Another World  33

コウは仕事の昼休みを利用して病院を訪れていた。

右手はズボンのポケット。
そして、左手には花束。

白を基調とし、アクセントに暖色系の花が使われていて、この花束を作った者のセンスが滲み出る一品だ。
尤も、花を選別したのはコウ、纏め上げたのは軍部の近くの花屋の店主だ。
この場合は、恐らくコウのセンスが良い…と言う事になるのだろう。
基本的に普段は上下を黒で統一している為に気付かれないが、彼女は視覚的センスが良い。
白衣の天使、こと病院のナースらが振り向くのも無理はない。

「お仕事中失礼。エドワード・エルリックの病室を教えてもらいたいんだが…」

ナースステーションに顔を覗かせれば、室内の女性の目が彼女に釘付けだ。
突然モデルのような出で立ちの男(ナースらが思い込んでいるだけ)が顔を出せば仕方の無いことだろう。
丁度窓口のすぐ脇に居た女性が頬を赤くして病室の書かれたファイルを慌てる指先で捲っていく。

「あ、ありましたっ。エドワード・エルリックさんなら、この廊下を真っ直ぐ行って―――」

窓口から上半身を少しはみ出させるようにして、彼女は細かく説明してくれた。
相槌を入れつつも道順を完璧に記憶していくコウ。
説明が終われば、彼女はにこりと微笑んだ。

「ありがとう、助かったよ」

スマイル0円。
黄色い悲鳴がステーション内に木霊する。

「あーあ…騒いじゃって。可愛いなぁ」

彼女らの悲鳴を聞いて飛んできた男性医師が「何事だ!?」と慌てているのが背中に聞こえた。
事情を知った彼に咎められている声を聞きながら、コウはクスクスと笑う。
自分で言うのもなんだが―――

「男でも十分やっていけたよなぁ、俺」

そう思わずには居られない。
片手に提げた花束を肩に担ぐようにして持ち上げ、説明された道を歩いていく。














「ご苦労さん」

角を曲がり、エドの病室が見えれば、その前に立つ軍人の姿も自ずと目に入る。
片割れは室内に居るのか、廊下に出ているのはロスだけのようだ。

「スフィリア大佐!ご苦労様です!」

ピッと姿勢を正し、敬礼する彼女に、コウも軽くだがそれを返す。
そして、病室のドアを親指で指しながら問うた。

「入っても構わないか?」
「は!どうぞお入りください」

そう言って彼女はコンコンとドアをノックし、それを開く。
顔だけを覗かせた状態で「見舞いの方が来ています」と告げた。
そして、コウに進路を譲る。

「よぉ、エドワード。怪我の具合はどうだ?」
「コウ!」
「派手にやらかしたらしいな…後始末大変なんだけど」
「え?管轄外だろ?」
「お偉方は面倒を全部下っ端に回すのさ。おかげでいつでも仕事のない俺の所に回ってくるんだ」

仕事がないわけではなく、早々に片付けるために手元に仕事が残らないだけなのだが。
そんな事をお偉方が知る筈もなく。
暇ならばこれも片付けたまえ。と言う感じで巡り巡ってコウの所で腰を落ち着けてしまうのである。

「あ、これ見舞い」

そう言って手に持ったままだった花束を彼に差し出す。
コウはまるで絵画の一枚のように見事に調和していたが、彼の場合は…どうも似合っているとは言い難い。
と、コウはベッドの脇で作業道具を片付けるウィンリィを見た。

「で、こちらのお嬢さんはお前の彼女か?」
「違う!」
「だよなぁ…エドワードには勿体無い」
「……………それも結構ムカつくなぁ…」

コウは綺麗にエドの言葉を無視すると、ウィンリィに近づいて手を差し出した。

「初めまして、お嬢さん。コウ・スフィリアです」
「は、初めまして!ウィンリィ・ロックベルですっ!」

ピンッと背筋を伸ばして名乗るウィンリィに、コウは笑みを零した。

「んなに緊張しなくていいって」
「だって……こんなに格好いい男の人とは初めて会いましたから…」

そう言って頬を赤らめるウィンリィに、エドが静止する。
当の本人は口元の笑みを深めるだけだった。

「あー…ウィンリィ…すっげー言いにくいけど…こいつ、女だから」

エドが控えめにそう言うと、ブロッシュが大きく頷く。
それを聞いて、今度はウィンリィがピタリと静止した。
返答を求めるように、コウへと視線を向ける。

「俺、こう見えても一応女だから…ごめんな」

曖昧な笑みを浮かべて、コウはそう答えた。
















「ようエド!病室に女連れ込んで色ボケてるって?」

大声でそう言いながら病室に入ってくるヒューズ。
エドがベッドからずり落ちていた。

「ヒューズさん…この奥手っぽい彼には無理ですよ」
「そりゃそうだ。久しぶりだな、コウ」
「久しぶりです」

2・3話すとコウはヒューズの前から下がってエドに近づいた。
ウィンリィとヒューズが挨拶している間にエドに声をかける。

「何か収穫はあったか?」
「!っああ…それなりにな」
「そうか…あんまり無茶するなよ。生身の身体なんだからな」
「わかってるよ」
「ま、言っても聞かないって事はわかってるから無駄だろうけど」

腰に手を当てて溜め息をつくと、コウはポケットから銀時計を取り出した。
その蓋を開くと、時間を確認する。

「そろそろ戻らねぇと仕事が溜まるな…」
「ありがとな、見舞いに来てくれて」
「おぅ。気にすんな。それから……今度見舞いに来た時はアルと一緒に迎えてくれよ」
「…わかった」

そう言うと、コウはエドのベッドの脇から離れた。

「じゃあ、俺は帰りますね」
「もう帰るのか?」
「昼休みは随分前に終わってますからね」

扉に向かおうとしていたコウを、ヒューズが呼び止めた。
コウは足を止めるとヒューズにそう答える。

「今日はうちに来るだろ?」
「今日……ああ、お邪魔しますよ」
今日の日付を思い出すと、コウは頷いた。

それに満足そうな笑みを返すヒューズ。

「エリシアも楽しみにしてるんだ。是非来てやってくれ」
「わかりました。仕事を片付けてからになりますから…ちょっと遅れます」
「ああ。構わん」
「じゃあ、また夜に」

そう微笑むと、コウは病室を出た。
病室の外で待機していたロスに声をかける。

「エドワードを助けてくれてありがとう」
「いえ!私の仕事ですから。それに……」

そこまで話して言葉を濁すロスに、コウは微笑みかけた。

「アイツの怪我は自業自得だ。少尉が気を病む必要はない。実際に命があるのは少尉のおかげだ。
もう大丈夫だとは思うが……アイツらの事頼んだぜ?」
「――――っ承知しました!」

ピッと敬礼するロスに満足すると、コウは廊下を進んでいった。

Rewrite 06.10.15