Raison d'etre sc.020
「霧渡!!樋渡!!」
「はい!」
「隊長、お呼びですか」
守護配置付近に着くと、紅は部下の名前を呼んだ。
全員呼んでいる暇はないので、特に彼女が信頼している二人。
すぐに姿を現す二人に向けた視線に、いつもの柔らかさはなかった。
そんな紅の眼を見て、二人は瞬時にそれを判断する。
「旅禍が近づいてるわ。恐らく遮魂膜を抜けてくる。かなりの霊力が込められているわ。
樋渡、それについて何か情報は?」
「志波空鶴という花火師なら…霊力の高い者さえ集めれば、強固な砲弾を仕上げる事は可能です」
自身の記憶の引き出しを探り当て、樋渡はそう進言した。
その答えに紅は満足げに頷く。
「…志波空鶴……聞いた名前ね」
「瀞霊廷の外では有名のようです」
「じゃあ、その空鶴の砲弾と考えてもよさそうね」
そうしている間に、上空の砲弾が遮魂膜にぶつかる。
本来、霊力を完全に遮断するはずの遮魂膜は霊力を完全に分解してしまう。
しかし、それは消滅することはなかった。
「そんな…っ!!遮魂膜に衝突して消滅していない…!?」
「それだけの密度を持っていると言う事ね。今回の旅禍…侮れないわ」
留まっていたそれが、4つに弾け飛んだ。
同時に、紅は瞬時にそれらの霊力を推し測る。
「右は霧渡!単独で旅禍の追跡。接触は禁ずるわ。動きがあれば私の所まで報告に」
「はい!」
紅が叫ぶと、霧渡が即時に返事を返す。
彼女はすぐに左へと飛んだ軌跡を見つつ、樋渡へと同様に指示を飛ばした。
「樋渡は左へ!霧渡に同じく」
「はい!」
樋渡の返事を聞き、紅は残りの二つを見つめる。
「以上。深追いする必要はないわ。己の身が危険だと判断すれば退きなさい。…気をつけて」
「「はい!隊長もお気をつけて!」」
そう言うと二人が同時に屋根へと飛び上がった。
紅はその背中が見えなくなると、いつの間にか集っていた隊員の方を振り向く。
「己の判断でそれぞれの配置を離れ過ぎずに行動して。同時に情報の収集も怠らないように」
その指示を最後まで聞くと、隊員は各々配置へと消えていった。
全員がその場を離れた事を確認して、…紅は再び空に視線を上げる。
「霧渡の方は二人。片方はおそらく滅却師。もう一人は…あの時の彼女ね」
そう言って、紅は白道門の時の女性を脳裏に浮かべる。
織姫の姿を。
「樋渡の方は…チャドだったわね。懐かしい名だわ。彼なら…無闇にあの子を傷付けたりはしないはず」
彼の優しさは知っている。
何より、彼は己の為にその拳を使ったりはしない。
―― チャドは一護の為に、一護はチャドの為に。
それぞれの守りたいモノを、命をかけて守ると。
交わされた約束を、彼らは今でも心に残しているのだろう。
実力的に霧渡に劣る樋渡も、恐らく大丈夫だと判断して、彼の追跡に向かわせた。
「さぁ…私も行かないとね」
覚悟を決めたように前方を見つめ、揺れていた髪を一つに束ねた。
自由に揺れていた栗色の髪が、細い紐によって動きを制限される。
風が、吹く。
強く……全てを吹き飛ばすように。
そして、それが治まった時……紅の姿はどこにもなかった。
Rewrite 05.11.09