闇の支配者 10
旅をしているとイズミに伝えたコウ。
するとイズミは今日だけでも、とコウに泊まる事をすすめた。
聞けば、夜は酷く天気が荒れるらしい。
「……じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」
にっこりと人懐こい笑みを浮かべてコウが答えた。
一日だけカーティス家にお世話になると、コウはイズミの元を去った。
もう一日泊まってもいいという誘いを丁重にお断りして。
コウはある場所へと足を運ぶ。
「デビルズネスト…か」
見るからにガラの悪い男がたむろしている入り口を見て、コウが溜め息を漏らす。
「おいおい、ねーちゃん。悪い事は言わねぇからさっさと家に帰りな」
「……うわー、お決まりの反応」
「聞こえなかったのか?」
「まあ、別にそれは問題じゃないんだよ。
グリードって言う奴がいるでしょ。そいつのとこまで案内して」
「ああ!?グリードさんに何の用だ!?」
「…はぁ……君たちに用はないのに…」
逆上してしまった男三人に、コウはまたも溜め息をつき腰のチェーンを解いた。
瞬時にそれから細い剣を錬成する。
トンッと軽く地面を蹴ると、次の瞬間には男の一人の後ろにピタリとついていた。
そして、後頭部に剣の先を当てる。
「君たちでは話にならないから……グリードの所まで案内して」
先ほどとは比べられないほど低い声で、コウが三人に言う。
顔を青くした三人は首が千切れんばかりに縦に振った。
男三人の後に続きながら、コウはふとエンヴィーの言葉を思い出した。
『向こうに行ってもアイツとは関わらないようにね』
『コウは駄目』
『破ったらお仕置きだからね』
「……………ま、ばれなきゃ大丈夫でしょ」
少しだけ冷や汗をかきつつ、コウは小さく呟いた。
その考えが甘かったと悟るのはもう少し後の事。
「グリードさん。変な女が…」
「ああ?入れていいぞ」
部屋の中から声がかかり、その扉が開けられた。
開かれた扉をくぐり、コウが中へと足を踏み入れた。
「ヒュー♪いい女じゃん」
「そりゃどーも」
「で、そんないい女が俺に何の用だ?」
「……他の人には出て行ってもらえない?」
コウの言葉に、グリードの周りの三人が反応を見せる。
一人は自分の武器に手をかけた。
その様子を見て、コウは溜め息をつく。
「強制的に外に出てもらうか、二度と動けなくするか……いくらでも方法はあるんだよね。
わかってくれない?強欲さん」
「!」
コウの言葉に、今度はグリードがピクリと反応した。
「……出てってくれ」
「グリードさん!?」
「これは俺の問題らしいからな」
グリードに信頼を置いているのか、三人は素直に頷いた。
すれ違い様にコウを睨みつける。
「…安心して、殺さないから」
人懐こい笑みを浮かべるコウ。
三人が出て行って、扉が完全に閉まった。
コウはブーツの踵を鳴らしながらグリードに近づく。
そして、羽織っていたコートを脱いだ。
肩に露になるウロボロス。
「お前……名前は何だ」
「コウ」
「コウ…?大罪じゃねえな」
「うん。僕は特別に作られたホムンクルスだから」
「へぇー…罪名はねえって訳か」
「あるよ。…“万能”。これが僕の罪名。エンヴィーがくれた名前」
コウは見惚れるような笑みを見せる。
「ほおーアイツの玩具か?」
「……口の利き方に気をつけな。お前なんて一瞬で始末できるよ」
「は!やれるもんなら……」
ヒュンッと空を切る音がして、グリードの腕が後方へと転がった。
コウの手には細長い鞭。
それについた刃がキラリと光を反射する。
「ね?硬化さえ間に合わなければ最強の盾も意味ないでしょ?」
再びチェーンに戻す頃には腕の再生は済んでいた。
「ただモンじゃねえな」
「君と同じホムンクルスだよ」
「で、エンヴィーのお気に入りが何でこんな所に?」
「別にー?強欲に直接会ってみたかっただけだよ」
「アイツに止められなかったか?俺に会うことを」
「…止められたね」
コウが頷きつつ答えると、グリードは声を出して笑った。
その様子にコウは特に驚いた様子も気を悪くした様子もない。
「コウ…って言ったか?気をつけた方がいいぜ?
アイツの嫉妬は並じゃねぇ。“嫉妬”なだけにな」
「……君に言われるまでもないけどね」
「で、俺が“強欲”だってわかってのこのこ姿を見せたのか」
「何が?」
「………俺は全てのモンを欲してる」
「へぇー…僕の事も欲しいんだ?」
グリードがコウの顎を取って上を向かせる。
それに動じる事無く、コウは口の端をあげた。
「あげないよ」
「何?」
「僕はエンヴィーのものだから」
「……なら、奪い取るまでだ」
「やれるモンならやってみなよ」
コウはスルッとグリードの腕を抜ける。
そのまま壁まで飛んだ。
「永遠の命が欲しいなら、面白いヒントをあげる。
もうすぐここにやってくる二人の兄弟。
一人は赤いコートを着た金髪のおチビさん。こっちは国家錬金術師。
で、問題はもう一人。でかい鎧の子。
その鎧、中身空っぽだから」
「空っぽの鎧が動くのか…」
「だから君の欲しい答えに繋がるかもしれないんだよ」
「なるほどねぇ…。ま、手始めにコウにはここにいてもらおうか」
グリードの身体が黒く硬化されていく。
コウはにやっと笑うと壁に手をついた。
瞬時に出来上がる扉。
「言ったでしょ?僕はエンヴィーだけのものだよ」
コウは笑みを浮かべて、その扉を抜けて走り去った。
その後姿はすぐに見えなくなった。
グリードは声を上げて笑いながらコウの言葉を思い出す。
「空っぽの鎧か…」