闇の支配者  04

「ラストと?」
「ええ。鋼の坊やがリゼンブールに帰るらしいから…コウにも一緒に来てもらうわ」
「ふーん。仕事じゃ仕方ないね。了解」

コウは解いていたチェーンを腰に巻きつけると、ゆっくりと出口へと向かった。

「スカーに思いっきりやられたんだ?馬鹿だねーおチビさんは」
「本当ね」
「あー…また汽車に乗るのか…アレ腰が痛くなるから嫌いなんだよね」
「我慢しなさい。お父様のためなんだから」

ぶつぶつと文句を言うコウを、ラストが軽く諌める。

「第一、僕のパートナーはエンヴィーなんだけど」
「それはエンヴィーが暴走しないように、よ。

今はあの町で手が一杯だから、コウには私と来てもらうの」
「…ホント、やんなっちゃうね」

バサッとコートを脱ぐと、それを腰に巻いた。
その上から再びチェーンを付け直す。
コウの二の腕には、赤いウロボロスの入れ墨が入っていた。
それを隠すことなく、コウは駅に向かって歩き出した。





「アレが豪腕の錬金術師よ。コウは初めて見るでしょう?」
「へぇ…アレがね…。確かに、やたら筋力には自信がありそうだね。

って言うか、あの子煩すぎでしょ」

汽車の中であるにも拘らず、ぎゃあぎゃあと騒いでいるエドに、コウは呆れた表情を見せた。

「ん?ねぇ、今通って行った奴って…「ドクター・マルコー!!」」

コウの声は、アームストロングの声によってかき消された。
それと同時に、ラストもようやく外の人物に気づいた。

「…降りるでしょ?」
「私が行くわ。坊やが降りないようならコウは………降りるみたいね」

慌てて車両を出て行ったエドとアームストロング。
それを見て、コウとラストも二人に気づかれない程度の距離を開けて降りた。

「思わぬ収穫~♪」

コウは楽しそうに走り去っていくエドたちを見つめていた。


エドがマルコーの家を去った後、二人は家の中に侵入した。

「おチビさんに資料の隠し場所を教えに行ったみたいだけど…?」
「まずいわね」
「あの子だったら絶対解読しちゃうよね~。早めに手を打たないと…」

椅子に座っているラストとは対称的に、コウは棚の前を歩き回っていた。
一つの赤い液体の入ったビンを掴むと、中の液体を揺らすようにそれを振った。

「まだこんな出来損ないを使ってるんだ?マルコーも大したことなかったんだね」

液と同じ色の目を細めながら、コウが嘲る様に呟いた。

「本物が作れるのはあなただけなのよ」
「らしいね。…帰ったみたいだよ」

コウはそう言うと自分は部屋の死角に隠れた。
ラストは椅子に座ったまま、入ってきた人物を見据えていた。

「久しぶりね、マルコー」











「この町を地図から消してあげましょう」
「それも一瞬で、ね♪」

マルコーから資料の隠し場所を聞き出すと、二人はすぐにそこを後にした。

「おチビさんは機械鎧を直してからだから、すぐには行けないね」
「ええ。先回りして資料を処分してくるわ」
「じゃ、僕が見張っておくから。一人で大丈夫?」
「もちろんよ。鋼の坊やの方は任せたわよ」

ラストと別れると、コウはリゼンブールに向かうために、再び汽車に乗った。










リゼンブールに着いたコウは、あてもなく長閑な道を歩いた。

「誰かを捜してるのかい?」
「ん?まぁ…そんな所かな。金髪の小さい男の子を捜してるんだけど…」
「金髪の小さい…あぁ!エドワードのことだな!今はロックベルさんの所に行っているはずだよ」
「ロックベル…。その人の家を教えてくれる?」
「この道沿いに行けば着くよ」
「ありがとう」

コウは案内してくれた青年に礼を言うと、再び歩き出した。

「ひゅー♪エドも超別嬪の知り合いがいたもんだ」



コウは目当ての家を見つけると、近くにあった木の上に身を潜めた。
結構高い木ならしく、二階の窓の中を見ることができる。

「(おチビさんは…いないみたいだね。)」

その時、下から何人かの話し声が聞こえて、コウが少し身を乗り出してそれを見る。
と、エドが道を歩いていくのが見えた。
横には黒と白の毛並みの、片方の前足が機械鎧の犬を連れていた。

