闇の支配者  08

ヒューズの葬儀を、コウは遠く離れた所から見ていた。
いつものパートナーの姿はなく、コウ単独で。



あの時に見た、女性の姿もはっきりと見て取れた。
その女性に縋りつくように立っている幼い少女も。



ロイが墓の前に残っていたのも、見ていた。
彼がヒューズを殺した奴を捜し出すであろうことは、コウには容易にわかった。
墓の周りから誰もいなくなって、コウはゆっくりとそこに立つ。

「馬鹿だね。本当に」

呟くように、言った。

「君も、鋼のおチビさんも。人間って何でこんなんなんだろう…弱くって、呆れるほど単純で。
少し仲良くしただけで、おチビさんは僕をあっさりと信用するし…。
君は僕を助けようとした。元々抱きしめられていただけなのに。
知ってる?あの時、僕を放っておいて逃げれば…僕はエンヴィーを止めるつもりだった。
殺すのは…エンヴィーじゃなくても良かったから。


エンヴィー以外の方が、もっと楽に死ねただろうし」

答えることのないそれに向かって、コウは一人で話していた。
その表情は、どこか悲しさを帯びていた。

「…“死”って、何なの?やっぱり苦しいんだろうね。
僕らにはそれがないから…よくわからない。限りなく遠いものだからね」

コウはそう言うと、ふと、葬儀中のグレイシアのことを思い出した。
涙を流しながら、自分の娘を抱きしめた彼女。

「どうせ、最後には死ぬんでしょ…?何で、悲しむの…」

自分にも問いかけるように、呟く。







「まだこんな所にいたんだ?」

後ろから声をかけられて、コウは少しだけ肩を揺らした。

「ねぇ、エンヴィーは…僕が死んだらどうする?」
「死なないじゃん」
「例え話だよ」
「………どうだろう…殺されたなら、相手は殺すけど」
「………そう」

エンヴィーが後ろからコウに抱きついた。

「何?感傷的じゃない?」
「そう…なんだろうね。ただ、人間は大切な人が死んだら泣くから…君に聞きたくなっただけ」
「…コウは?」
「…エンヴィーが死んだら…その時は僕も死んでると思うよ」
「何で?」
「君以外に、僕の存在理由はないから」
「お父様がいるでしょ?」
「お父様も大切だけど…君以外はいらない」

どんなに不器用な形でも、あの時僕を救ってくれたのは、間違いなくエンヴィーだから。



「…ほら、帰るよ」
「うん」

エンヴィーがコウの手を引いて、その場所を離れた。
ただ一度だけ、コウはヒューズを振り返る。

「僕にとっては、この手が居場所だから…」



善悪なんて、誰かが判断することじゃない。

エドたちにとって、エンヴィーやコウが悪だとしても

コウたちにとってはそれが善。

自分の居場所のために、ただ見る視点が違うだけで…

誰かにとってそれが悪だとしても、

決して譲れないものだから。