Raison d'etre sc.023
「…十一番隊第三席、斑目一角様…同じく第五席、綾瀬川弓親様…。
以上二名の上位席官が重傷のため戦線を離脱なさいました…!」
四番隊第三席、伊江村が調査報告を読み上げる。
副隊長らはそれぞれに耳を傾けた。
「各部隊の詳細な被害状況については現在調査中です」
「零番隊の調査によると、十一番隊はほぼ壊滅状態と言って間違いはない」
霧渡が伊江村の言葉に続けるようにそう言った。
彼の言葉に副隊長らの間に同様が走る。
「現在確認されている旅禍は3名…
うち2名は我が四番隊の隊員1名を人質にとり、中央へ移動中との情報もあります…」
自身の判断に任された霧渡は、自分の得た情報を提供しなかった。
必要がないと思った事もあるが、何より紅自身がそれを望んでいないように思ったからだ。
彼女が極囚であるルキアを助けたいと思っていることくらいはわかっている。
霧渡は副隊長であるよりも、彼女の副官であると言う事実を優先した。
「…実言うと、ウチの四席もしばらく前から応答が無いんよ」
「七番隊第四席と言えば…一貫坂慈楼坊で間違いないよな?」
「確かそうよね。『鎌鼬』の」
「おうよ。霧渡、知ってんのか?」
彼らの視線に霧渡は頷く。
「旅禍との接触の後、負傷。現在はすでに四番隊の方へ運ぶよう隊員に指示が出してある。だが…」
「まだ何かあんのかよ?」
「………いや、これは未確認情報だ。確認が取れてからの方がいいだろ」
そう言って霧渡は首を振った。
「鎖結」、「魄睡」への攻撃。
それが意味することを知る霧渡だが、それ以上は話さなかった。
未確認の情報でこれ以上動揺させる事もないだろう。
「騒がしくなってきたな…ったく…」
霧渡は黒い髪に指を通し、無造作に掻き揚げた。
紅が辿り着いた時には、すでに一護たちは地下水路から出てきていた。
直接肌で感じる彼の霊圧がそれを物語っている。
彼女はその身を隠すように屋根の上に飛び乗った。
その場から見下ろした風景には弓親と戦った男、そして四番隊の死神の姿。
そして、一護は ――――。
「恋次……?」
燃えるような髪を持つ恋次が一護と対峙していた。
すでに二人とも戦闘態勢に入り刀を交えている。
ギィンと独特の音が周囲一体に木霊した。
「ここも安全じゃないわね」
そう呟くと、身を翻して屋根から屋根へと跳んだ。
彼らからはある程度距離がある位置 ――― しかし、誰よりも懺罪宮に近い位置に、紅は立つ。
恋次の解放した斬魄刀が、先ほど彼女がいた屋根を大きく裂いた。
「アレを食らったらさすがに無傷ですまないわよ………」
危なかった、と苦笑を漏らす紅。
先ほどまでとは打って変わって一護が押され気味になっていた。
「恋次に勝てないようなら…ルキアを助ける資格はないよ、一護」
その時、一護の鮮血が飛んだ。
恋次の斬魄刀が一護の肩口を深くえぐる。
『恐れるなら刀を持つな』
紅の手から逃れた刀が、地面に深く突き刺さる。
上がった息を整えるようにその場に崩れた彼女に向かって、彼はそう言った。
『恐れは迷いを生み、迷いは己に隙を作る』
彼は紅の刀を抜き、その刃を彼女の肩へと乗せた。
冷たい刃が紅の首に添えられる。
『平穏を求めるならこれを捨てろ。強さを求めるなら…覚悟を決めろ』
言葉はまるで凶器のように、紅の心に深く刻まれた。
抜き身の刃を握り、彼女はそれを受け取る。
傷付けられた手が鮮血を流した。
『出来るなら、己の血は流すな。お前は優しすぎる』
不意に、甦った記憶。
ほんの数ヶ月前の事であるにも拘らず、何故か遠い昔のように思えた。
一護の刀に見える迷いは、まるであの頃の自分のようだ。
斬る事を恐れ、斬られる事に怯える。
どこか自嘲めいた笑みを浮かべ、紅は一護に振り下ろされようとしている刀を見送った。
何故か、一護は大丈夫だと言う確信に似た想いを胸に抱いて。
「…待たせたな恋次…覚悟だ。てめえを斬るぜ」
決して大きくないその声が、紅の耳に届いた。
声と共に跳ね上がった霊圧に、彼女は自身の肩を抱く。
背筋が粟立つような…細胞一つ一つが強者に歓ぶような、そんな例えようもない感情が自身のうちに渦巻いた。
一護の振り下ろした刀からの斬撃が、恋次を打ち破る。
溢れ出る鮮血に崩れ落ちそうになる恋次だが、彼はその足は地を踏みしめてとどまった。
咆哮に近い声を上げる彼。
血の道を作りながらも恋次は一護に歩み寄り、その胸元を掴みあげた。
紅の位置では聞こえない程に搾り出すような声。
「…黒崎…恥を承知でてめぇに頼む…!!…ルキアを…ルキアを助けてくれ…!!」
その声だけは、紅の元にもしっかりと届いた。
ゆっくりと崩れ落ちていく恋次に紅は地面を蹴る。
「――― 恋次っ!!!!」
「…紅…」
意識を手放す寸前に、恋次は彼女の姿を捉え、名前を呼んだ。
地面にどんどん血だまりが広がっていく。
紅は恋次から数メートルの位置に降り立った。
彼女の栗色の髪が、ふわりと風に揺れた。
そして、紅が顔を上げる。
「…紅………」
Rewrite 05.11.11