闇の支配者  19

「あれ?ラース、帰ってたんだ?」

暗い廊下を進んでいたコウが、不意に足を止めた。
隣を進んでいたエンヴィーも同じく歩みを止める。
二人の視線を受けて、大総統…もといラースが言葉を発する。

「グリードを連れて帰った」
「ホント?頼んでおいた事ちゃんとしてくれたんだね。ありがとう」

コウがにっこりと笑ってラースに走り寄る。
そんなコウを見て不機嫌そうに眉を顰めるものの、エンヴィーもコウの後について歩いた。

「で、グリードはどこ?」
「先にあの方の所に連れて行った」
「ふぅん…」
「お前達にも集まるように言っていたぞ?早くしたほうがいい」
「あ、そうなんだ。わかった。用事済ませたらすぐに向かうよ。行こう、エンヴィー」

そう言って、コウはエンヴィーの腕を引いて出口へと駆け出した。
今朝お父様から言いつけられていた仕事をこなす為に。
ラースに鋭い視線を向けた後、エンヴィーは引かれるままにコウに合わせて走り出した。











「おかえりなさい、大総統」
「南部の視察はどうだった?」
「うむ。意義のあるものになった。

鋼の錬金術師の弟……ひょっとしたらその師匠も人柱になりうる人材かもしれん。
そしてもうひとつ。

思わぬ収穫が」

暗い部屋の中、十字の石にはり付けられたグリードがいた。
それを下から見上げる兄弟の姿。

「なつかしいわね。一世紀前にここを出てった顔だわ。

起きなさい、グリード」

ラストが声をかければ、グリードの視線が兄弟を見下ろす。

「おやま、皆さんおそろいで」
「いいザマね『最強の盾』」
「おめーは相変わらずいい女だな『最強の矛』、色欲さんよ」

そう言って、グリードは下の兄弟を見回した。

「暴食、おめぇはちっともやせねーな。

嫉妬……またそんなシュミの悪ぃカッコしてんのか。

怠惰はどこだ?」
「昔からさぼってばかりでね。まだ仕事中よ」

ラストがスロウスの姿を思い出すように目を閉じて答えた。

「ほんとにどいつもこいつも百年前から変わっちゃいねぇ。

ま、新しい顔はあるらしいな。よぉ、久しぶりだなぁ?」

グリードがコウを顎で指すようにして声をかけた。
その仕草にエンヴィーが顔をしかめたが、何も言わなかった。

「三日も経ってないよ、グリード」
「確かにな」

グリードを見上げるように視線を上げ、コウは微笑んだ。

「本当にいい格好だね。欲張りすぎたのかな?」
「うるせー。それはそうと…どの程度万能なのか、聞いてなかったな」
「…君の望む不滅の魂すら、僕は作り出すことができる。おチビさんたちの望む物も…ね」
「な…っ!!」
「コウ。その辺にしておきなよ」
「はーい」

エンヴィーがコウの後ろから一声かけると、コウはすぐに返事を返す。
そして反動をつけて立ち上がると、ブーツを鳴らして大総統の横まで歩いた。

「で、こっちは『憤怒』のラースね」

コウが大総統の腕に絡まりながらにっこりと微笑んで紹介をした。

「あなたが私達を裏切って出て行った後…………

今から60年前にお父様に造られた新しい兄弟よ」
「……………『キング・ブラッドレイ』だろ?

数々の戦場で武功をたてて40代で独裁者に成り上がった…」
「そう。キング・ブラッドレイという名の『人間』として最後の詰めに用意された私達の兄弟」
「歳をとる人造人間…?そんなのありか…?」
「あっはっは!何言ってんだろねこの人は!

『ありえないなんて事はありえない』あんたの口グセだったはずだよ。忘れたの?

やだねぇ、年とってもうろくしてんじゃないの?」
「だまってろや、不細工が」

グリードの言葉に、エンヴィーは一瞬間を置いて…恐ろしいほど目付きが変わった。

「――――あ?」
「おーう、いいねその目。そうでなくっちゃ。久しぶりに本性見せろよ。ゲテモノエンヴィー」
「糞が…望み通り踏み潰してやるよ……!!」

――カンッ――

二本のナイフがグリードの顔をはさむ様にして石に刺さった。
グリードの頬からは二筋の血が流れる。
飛んできた方向を見れば、コウが笑みを浮かべたまま同じナイフを手の中で遊ばせていた。
グリードと目が合うと、その刃に軽くキスする。

「エンヴィーのこと、悪く言うと許さないよ。もう一回死んでおく?」

妖艶な笑みを浮かべて、コウがグリードを見つめた。
そして、ナイフを指に挟むと再び投げようと腕を引く…。

「よさないか、おまえたち」

突如聞こえた声に、コウは瞬時に振ろうとした腕を下ろした。

「兄弟で争うなど…そんな醜い事はこの父の前でしてくれるな」
「…ごめんなさい。お父様」

コウが持っていたナイフを床に捨てて、素直に謝った。

「コウ…いい子だ、さぁおいで」

お父様に呼ばれて、コウは嬉しそうに小走りで彼に走り寄った。
椅子の傍へと歩み寄ると、コウはお父様から先ほどまで読んでいたぶ厚い本を受け取る。

「グリード…僕が始末する?」

コウがお父様の傍で小さく問いかけた。
だが、返って来たのはNOを示す仕草だけ。
わかりきっていた、と言う風にコウは笑みを浮かべる。

そして、渡された本を傍の机に置くと周りだけ綺麗に整頓しておいた。

「……また私のために働いてはくれんか」
「NO!だ!」

グリードがお父様の問いかけに答えた。

「……そうか。仕方が無いな」

少し声色を落として、お父様が呟く。
低い音を立ててグリードの足元が開いた。
ゴポゴポと煮えたぎる液体がグリードの足元に姿を現す。

徐々に下がっていく十字の石を、コウはどこか冷たい目で見つめていた。

その日、強欲が自らの生まれた場所へと還った。

05.01.15