「珍しー…機械鎧の犬…」

エドの背中が見えなくなると、コウはピョンッと木から飛び降りて彼の後を追った。



「あ、さっき道を教えてくれたおじさんじゃん。余計なこと言わなけりゃいいけど…」

かなりを距離を開けて後ろからエドを追っていたコウ。
前方では羊を連れたおじさんがエドを引き止めていた。

「そういやぁ…エド。さっきお前を捜してる子がいたぞ」
「俺を?どんな奴だった?」
「黒髪に綺麗な赤い目をした子だったよ。かなり美人だな!!」
「黒髪に赤い目の…美人?さんきゅー」

エドは話を聞き終えると、再び歩き出した。
目的地である母親の墓に来ると、花を置きながら先ほどの話を思い返していた。

「さっきの話の容姿から言うと…コウ以外には考えられねーんだけど」





「何、ここ」

コウはエドから離れ、とある家の前に来ていた。
いや、家であった、といった方が正しいかもしれない。
そこには燃えた家の残骸しか残っていない。

「ここがおチビさんの…。そう言えば、旅に出る時に家を焼いたって聞いたっけ」

コウは自分の記憶を思い出していた。
確か、エンヴィーからそう聞いた覚えがある。

「―――コウ?」
「!!…あらら…見つかったよ…」

少し油断していたようだ。
エドの姿を捉えると、コウは苦笑いを浮かべた。
近づくな、とは言われていないが、あまり気づかれたくはなかった。

「…久しぶりだね」
「やっぱりさっきの話はコウだったのか…何でこんな所にいるんだよ?」
「(やっぱアイツ話しやがったか…)………んー…観光?」
「こんな田舎に?」
「ちょっと近くまで来たからね。

前にここが君の故郷だって事を聞いたから、寄ってみただけだよ」
「そっか」

コウはエドに近づいていった。

「ここが、君の家?」
「あぁ…旅に出るときに、焼いたんだ」
「らしいね。…大した覚悟だね」
「…幼馴染の奴の家に世話になってんだけど、コウも寄ってくか?」
「そうだね…今日中にはここを離れるつもりだけど…少しなら」
「じゃ、帰るか!」

エドが来た道を帰ろうと足を動かし始めたので、コウも彼の横を歩き出した。







ロックベルの家に帰ってくると、一番にアルが二人に気づいた。

「兄さんお帰り………コウさん!?」
「アルフォンス、久しぶり」
「さっき墓参りの途中で会ったんだ。折角だから、寄ってもらった」

エドに簡単に説明されると、コウはアルのすぐ傍まで行った。
彼の鎧に触れて、苦笑いをこぼす。

「…よく、無事だったね。君も、エドワードも」
「正直危なかったけど」
「ま、何とか無事だな。命はあるんだし」
「中央にスカーが現れたって聞いた時には、君達も危ないとは思ったけど…

中々の強運だね」

クスクスと笑うと、コウはアルの横に座り込んだ。

「ところで、君の彼女を紹介してくれるんじゃないの?」
「誰が彼女だ!!ただの機械鎧整備士!!!!」


エドが真っ赤になってそう叫んだ時…………

―――がいん―――

「うぎゃ!!!」

突然二階からスパナが飛んできた。
エドの頭めがけて一直線に………。

「誰が“ただの”機械鎧整備士よ!!優秀なって言いなさいよね!!!」

バルコニーから身を乗り出して叫ぶウィンリィ。
コウと目が合うと、すぐに中へ引っ込んで行った。

「あら、嫌われた?」
「いや…多分嫌われるわけないと思うぞ…」
「何で?」

―――バンッ―――

大きな音を立てて、玄関の扉が開いた。
驚いているコウを無視して、ウィンリィが一直線にコウの元へ歩いてくる。
途中、慣れない義肢のエドを撥ねたが、そんなことはお構いなしだった。
コウの目の前まで来ると、急に抱きついてきた。

「可愛い!!!っていうか、めちゃくちゃ美人じゃないのっ!!!!」
「……………は?」
「名前は?あたしウィンリィ!!」
「コウだけど…」
「コウね!!綺麗な名前!!」
「あ、ありがとう…」

流石のコウも、興奮したウィンリィには勝てない様子で…珍しく引き気味だった。
ようやく解放されると、コウはそっとエドに近づいた。

「な、何だったの?」
「…可愛いものとか綺麗なのが大好きなんだよ…

コウが嫌われるわけないと思ったぜ」
「へぇ…それでね…」
「今日は帰れないと思うから…覚悟しといた方がいいぞ?」
「……………」

結局、その日はウィンリィの願いによってコウもロックベル家に泊まる羽目になったのだった。