朱の舞姫

―――なぁ、銀時。
―――ん?
―――戦争が終わったら、何する?

小高い丘に腰を下ろし、爽やかな風を頬に感じながら、暁斗と銀時は静かな時間を過ごしていた。

―――そうさなぁ…適当に、のんびりやるか。

今が天人との戦争中だと忘れさせるような、のんびりした返事だ。

―――お前は?
―――俺は…どうしようかな。これ以外に生きる道なんて知らないからな…考えたこともない。

いっそ、戦いの中で潔く散っていきたい。
そんな風に、冗談とは思えない口調で笑った暁斗。

―――馬鹿言ってんじゃねーよ、お前。それ以外の道なんて、周りを見ればごまんと転がってるだろーが。
―――…そうかな。
―――とりあえず、馬鹿みたいに笑って過ごせよ。

真剣な顔をした銀時に、そうだな、と頷く。
笑って過ごすことなんて…当の昔に、諦めてしまっていたのに。
そんな風に過ごせる日が来るんだろうか。
暁斗は静かに目を伏せた。







「………懐かしい夢だなぁ、おい」

目を開いた先にあるのは見慣れた天井だ。
親近感すら覚えるシミを見つめながら、銀時は未だ眠そうな目を半分ほど閉じる。

「……笑って過ごしてんのかー…馬鹿野郎」

ここにいる誰に向けた言葉でもないけれど、それを向けたい相手は居る。
思い出すのは、何年ぶりだろうか。
そう考えた所で、馬鹿馬鹿しい、と首を振った。
何年、なんて単位ではない。
月に何度かはその存在を思い出すのだから。
こんな風に夢に出てきたのは、それこそ何年ぶりの話だけれど。
何故、今頃になってこんな夢を見るのか…。
考えた所で、あぁ、と納得する。
これはきっと、神楽と新八の所為だ。
あの二人が出会ったという女性の話を聞いて、暁斗を思い浮かべてしまったから。

「…恋焦がれ…か」

そんな感情はないと言い切れる。
あの目が真っ直ぐに見つめている先に居る人物を知らなかったわけでもあるまいし、無駄なことはしない。
しかし…それに近い感情を抱いていたことも、否めない事実だった。

「男装なんてしやがるから、余計にややこしいんだっつーの」

男じゃないとわかっているのに、男を装う暁斗。
そんな姿に、より一層『女』を感じたのだろう。
あの頃は男ばかりのむさ苦しい場所に居たから、余計に彼女の存在が強調されていた。
他に気付いていた…いや、知っていたのは、恐らく高杉だけだろうけれど。


頭の下で腕を組み、ぼんやりと天井を見上げる。
何をしたいわけでも、何を言いたいわけでもない。
ただ―――彼女が笑っているのか、確かめたかった。

「会いてーのかね、俺は」
「銀さーん。そろそろお登勢さんが来ますよ。起きないと知りませんからねー」

呟いた声に答えてくれる人は居ない。

















「…またどこかに行くのか」

着物の帯を調えていると、後ろから声がかかった。
振り向くまでもないけれど、会話の時には目を合わせたい。
指先は帯にかけたままの状態で、紅は声の主を振り向いた。

「町へ出てくるわ」
「物好きな奴だな、お前も。わざわざ天人の溢れる町中に出て行く必要があんのか?」
「…ここへは遊びに来ているわけじゃないから」

一日中ここから出ないこの男にそれを言っても仕方がないかもしれないけれど。
面倒がりと言うわけでもないのに、一歩も外に出ようとしない彼。
手配書に載るほどの人間なのだから、ある意味では不用意ではないことを喜ぶべきなのかもしれないが。

「真選組の話を聞いてこようと思って」
「祭りのか?」
「そう。警護の様子でもわかれば参考にはなるでしょう?」

尤も、将軍の警護なのだから、その人数は半端ではないだろう。
知る必要はないかもしれない。
寧ろ、そんな事よりも彼らの常識を覆すような戦法が必要だろうか。
髪を結い上げながら、紅はそんな事を考えた。
そんな彼女に視線を向け、高杉は煙管を吸う。

「平賀源外を探しておけ」
「平賀…あぁ、三郎の。その人が何か?」
「江戸一番の発明家だ」

それ以上答えようとしない彼を見ると、自分で考えろ、と言うことだろうか。
紅は静かに溜め息を吐き出す。
正直、身内の情を使った方法と言うのは、あまり気分の良いものではない。
彼の作戦を理解した紅は、微妙な表情を見せた。

「気に入らねェか?」

そんな反応をするとわかっていたかのように、彼はクッと口角を持ち上げる。

「反対はしない」
「賛成もしない、っつーことか」
「…………………」
「まぁ、いい」

高杉は会話に興味を失ったのか、肌蹴た着流しの上から羽織を纏って再び煙管に火をつけた。
彼は、紅がどう思っていようが突き放したりはしない。
その代わり、紅もまた、賛同できなくても邪魔はしない。
賛同できなくても、彼女が離れていく事はありえないという自信からなのだろうか。
紅は自由だった。

「…昼前には帰るわ」

返事の声はないが、代わりに軽く腕を持ち上げる彼。
それを見届けて階下へと続く階段を下りていく。
外に出た所で笠を被り、見下ろしてくる太陽を仰いだ。
朝の日差しはそう眩しくはないけれど、時間が経てば目を刺激する光となるだろう。
軽く目を細め、まずは、と一歩を踏み出した。

09.01.07