まった。

「コウは俺のなの」
「メラノス…」

コウが呆れた風に溜め息を漏らす。
今、彼女を腕に納めている人物は先程まではいなかったはず。
彼女を除く、男三人が驚きに目を見開いていた。

05.08.07