闇の支配者 09
「もう平気?」
「うん。大丈夫だよ」
「じゃあ……仕事行くよ」
「はーい」
タンッと地面を蹴って、コウはエンヴィーに追いつく。
歩いているエンヴィーは、そんなコウに歩調を合わせた。
「今度は何?エンと一緒?」
「今回も俺と一緒」
「そっか」
コウが笑顔を見せる。
ヒューズの一件以来、コウはエンヴィーから離れなくなった。
いや「前にも増して」と付け加えた方がいいだろう。
そんなコウを、エンヴィーも突き放すことは無い。
故に自然と二人揃っての仕事が増えていたのだ。
「途中までだけどね」
「………何それ」
「コウはおチビさんの方。俺は別の仕事」
「……………………」
「コウ?」
「何でもない」
首を横に振ると、コウは視線を前に向ける。
「おチビさんどこに行くの?」
「ダブリスらしいよ」
「ダブリス…?あそこって………」
「何?」
「いや…僕の記憶が正しいなら…「強欲」がいるはずなんだけど」
「グリード…?何で知ってるの」
「前におチビさんの師匠を調べた時に向こうに行ったからだよ」
「………会ったの?」
「ううん。一方的に見ただけ」
「そ」
短く答えたエンヴィーに、コウはふと足を止める。
何かと思ってエンヴィーもその場に止まる。
「エンヴィー、心配してるの?」
「………さぁ、どうだろうね」
「ふーん……心配しなくても大丈夫だよ」
コウはエンヴィーの腕に自分のそれを絡める。
「僕の場所はここだけだから」
「………向こうに行ってもアイツとは関わらないようにね」
「確約は…出来ないかも。おチビさんあたりと問題起こしそうだし…」
「コウは駄目」
「仕事なら仕方ないし………」
「コウー?」
にっこりと笑顔つきで顔を覗き込まれる。
……エンヴィーさん。
目が笑ってませんよ?
「………努力します」
「破ったらお仕置きだからね」
「…………………………………」
「そろそろ汽車の時間だね。行こうか」
「うん」
歩き出したエンヴィーと同じようにコウも歩き出す。
腕は絡めたままで。
「で、何で後から来た僕の方が先にダブリスに着くかなー……」
駅を出て、コウが心底嫌そうに呟いた。
ちなみに二人が着いていない事は駅員に確認済みだ。
やたら外見の目立つ兄弟である。
見逃した、という事はまず無いだろう。
「はぁー……エルリック兄弟はいつ頃来るのかなぁ、ホント」
「エルリック兄弟……?」
「!!」
一人で街中を歩いていたコウ。
肉屋の裏を通った時に、独り言に返事が返ってきた。
声の主を振り返れば、黒髪の女性がそこにいた。
コウはその人物を知っていた。
エルリック兄弟の師匠、その人だった。
「……あなたは…?」
「あぁ、私はイズミ・カーティス」
「カーティスさんですか」
「イズミでいいよ」
「じゃあ、私の事もコウって呼んでくださいね」
にっこりと笑顔を浮かべながらコウがイズミにそう言った。
「で、エルリック兄弟とはどういう関係?」
「……大した関係じゃないですよ。ただの…知り合いですかね」
「彼らはここには来てないよ」
「そう…みたいですね。イーストシティで彼らがこっちに向かってるって聞いたもんですから」
「あの二人が…?……ごほごほっ…」
「……病気ですか?」
「少しね…」
「休んだ方がいいですよ。出歩いたら治るものも治らないです」
コウはイズミに手を貸しながら歩く。
「家はどこですか?」
「あぁ、私の家はここだから」
「そうでしたか」
イズミを支えつつ、コウは言われるままに家の中へと足を踏み入れる。
寝室までそうやって行くと、イズミをベッドに寝かせた。
「悪かったね。今日は思いのほか酷かったようだ」
「いいえ。じゃあ、ゆっくりしてくださいね」
そうして部屋を出て行こうとしたコウだったが、イズミによって止められた。
「少し、あいつらの話をしていってくれないか?」
「……時間はありますし…いいですよ」
近くにあった椅子に腰を降ろすと、コウはイズミとの雑談を楽しんだ。
内容はエドとアルの事。
イズミは彼らの師である事をコウに教え、コウは彼らの東方司令部での事を話した。
エルリック兄弟がダブリスを訪れるのはそれから二日後の事だった。