Raison d'etre sc.018
共に執務室を後にしようとした紅と日番谷を霧渡が呼び止める。
「隊長、少し」
内容は言わずにそう声をかけた彼に、紅は日番谷に先に行くよう告げる。
その背中を見送って霧渡の言葉の続きを待った。
「一番隊副隊長から預かりました」
渡されたそれを開き、中に書かれた文字を拾い上げる。
ふと眉を寄せた紅に、霧渡は首を傾げて問いかけた。
「厄介ごとですか?」
「一番隊からの書がいい物だった事なんてないわね」
ふぅ、と息を吐き出し、紅はそれを折りたたんで死覇装内へと納める。
そして、どうするべきかと行動を見失っている様子の霧渡を振り向いた。
「…副隊長らの招集があるわ。零番隊副隊長もそれに参ずるように、だって」
「わかりました。……いいんですか?」
「いいんじゃない?零番隊が極秘を担当するとは言え、割と有名だし」
基本的に他の十三隊とは別行動が常の零番隊である。
本来ならば彼らと顔を合わせることも皆無。
まぁ、今までの零番隊よりも若干…ではなくかなり他の隊と交流している事は否定しないが。
隊長が隊長なのだから…こればかりはどうしようもない事だろう。
「そんなに気にせずに、挨拶がてら参加してくればいいわ。どうせくだらない話ばかりでしょうけど」
苦笑に似た笑みでそう言うと、紅は「はい」と副官章を彼に差し出す。
彼女の手に乗った、未だ使われた事のないそれを見下ろす霧渡。
「…つけるんですか?」
「嫌ならいいわ。って言ってあげたいところだけど…残念ながら強制」
そう言って紅は霧渡の手を引いてその上に副官章を乗せる。
不満げに眉を寄せるのを気にせず、紅は出口へと歩き出した。
霧渡も仕方なく副官章を腕につけて彼女に続いた。
今まで何度と通った一番隊の扉。
その扉を、紅は両手で押し開けた。
「私だけ先に、とは…何か問題でも?」
紅は椅子に腰掛ける総隊長に言った。
「うむ。こっちに来てくれるかの」
「…何用でしょうか?」
「旅禍のことじゃが…。市丸から何か聞いておるかと思っての」
「市丸さんから…?私は何も聞いていません」
総隊長からの質問の意図が読めず、紅は内心首を傾げながらもそう答えた。
そんな彼女の返事に彼は頷く。
「そうか。おぬしが市丸と会っていたと言う声が上がっておる」
「…確かに私は彼が旅禍と接触してから会いました。ですが…詳しいことは何も聞けていません」
「ならば、よい」
聞きだすつもりではなかったのか、紅が市丸と通じているとは思っていなかったのか。
どちらにせよ、総隊長は紅にとっては好都合な程にあっさりと引いた。
隊首会は間もなく始まるからここに残ればいい、と言う彼の申し出を受ける。
「わかりました」
紅は頭を下げると、総隊長の隣に立った。
そこが、零番隊隊長である紅の定位置である。
扉が開き、次々に隊長が集まってきた。
「…来たか。さあ!今回の行動についての弁明を貰おうか!
三番隊隊長 ―――― 市丸ギン!!!」
「何ですの?イキナリ呼び出されたか思うたら、こない大げさな…。
尸魂界を取り仕切る隊長さん方がボクなんかの為にそろいもそろってまぁ…。
零番隊長さんまでお見えですの?珍しいなぁ。他の隊長さん方と一緒に隊首会に参加しはるなんて」
紅は市丸を一瞥すると、すぐに目を閉じた。
それに気を悪くした様子もなく、市丸は並んだ隊長らを見る。
「皆さんおそろい…―――でもないか。
十三番隊長さんがいらっしゃいませんなァ。どないかされはったんですか」
「彼は病欠だよ」
答えたのは九番隊の隊長。
彼の返事に市丸は驚いた風な表情を見せる。
「またですか。そらお大事に」
市丸の言葉は気に触るものだったらしい。
次に声を上げたのは十一番隊の隊長、更木。
「フザケてんなよ。そんな話にここに呼ばれたと思ってんのか?てめぇ、一人で勝手に旅禍と遊んできたそうじゃねえか。
しかも殺し損ねたってのはどういう訳だ?てめぇ程の奴が旅禍の4・5人殺せねえ訳ねえだろう」
「あら?死んでへんかってんねや?アレ」
「何!?」
「いやァ、てっきり死んだと思っててんやけどなァ。ボクの勘もニブったかな?」
更木が口を出したことにより、涅まで口をはさみ始めた。
すでに収拾がつかなくなり始めている。
紅は溜め息をつくと少し身体をずらし、総隊長に近づいた。
「よろしいのですか?あまり時間に余裕はないかと思われますが」
「そうじゃのう…」
その反応を見て、紅は大人しく下がる。
「ぺいっ!」
「「「!!」」」
「やめんかい、みっともない!更木も涅も下がらっしゃい!」
総隊長の声によって、無駄な言い争いが終わった。
三人が離れたのを見越して、総隊長が言葉を続ける。
「…じゃがまあ、今のでおぬしがここへ呼ばれた理由は概ね伝わったかの。
今回のおぬしの命令なしの単独行動。そして標的を取り逃がすという隊長としてあるまじき失態!
それについておぬしからの説明を貰おうかと思っての。
そのための隊首会じゃ。どうじゃい、何ぞ弁明でもあるかの。市丸や」
総隊長の静かな圧力が、部屋の中を占める。
紅は静かに目を閉じ、市丸の答えを待った。
Rewrite 05.11.07