時舞う旅人 01
店の一角に、面白い組み合わせの旅人がいた。
片や大きな鎧。
そして、どうしても鎧の彼と比べられてしまう金髪の少年。
店内に一歩足を踏み入れた人は皆彼らを一瞥し、それぞれの反応を示した後席に着いた。
「うわ!何か変な組み合わせだなぁ…」
「あぁ。鎧の傍にいるだけに余計に小さく…」
ヒソヒソと交わされる言葉。
そんな会話に、金髪の彼の肩がフルフルと揺れた。
「に、兄さん…」
「誰がミジンコといい勝負のドチビだーっ!?!?」
“小さい”だの“チビ”だのに繋がる事柄に関しての彼の沸点は驚くほどに低い。
店内を破壊せんばかりに暴れる彼に、鎧の彼が深く溜め息を付いて目の辺りに手をやる。
「あー…もう…。これで三回目…」
店主に追い出されるのも時間の問題である。
「もう!兄さんはもう少し忍耐ってものを鍛えないと駄目だよ!
情報を貰う前に追い出されちゃったじゃないか!」
鎧の彼、もといアルフォンス・エルリックがそう声を上げる。
その横を歩くエドはバツが悪そうに顔を背けた。
「あいつ等が悪い!」
「暴れる兄さんも兄さんだよ」
「とにかく、済んだ事は忘れて情報収集と行こうぜ!」
そう言ってエドは小走りに道を進む。
彼はアルを振り返りながら言葉を紡いでいた。
「兄さん!前を見ないとぶつか「うぉわ!!」」
アルの言葉は最後まで発せられなかった。
何ともお約束の行動を取ってくれる兄に、アルの溜め息は尽きない。
エドはアルの忠告通り、道行く人物に体当たりをかましていた。
フードを深く被った人が、今回の被害者のようだ。
「っと、悪い!!大丈夫か!?」
「大丈夫ですか?すみません、兄さんが思いっきり…」
起き上がったエドと慌てて駆け寄ったアルが、エドの前で地面にこけてしまった人に声を掛ける。
原因を作った彼は慌ててその人に手を差し出した。
「いえ。お気になさらずに。大丈夫ですから…」
差し出されたエドの左手を、黒い手袋を嵌めた手で取り声を上げる。
存外に高い声は、その主が女性である事を彼らに教えた。
ぐいっと彼女の手を引いて起き上がるのを手助けするエド。
「…!」
「ありがとうございました」
立ち上がった彼女はパンッとコートの後ろを掃い、そうお礼を言った。
フードに隠れて顔の殆どは見えないが、唯一見えている口元は優しい笑みを刻んでいる。
「いえ、こっちこそぶつかってごめんなさい。ほら、兄さん」
「あ、ああ…。悪かったな。怪我とか――ないか?」
「ええ。大丈夫ですよ」
「おーい!“時の踊り子”の踊りが始まるらしいぞ!」
彼女の声が終わるや否や、道行く人の一人がそう声を上げた。
その声に、人々が広場へと移動する。
中には店を閉めてまでそこへ集う人もいた。
それらを見送るエドとアルとは裏腹に、彼女は行動を起こす。
「では、私はこれで…」
そう言って彼女も広場に行く人の波に紛れていった。
残された二人がその場に佇む。
「…兄さんが言ってた“時の踊り子”の踊りだって。見に行って……兄さん?」
「……………機械鎧」
「え?」
「あの子の手、機械鎧だった」
自分の左手を見下ろしてエドがそう告げる。
アルは驚いたように口を閉ざした。
「…でも、こんな時代だから…機械鎧は珍しい事じゃないよ」
「そう…だな」
腑に落ちない様子で手を見つめるエドに、アルは本日数度目の溜め息を落す。
そして、彼の襟首を掴むと広場を目指して歩き出した。
「お、おい!引っ張るなって!!」
「兄さんに付き合ってたら踊りが終わっちゃうよ」
「だからって襟…ぐえっ!」
広場には大きな人だかりが出来ていた。
街中が挙って“時の踊り子”の踊りを見るために集まっている。
「いつぞやのリオールみたいだな」
そう言って、エドは自分の鞄の上に立った。
もちろんアルはそんな事をする必要はない。
「おー。見えた見えた」
同心円状に集う人々。
その中心に、その人物はいた。
浅葱色の髪はまるで水の流れのように穏やかに揺れる。
身に纏う衣装は白を基調にした柔らかい素材らしく、その動きに合わせて蝶の羽の如く表情を変えた。
左手以外の四肢に付けられているブレスレットが、動く度にシャン…シャン…と綺麗な音を立てる。
音のない左手には、指先は手袋のように始まり二の腕の中ほどまで黒い布で緩く覆われていた。
それも衣装の一部らしく、身体を包むそれ同様に揺れ動く。
一見アンバランスな白と黒は、互いを引き立てあった。
ブレスレットと耳に光るピアス以外に余分なアクセサリーはない。
音と言えるものはブレスレットが奏でるそれと、その緋色の唇から紡がれる歌声のみ。
シャンッと短いそれを最後に、彼女は流れるような動きを止めた。
一瞬の間を置いて、割れんばかりの拍手が広場を包み込む。
『何でも、彼女の踊りは時を止めるらしい』
大佐の言葉が、今頃になってエドの頭を過ぎった。
「…どこが噂なんだよ…」
エドが呟く。
その声は周囲の喝采の中に掻き消された。
「名前を教えてくれ!!“時の踊り子”!」
どこからかそんな声が上がった。
それに同意して彼女の答えを待つように、拍手喝采が鳴り止む。
彼女は優雅に腰を追った後、歌声を響かせていた唇にそれを乗せた。
「ルデンタ…そうお呼びください」
「「………あ」」
紡がれた声に、エドとアルが同時にそう声を上げた。
05.08.02