闇の支配者  07

エドは怪我の所為で、病院に入院することになった。
何やら悩みを抱えていたアルとも和解。
エドはヒューズとアームストロング、それにアルを加えて第五研究所のことを話していた。

「で、こいつに蹴られた後はもう覚えてない」

エドがエンヴィー(?)を書いた紙を指さしながら、言った。

「魂のみの守護者…貴重な人柱…生かされている…エンヴィーなる者…

マルコー氏いわく東部内乱でも石が使われていた…

ウロボロスの入れ墨に、賢者の石の錬成陣…

ただの石の実験にしては謎が多いですな」
「これ以上調べようにも、今や研究所はガレキの山だしな。

他に何かないのか?奴らの仲間の情報とか…」
「仲間………」

ヒューズに問われて、エドは俯いた。
エドの頭の中を占めるのは、コウのこと。
話すべきだろうと思った。
だが…エド自身がまだ信じられなかったのだ。
コウが奴らの仲間であると言うことが………………。

「…いや、俺がわかってるのは、それで全部だ」

エドがコウのことを話すことはなかった。










「コウー」
「んー?あ、エンヴィー」

アジトで久々にゆっくりと寛いでいたコウは、ふと声をかけられて起き上がった。
ベッドから出ずに部屋を見回せば、ドアの付近にエンヴィーの姿。
コウが起きているのを見て、エンヴィーがゆっくりと近づいてきた。

「仕事?」
「まぁね。まーたおチビさんが探ってるみたいなんだよね」
「じっとしてればいいのに…」
「今度は…何だっけ、中佐…だったかな」
「中佐…マース・ヒューズ?」
「あぁ、それ。何でも軍法会議所で色々調べてるみたいだから。

ラストが先に行ってる」
「ラストが…?じゃあ、僕達の仕事はないんじゃないの?」
「一応、中佐だろ?失敗した時のためにね」
「ふーん…ま、いっか」

コウはぴょんっとベッドから離れると、エンヴィーの傍に走り寄った。
近づいてきたコウの髪を軽く梳くと、手を取って歩き出す。









「標的発見~♪」
「電話してるね。あぁ、ラスト失敗したんだ?」

エンヴィーがパキパキと自分の姿を変えた。
コウはその様子を嬉しそうに目を細めて見ている。

「ロス少尉」
「コウは変身しなくていいの?」
「おチビさんがばらしてるだろうけど…どっちにしろ、生かしておくつもりないし?」
「そうだね」

ゆっくりと、二人は電話ボックスの中のヒューズに近づいた。

「受話器を置いてくれるかな、中佐」

ヒューズが振り向いた。

「…!コウ!!」
「久しぶり」

コウはにっこりと笑みを浮かべたまま、ヒューズに話しかける。

「コウ!聞けよっ…軍がやべぇ!!」
「…?鋼のおチビさんから僕の事聞いてないの?」
「エドから…?それより、今から言うことを伝えてくれ!!」

その時、ロスがコウの身体を後ろから引き寄せた。
そして…銃口をヒューズに向ける。

「コウ!?」
「受話器を置いていただけますか、中佐」
「ロス少尉…じゃねぇな。誰か知らねぇが、コウを離せ!!」
「誰って…マリア・ロス少尉ですよ。病院で何度も会ってるでしょう?」
「…………あぁ、泣きボクロを忘れてる」

コウが見上げるようにして頬を指さすと、ロスはニヤリと笑った。


「ああ、そうだっけ。うっかりしてたよ。これでいいかな?」

パキンっと頬に泣きボクロが現れた。
ヒューズが信じられない、と言った顔を見せた。

「とにかく、コウを離せ」
「……この期に及んで、人の心配?」

ロスの姿のまま、エンヴィーがコウの髪にキスをした。
少しだけ目を細めてそれを受け入れたコウを見て、ヒューズがようやく気づいた。

「…コウ…お前…っ」
「僕は、騙してたつもりなんて全然ないからね。

裏切ったわけでもないし。僕は元からこっち側」
「…………なんだってんだ、畜生。夢でも見てるみたいだ…」
「そうだね、最高の悪夢を見てもらおうかな。
頭の回転が早いばっかりにとんだ災難だったね、ヒューズ中佐」

エンヴィーは足元に落ちている写真を見ながら、コウを自分の後ろに下がらせた。

「おいおいカンベンしてくれ。家で女房と子供が待ってるんだ………
ここで死ぬわけにゃいかねぇんだよ!!」

ヒューズが小さなナイフをエンヴィーに投げようとした。
だが、そこにいたのはロス少尉ではなく………

「その女房を刺そうっての?」

自分の最愛の妻、グレイシア。

「いい演出だろう?ヒューズ中佐」

ヒューズの顔が苦悩にゆがんだ。

「くそったれ…」

銃声が、響いた。









「何も知ろうとしなければ、生きていられたのに…」

コウがくるりと踵を返しながら言った。
エンヴィーも姿を戻すと、コウの後に続く。

「殺してよかったんだ?」
「…何言ってるの?僕は、別にあんな奴何とも思わないよ」
「じゃあ、おチビさんの幼馴染とか…殺したらどうする?」

エンヴィーの問いかけに、コウが足を止めた。

「殺すの?」
「俺を止める?止めない?」

コウの質問に答えずに、エンヴィーが尚も問いかけた。

「止めない」
「……何で?」
「少しは気に入ったけど…僕には君さえいればいいから。
君が殺すなら………止めない」

再び足を動かしながら、コウが言い切った。
エンヴィーは嬉しそうに目を細めると、後ろからコウを抱きしめた。

「…コウ、可愛いっ!!」
「………今ので何でそう思うかなぁ…」
「安心しなよ。お父様の邪魔にならない限り、あの子には手を出さないでいてあげるから♪」
「あー…ありがと」

エンヴィーはコウを抱き上げると、一気に建物の上に飛び上がった。
そのまま建物を飛び移っていく。
エンヴィーのこんな行動に慣れてしまっているコウは、その首に腕を回すだけで大人しくしていた。

「帰ったらゆっくりしようね」
「はいはい…」

素気ない態度を取るものの、コウは決してエンヴィーの腕を拒もうとはしなかった。

まだ、夜はしばらく明けそうにない。