闇の支配者 12
日が完全に落ちてから、コウはエドに連れられるままにカーティス家に戻ってきていた。
「…ねぇ、そろそろ放してほしいんだけど」
「え?」
「手。ずっと繋いだままだけど?」
「え……うわっ!!ご、ごめん!!」
あの場所から繋いだままだったのに初めて気づいたらしく、顔を赤くして手を放した。
そんな反応にコウはクスクスと笑う。
「別に僕はいいんだけどね」
そう言ってやれば耳まで赤くなる始末。
隠すように背を向けて歩くエドの背を、付かず離れずの状態でコウが追う。
そのやり取りは、エドが真実を知る前のようだった。
そんなコウにエドは困惑を隠せない。
コウは自分の傍にいるといった。
だが……彼女は敵。
そんな考えが浮かんでは消え、そしてまた浮かぶ。
繰り返す思考を止める術をエドは持っていなかった。
でも、一つ確かな事は―――。
「エドワード…?」
少し心配そうに見つめるこの眼を。
コウを、手放したくない。
「何でもねぇって」
「そう?ならいいけど」
ふわっと柔らかい笑みを浮かべるコウ。
決して手に入らないコウの心を、自分の心が渇望する。
同時に、コウの心の中を占めるアイツに情けないくらいの嫉妬心が芽生えた。
「なぁ……」
「ん?」
少し先を歩いていたコウがエドを振り返る。
「お前の仲間って今……」
どこにいるんだ?
そう聞こうとして、その言葉は遮られた。
コウがその細い指をエドの唇の上に持ってくる。
「仲間を売るつもりは全くないよ。
詮索無用。それが守れないなら……ここにはいられないからね。
彼らは仲間である前に、僕の唯一の家族」
微笑を崩さぬまま、コウはエドにそう言った。
そして、その指を外す。
「詮索だけはしないで。しても……答えられない、答えない」
少しだけ表情に影を落すコウに、エドはそれ以上何も言えなかった。
「兄さん!!と……コウさん?」
「あー、アルフォンス久しぶり」
「久しぶり。兄さんはコウさんを探しに行ったんだね」
「そのようで」
アルと軽く挨拶を交わすと、コウはドアの前からスッと身体をどけた。
未だにエドはドアの前で立っている。
「(……足音が近づいている事に気づかないのかなぁ…。)」
そんな事を考えていると、勢いよくドアが開いた。
当然前にいたエドはそれに吹き飛ばされる。
「兄さん…またやってるよ……」
アルが呆れたような声を出した。
「エド!やっと帰ってきたのかい!!一体どこに…………って…コウ?」
「二日ぶりです、イズミさん」
ドアのすぐ脇に立っていたコウに気づいたイズミがエドから視線を逸らす。
「どうしたんだ?もう行ったんじゃなかったのか…」
「いやー…彼に捕まってしまいまして。
ここにいる間は一緒に行動する事になってしまいました」
「エドが…?ああ、それで血相を変えて飛び出して行ったのか…」
「またお世話になってもいいですか?」
「構わないよ。あの馬鹿弟子のせいだからな」
「ありがとうございます」
その頃ようやく復活を遂げたエドがよろよろとコウの傍へと帰ってきた。
「……それで?エドとの関係は?」
「か、関係…?」
そう問われて、エドが再び顔を赤くした。
「……今の所は旅仲間、でしょうね」
コウが少しだけ困ったような顔で答えた。
「そうか…まぁ、これから夕飯にするから入りなさい」
「ありがとうございます」
イズミの後を追って、コウも家の中へと足を踏み入れる。
「これからどう変わるかは……君次第」
エドとすれ違い様にコウはそう呟いた。
大きく目を見開くエド。
その言葉が意味する事。
多分、自分の反応次第では仲間からランクアップする。と言うものではない。
自分の行動次第ではすぐにでも敵に回る。
そう言う意味だと、エドが即座に導き出した。
諸刃の剣。
そうわかっていても、彼女の差し出した手を放すことは出来ない。
突き放す事が出来れば、どんなに楽だろうかと。
何度もそう思った。
けれど、いつも同じ答えに辿り着く。
一時の夢だったとしても。
彼女の、コウの傍にいたい。
敵には回ってほしくない。
廻る思考は動きを遅め、ゆっくりとエドの思考を蝕んだ。