時舞う旅人 03
「ねぇ、あなた達の名前を聞かせてくれない?」
「「あ」」
コウがそう言って、彼らは初めて自分達が名乗っていない事に気づくのだった。
簡単な自己紹介を済ませた三人。
今日初めて会ったとは思えない程によく話が合う。
談笑を交える間に、話題は自然と旅の事へと移った。
「ところでコウっていくつなんだよ?」
「今年で17歳。あなた達は?」
「………俺は15」
「僕は14歳だよ」
「へぇー…年下なのね」
コウは感情を篭めずに「驚いた」と言う。
そんな彼女の反応を見てアルが口を開いた。
「変だと思わないの…?」
「何が?」
「だって、ほら…こんな格好で14歳だって…」
彼女が何も言わないだけに、アル自身が負い目を感じてしまったらしい。
一席空けて彼の横に座っていたエドの表情が翳る。
「別に。旅の間に色々な人と出逢ったわ。少しの事では驚かなくなったの」
「…ありがとう…」
「何もお礼を言われるようなことはしてないし、言ってないわよ」
そう言ってコウは微笑む。
彼女は年齢のわりに大人びた顔立ちをしていた。
恐らく、今までの生活環境や生き様が表情に表れているからだろう。
「それに、私の所にも面白い子がいるの」
「面白い子?」
「そろそろ来る頃だと思うんだけど…」
コウは窓の外に目を向ける。
ガラス越しに、行き交う人々が視界に入り込んだ。
エドも釣られる様にして視線を動かす。
「一体何が来「ご主人!」」
エドの声を遮るようにして高めの少年の声が響く。
同時に、彼の頭にたしっと何か軽い物が乗った。
「~~~~~~誰だ!人の頭の上に乗るヤツは!!!」
「ちょ、兄さん!それ…っ!!」
怒鳴ると同時にそれを引っ掴んで床に投げる。
アルが止める間もなかった。
しかし、それは空中で身体を捻って床へと足をつく。
「……黒猫…?」
まさか猫だとは思わなかったのか、エドはぽかんと間抜けに口を開く。
何であったにせよ、動物を投げるのはよくないと思うのだが…。
「お帰りなさい、メラノス」
彼の行動に苦笑を浮かべながら、コウは床に立った猫に腕を差し出す。
「あれ?じゃあ、さっきの「ご主人」って言うのは誰が…」
アルが先程エドのセリフを途切れさせた声の主を探して視線をめぐらせる。
しかし、店内には他に客はなく、店主すらも店の奥に引っ込んでいた。
「ご主人!僕を置いて行くなって何度言ったらわかるの!?酷いじゃないか!町中に放っていくなんて!!」
「ご、ごめんね。急いでいたから…。踊りの後はここに来るって言ってあったでしょう?」
「それでもだよ!一体どれだけ探し回ったと思って…!!」
「よしよし。大変だったわね。……って、エドとアル。どうしたの?」
メラノスと言う名の黒猫の喉をくすぐりながらコウは向かいに座る彼らを見た。
二人とも形容しがたいほどに間の抜けた表情をしている。
もっとも、アルはしている“ような気がする”だが。
フルフルと震える指でエドがメラノスを指す。
「コウ、そ、それ…!」
「今喋ったよね…!?」
エドの言葉をアルが続ける。
コウはメラノスに視線を落とした後、再び彼らを向いて答えた。
「喋るわよ。猫だもの」
「いやいや!猫は喋らないよ!!」
「っつーか動物が喋るなんてそんな非科学的な…っ!!」
首が取れるのではないかと心配したくなるような勢いで否定する二人。
メラノスはコウに撫でられてご機嫌なのか、彼女の膝の上でごろごろと喉を鳴らしている。
「そんな事言われても喋るものは喋るんだけど…ねぇ、メラ」
「…こいつら何者?コウが同席するなんて珍しいね」
「「喋った!!」」
声を揃える二人に、メラノスはやれやれと言う表情を見せる。
身体を起こすとコウの膝の上に行儀よく座りなおした。
「じゃあ、今からもっと驚かせてあげるよ」
メラノスがニヤリと笑った気がした。
「「~~~~~~~~っ!?!?!?!?!?」」
「はは!コウ、こいつら面白いね」
彼は二人を指して笑顔を見せる。
「メラ、重いから退いて欲しいわ…」
「あ、ごめんね」
そう言って彼は足を床についた後、隣の椅子に移動する。
…二足歩行で。
「猫が…に、人間になったよ!!兄さん!!何で!?!?」
「お、俺が知るか!!」
只管混乱している二人を前に、コウはメラノスに余分だった料理を取り分けてやる。
彼は慣れた手つきでフォークを使い出した。
メラノスは黒猫である。
当然、人間になった時の髪色も黒で長さは後ろだけロイよりも少し長いくらい。
年齢は10歳前後に見え、目は彼女より少し明るめの藍色。
身長は……この中で唯一エドが見下ろせる高さである。
「あー…えー…うん。説明はコウに任せる」
色々と考えたようだが、結局はわからなかったようだ。
降参と言う風に両腕を持ち上げる。
漸く二人とも落ち着きを取り戻したようだ。
「彼の名前はメラノス。外国の言葉で『黒』と言う意味よ。物心がついた頃には一緒にいたわね」
「だー!!そんな事が聞きたいんじゃなくて!!」
「何で喋って人間になれるのかは不明。合成獣の類じゃないかと私は思ってるの」
「あ、そうか。合成獣なら可能性はゼロじゃない…………って、コウ…何で合成獣の類って…」
ぶつぶつと考え込んでいたエドが顔を上げる。
コウは「言ってなかった?」と言う風に彼とアルを交互に見た。
「私も錬金術師よ。エドみたいに国家資格は持ってないけど…」
「「錬金術師!?」」
「今日はよく驚く日ね。そんなに大きな声を出すと喉が嗄れるわよ」
クスクスとコウは笑った。
その時――
――ダンッ!!!――
エドが勢いよく立ち上がり、机に手をついた。
一瞬食器類が飛び跳ね、煩い音を立てる。
彼は酷く真剣な…それでいて必死の形相でコウに詰め寄った。
「教えてくれ!!どうやってこいつを!?誰が作ったんだ!?」
05.08.05